表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

未確認

「鰐蛇の事、詳しく聞かなくてもよかったんですか?」

ロムが不思議そうにレイナに尋ねる。

「いいのよ。多分、見たら全てが判ると思うから。」

地図の印を指でなぞりながらレイナが答える。

「それに、一番聞きたかった情報は行動範囲だから。これが判れば、皆に警告できるでしょ。」

「なるほど。」

「私たちは、どうせ戻ってくる鰐蛇を倒せばいいだけ。でしょ。」

「そうですね。」

「じゃあ、洞窟の入り口まで行きましょうか。」

ロムは頷いてレイナについていく。

「さて、今回のお仕事の〆、行きますか。」

レイナとロムの二人は洞窟の入り口へ戻ってきた。

「もう暗くなってきてますね。」

ロムの言う通り、空はすでに夕焼けを通り過ぎていた。

「もうそんな時間なのね。」

レイナは洞窟を出て周囲を確認する。その時ふと思い出した。

「そういえば、ここに入る前に懲らしめた野盗達はどうなったかしら。」

野盗のいた方面へ視線を向けるが、周囲も暗くなってしまったせいか見通す事が出来ない。

「見に行ってみます?」

ロムが提案するが、レイナは少し考える。

「鰐蛇が先だけど、気にはなるわね。巻き込むわけには行かないし。」

「それでは、私がここで見張ってますから、レイナが見に行くというのは?」

ロムの言葉に頷くレイナ。

「じゃあ、ちょっとお願いね。」

レイナは、ロムに手を降って野盗と出会った場所へ向かった。

森を少し歩いた所で、レイナはうごめく4つの影を見つける。

「まだやってたのね。」

その陰の正体は、レイナの探していた野盗達だった。

「あ、あなたは。」

野盗達が問い掛けるが、レイナは話を続ける。

「緊急事態なの。」

そう言って、野盗の足元に魔法をかける。すると、野盗の体が徐々に浮かび上がっていく。

「な、なにを?」

「言ったでしょ、緊急事態なの。今から安全な場所へあなた達を飛ばすわ。」

「安全な場所?」

「飛べば判るわ。その前にちょっと教えて。あなた達の言う鰐蛇はどこに行ったか判る?」

急かす様に野盗達に尋ねるレイナ。状況が飲み込めないまま野盗達は答える。

「鰐蛇なら、さっき森の奥に餌を食べに行ってましたよ。」

森の奥を指さす野盗の一人。

「どれくらいで帰ってくるの?」

「もうすぐ帰ってくると思いますよ。」

「ありがとう、じゃあ安全な場所へ飛ばすわ。」

「え?」

聞きたいことは全て聞いたレイナは、野盗達の言葉が終わる前に野盗達を安全な場所に飛ばしていた。

飛ばされた野盗達が地面に尻もちをつく。

「ここは・・・?」

周囲を見渡す野盗達、目の前に人が驚いた顔をして立っている。

「お前ら?!」

「お頭?!」

飛ばされた先は、ゴルガのいる場所だった。

「どうやってここへ?」

「変な女に飛ばされてここへ・・・。」

変な女という言葉で、全てを理解するゴルガ。

「なるほどな。とにかく今は逃げるぞ。」

ゴルガは野盗達に逃げるように指示する。

「あの女は一体、それにこれはどうしたんです?」

「あの女は、黒衣の英雄レイナだ。」

「れ・レイナ?!」

ゴルガの言った女の名前に驚く野盗達。

「全く、何であんな英雄様がこんな所に来たんだか。」

大きくため息をつくゴルガ。その後、野盗達に今から起こることを説明し始める。

「その英雄様がこれからこの森を戦場にするんだ。巻き込まれて死にたくはないからな。」

ゴルガは飛ばされた野盗を引き連れて森から離れていった。


「ロム、戻ったわ。もうすぐ帰ってくるみたいね。」

鉱山の入り口で待っているロムに手を振って、自分の無事を伝えるレイナ。

「そうですか。では、こちらも準備が必要ですね。」

「そうね。ちょっと準備しましょうか。」

レイナは剣を取り出し、呪文を唱え始める。

「今度は、しっかりと準備しないと。」

呪文を唱え終わると、剣は淡い光を放ち始める。

「ロム、ちょっとこっち来て。」

レイナは手招きをしてロムを呼ぶ。

「どうしました?」

「ここに立ってくれる?」

レイナが自分の足元を指さしてロムに指示する。

「はい。」

指示された場所にロムが立つと、レイナが一歩後ろに下がる。

「えい!」

レイナはロムの目の前に剣を突き立てる。剣からは光が広がり、二人を包み込んだ。

「これでよし。さ、攻撃も防御も準備完了。いつでも来なさい。」

ロムも、ローブから木の棒を取り出す。木の棒もレイナの剣と同じく淡く光っていた。

「ところで、ずっと気になってたんですけど。」

ロムは改まってレイナに尋ねる。

「どうしたの?ロム。」

「今までのもそうなんですけど、この強化の魔法とか名前はあるんですか?」

「名前?無いわ。」

率直に答えるレイナに、ロムは少し驚く。

「え?無いんですか?」

「魔法に名前を付けると、便利な魔法ばかりを使うようになっちゃうからね。」

「確かにそうかもしれませんが、何か問題があるんですか?」

「私のように自由に魔法を作れる者にとっては、魔法の名前は足枷でしかない・・・パパの受け売りだけどね。」

手を伸ばして人差し指で空中をなぞるレイナ。なぞった後には光が数秒残っていた。

「せっかくこの力があるんだから、いろんな事を試さないと楽しくないじゃない。だから、パパの言葉には賛成。」

「でも、レイナの魔法も、名前があれば他の人にも・・・って。」

「そう、名前がないとその魔法は簡単には使えない。名前を付けない事には、こういう利点もあるの。」

魔法は名前がその効果を表すことが多い。故に、名前が付くからこそ万人が使えるようになる。

「まあ、私の魔法を見て、何をどうやったのかが判れば、勝手に名前を付けて広めてもらっても構わないけどね。」

「出来るなら・・・ですよね。」

「そういう事。」

「そんな事が出来るのは・・・。」

レイナが指折り数える。

「私の知る限り四人ぐらいかな。」

「四人もいるのですか・・・」

レイナと同じぐらいの力の持ち主が少なくともあと四人いる。それだけでも脅威に違いない。

幸いなことに、それらは全員まだ友好的であるという事だった。

「それにしても、鰐蛇はまだかしら。」

「私たちがここに居るから、警戒してるとか?」

「警戒・・・ねぇ。」

人影の模倣体がそれなりの知恵を持っていたため、少し不安になるレイナ。

「少しサーチしてみましょうか。」

レイナはロムに松明を手渡し、剣を両手に握りしめる。

その両手に持った剣を森の樹々に向けゆっくりと横に振る。

すると、目の前の樹々はそれに合わせたかのように切り倒されていった。

「レイナ、それはサーチというより、殲滅じゃないんですか?」

目の前の光景を見ていたロムが感想を言う。

「立派なサーチよ。サーチのついでに倒せてればなお良しって話。」

笑いながらレイナは答える。

「レイナぐらい強い人じゃないとできないサーチですね。」

「でも、相手はしっかりと避けたみたいね。」

レイナは切り倒された樹の陰に動く黒い何かを見つける。

ロムは黒い何かに向けて松明を投げつける。

黒い何かは松明を素早く避けたが、松明の炎が黒い何かの姿を浮かび上がらせた。

「鰐ね。」

「蛇ですね。」

黒い何かを見たレイナとロムが同時に違う名前を口にする。

「え?」

「はい?」

鋭い歯を持ち、背中にゴツゴツとした突起物が見えたレイナは鰐と称した。

一方、流線形の丸い頭と、長い尻尾と体を覆うウロコを見たロムは蛇と称した。

「なるほど、だから鰐蛇ね。」

地面に落ちた松明の炎が、周囲の切り倒した木に燃え移り、鰐蛇の姿を照らし出した。

鰐蛇は炎を器用によけながらレイナ達に向かって地面をにじり寄ってくる。

手足は無い様だが、口は人を丸のみにできるぐらいの大きさがあり、体長はレイナとロムを合わせてもまだ長い。

「レイナ、見たことあります?」

「初めて見るわ。そっちの大陸にはいたの?」

「見たことも聞いたこともありませんね。」

「この大陸も広いからね、未発見の動物かなんかも居るかもしれないけど・・・。」

レイナは剣を片手に持ち替え、構えを取る。

鰐蛇は完全にこちらを敵として認識したようで、口を開け威嚇している。

「可哀想だけど、相手もやる気だし、このままって訳にもいかないわね。」

ロムは頷き、手を組んだ。そしてほんの少しだけ目を閉じ、神に祈る。

「レイナ、やりましょう。なるべく苦しまないように。」

ロムの言葉に、レイナはゆっくりと頷いた。

初めに動きを見せたのは、鰐蛇の方だった。大きな口を開けてロムに飛びかかる。

「この!」

ロムが鰐蛇の顔めがけて木の棒を振り抜く。木の棒は鰐蛇の頭をとらえ、そのまま倒れた木に鰐蛇を打ち付けた。

が、鰐蛇が倒れた木に触れた瞬間、勢いを利用して体を木に巻き付けそのまま地面に軟着陸する。

「意外と器用ね。」

一連の動きを見てロムは少し後退りする。その隙に鰐蛇は再びロムに襲い掛かる。

「危ない!」

レイナが鰐蛇の口に剣を突き立てようとするが、その剣を鰐蛇は飲み込もうとする。

その気配を察してレイナは剣を手放すが、鰐蛇の方が動きが早く、レイナの手に噛みついた。

「レイナ!!」

鰐蛇がレイナの手に噛みついたまま後ろに下がる。その動きに、レイナは涙を浮かべながら合わせる。

「だ、大丈夫。」

レイナは左手で鰐蛇の頭を掴むと、少し力を込めた。次の瞬間、鰐蛇の口は大きく開かれる。

開いた口から右手を抜き出す。手首からは血が流れていたが、致命傷となる深さではないようだ。

「レイナ、大丈夫ですか?」

「ええ。防御魔法が効いてたから大丈夫。でも、やっぱり痛いわ。」

左手で傷口を押さえるレイナ。しかし、目線は鰐蛇を追っている。

「武器、取り返してきます。」

ロムが鰐蛇に飛びかかる。鰐蛇はその動きに合わせて体をくねらせて避けようとするが、さっき飲み込んだ剣が体の動きを制限する。

「レイナの武器、返してもらいますよ!」

ロムは鰐蛇の動きが制限された場所に木の棒を振り下ろす。飲み込んだ剣が食い込むのか、奇妙な声を上げて鰐蛇の動きが止まる。

そして、同じ場所をもう一度攻撃するロム。すると、鰐蛇の体から剣の先が顔を出した。

「ロム、ありがとう。少し下がって!」

レイナの言葉に従い、ロムは後ろの下がった。すっかり動きが鈍くなった鰐蛇に左手をかざすレイナ。

次の瞬間、頭を出していた剣が指輪に戻り、レイナの左手に収まった。

「まだやる気かしら?」

レイナは鰐蛇を見る。鰐蛇は少しづつ森の方へ逃げようとしている。攻撃の意思も見られない。

「・・・レイナ。」

「あるべきところに、帰してあげなきゃね。」

ゆっくりと鰐蛇に近づくレイナ。覚悟を決めたのか、鰐蛇はレイナを睨みつけたまま動かない。

「じっとしててね・・・。グランドライト。」

レイナは鰐蛇から剣を取り出した場所に左手をあて、回復魔法を唱える。

「後は、あなたの記憶の中の場所に帰りなさい。」

不意に痛みが無くなった鰐蛇が不思議そうにレイナを見る。が、レイナの姿はそこには無かった。

鰐蛇が見ているのは、鬱蒼と樹木が生い茂る風景だった。さっきまであった炎の跡もない。それどころか炎がなくても周囲を見渡せるぐらい明るい。

しばらく周囲を見渡して、鰐蛇はここが故郷であることを悟った。そして、そのまま風景に溶け込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ