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お届け物

雲一つない青空の下、草原の街道を歩く女性が一人。

その女性は、黒い髪を肩まで伸ばし、吸い込まれるような黒い瞳を持っていた。ローブを着こんでいるその風貌から、魔法使いと思われる。

「この辺りは、まだ整備されてる方なのね。」

そうつぶやく女性だが、その街道の整備は十分に行き届いていないようで所々石畳が壊れている。

しかし、街道側にナイフやら焚火の跡が所々にあるところを見ると、人の行き来はあるようだ。

そんな周囲の景色を楽しみながら、女性は石畳の上を歩いている。

「それにしても、回収もしなきゃならない対策品、これの回収も私の仕事になるのよね。」

ため息交じりに女性がつぶやく。

「レイナさん、そんなこと言ってると報酬の査定に響きますよ。」

どこからともなく声が聞こえる。声はレイナと呼ばれた女性の左手の人差し指に着けている指輪から聞こえてきた。

「この仕事、パパの依頼じゃなかったらやってないわよ。」

気にすることなく歩きながらその声に応えるレイナ。

「仕方ないですよ、ギルド指定依頼なんですから。」

「全く、いくらギルド創設メンバー特権だからってこんな依頼に巻き込まないでほしいわ。」

レイナはため息交じりに不服を漏らす。

「でも、報酬はちゃんともらうんですよね。」

「当り前よ、冒険するには先立つものがいくらあっても足りないんだから。」

「なら、しっかりやりましょうね。」

「はぁ・・・。」

丸め込まれた感のあるレイナ、どうやら指輪は通信機のような役割を果たすようだ。


街道をしばらく歩いていると、道しるべが立っていた。そこには、目的の村の名前とおおよその距離が書いてある。

それによると、このまま歩いていても今日中には辿りつけそうにない。

「野宿はやだなぁ。」

昼食を取ってから、随分と時間がたっている。真上にあった太陽も、今は随分と傾いている。

本来なら、日が傾く前に野宿なりの決断をするのだが、レイナはそんなことは気にしていない。

「じゃ、ちょっと急ごうかな。」

レイナは立ち止まって少し目を閉じて呟く。その呟きが終わると同時にレイナの手に杖が現れた。

「これも着けとかないとね。」

思い出したかのように、道具袋からゴーグルを取り出し、それを装着する。

「よいしょっと。」

杖にレイナがまたがると、その杖を起点に体が宙に浮いていき、5mほど浮かんだところで止まった。

「高く飛んじゃうと、村を見落としちゃうからね。」

「あれ?レイナさん、なんで魔法で飛べるのにわざわざ街道歩いてるんですか?」

また指輪から声が聞こえる。レイナは、その指輪に答えながら、ゆっくりと杖を前進させる。

「私、歩きながら景色を見て回るのが好きなのよ。それにしても、今日はギルドは暇なの?」

「私は特別な依頼のサポートですから。忙しかったら大変なことになってますよ。」

「それもそうね。じゃあ、ちょっと急ぐわ。」

レイナは、指輪との会話を切り上げて、杖を両手で持つ。そして、一気にスピードを上げた。


空飛ぶ杖のおかげで、日が落ちる前に村にたどり着けたレイナ。

「ここの場所も覚えたから、次はもっと早く来れるわね。」

村の境界を示す木製の柵と門の前で、レイナはゴーグルを外し、杖を片付け、手櫛で髪を整える。

準備が出来たところで、レイナは門を開け、村に入った。

「えっと、ここの村長さんはどこかな?」

周囲を見渡すレイナ、小さい家と畑が広がるのどかな場所だ。時折、家畜や鳥の鳴き声も聞こえてくる。

「今日はここで宿泊ね。その前にお仕事終わらせなきゃね。」

夕暮れも近いためか、周囲に村人の姿はない。

「とりあえず、そこら辺の家の人に話を聞くのが早いわね。」

窓から明かりの漏れる家を探して、レイナは家のドアをノックする。

「すみませーん、ちょっといいですか?」

「はーい。」

家の中から女性の声が聞こえ、ほどなくして扉が開いた。

「あ、お忙しい中すみません。この村の村長さんの家を探してるんですが。」

「村長の家ですか?ここをまっすぐ行った白い壁の家ですよ。」

レイナよりも少し年上の女性が、指をさす。その方向に、白い壁の家が見えた。

「あそこですね、ありがとうございます。」

「いえいえ、どういたしまして。」

村長の家がわかったレイナは、さっそく教わった通り、白い壁の家に向かった。


「ここね。」

白い壁の家についたレイナ、家のドアをノックする。

「すみません、冒険者ギルドから来ました。レイナと申します。」

「え?ギルド?レイナ?」

中から慌てる声が聞こえる。

「ちょ、ちょっと待ってください。今開けます!」

ドタバタと慌てる音が聞こえたかと思うと、ドアが勢いよく開く。

「れ、レイナって、あのレイナさんですか?」

初老の男性がドアを開けた勢いそのままでレイナに問いかける。

「あのレイナさんがどのレイナさんか、ちょっと判りませんが、レイナです。」

にこりとレイナが笑顔を見せる、その姿を見て男性はさらに驚く。

「黒衣の英雄、レイナ様ではないですか!!」

そういわれて、レイナは顔を赤らめる。

「いえいえ、そんな風に呼ばないでください。今の私はただの冒険者レイナですから。」

「そう言われましても、英雄様には違いありません。」

男性は頑なにレイナを英雄と呼びたがる。

「うーん、そう言われるのはちょっと好きじゃないんですよ。」

「そうですか、では、レイナ様と呼ばせてください。」

「それならまぁ・・・。」

仕方なく妥協案に乗るレイナ。

「ところで、あなたが村長さんですか?」

「は、はい。私が村長です。しかし、ギルドから使いが来ると聞いていましたが、まさかレイナ様とは。」

レイナの質問に答える村長。

「そうそう、この支給品を持ってきたんです。」

腰につけている道具袋から箱を数個取り出す。

「これは?」

村長が箱を手にして質問する。

「最近また出没している、黒きモノへの対策品です。」

「黒きモノですか・・・この村にも現れて被害を受けました。また出たのですか?」

黒きモノという単語を聞いて、村長の声のトーンが少し下がった。

「ええ、この辺りにはまだいないようですが、いつ来るかわかりません。ですので、これで自衛をお願いします。」

村長は箱を開けようとしていたが、開く様子がない。

「どう使うのですか?」

「黒きモノにその箱ごと当てれば、箱の中身が黒きモノを抑え込みます。後はギルドに連絡が入りますので、直ぐに腕利きの冒険者が黒きモノの撃退に来ます。」

「それは心強い。」

ほっとした表情を見せる村長。

「というわけで、これで私のギルドのお仕事はおしまいです。」

ギルドの仕事が終わったレイナはにっこりとほほ笑んだ。

「で、村長さんに一つ聞きたいのですが。」

改まってレイナが村長に尋ねる。

「何でしょう?」

何でも答えるという表情をしている村長。

「この村の宿屋はどちらになりますか?今日はもう遅いので一泊して帰りたいのですが。」

「・・・宿ですか、でしたらこの家から出て西の方に民宿があります」

レイナの質問に数秒考えて言葉を出す村長。

「よかった、今日は野宿かと思ってたんですよ。」

心底ほっとした感じで答えるレイナ。

「しかし、何分小さい村ですのでレイナ様に御満足いただけるか・・・。」

「気にしないでください。魔法で雨風をしのぐ必要がないだけでも十分ですから。」

村長に笑顔を向けるレイナ、雨風しのげれば十分というのは心からの言葉だ。

「それでは、私はこれで。」

「何のお構いもできずに。」

「いえいえ、それでは。」

「また、いつでもいらしてください。歓迎します。レイナ様。」

家の外で、深々と頭を下げる村長に見送られながら、その場を後にするレイナ。外はすっかり暗くなっていた。

道沿いに点々と置かれている魔法の街灯が、ぼんやりと周囲を照らしていた。

宿に向かう道すがら、村長の姿が見えなくなったところで、レイナはぼそっと呟く。

「有名って、やっぱり面倒ね。」


村の宿屋に着いたレイナ、食事と入浴も済ませ、部屋で一息つく。

「ふぅぅぅ・・・。今回も無事完了。最近は張り合いがない依頼が多いのは、世界が平和な証拠ね。」

大きく伸びをするレイナ。

「でも、少し物足りないかな。」

左手の人差し指につけた指輪を右手の人差し指でそっと触れる。その瞬間、少し指輪が淡く光った。

「ちょっと、聞こえる?」

指輪に向けて問いかけるレイナ。

「はい、こちら冒険者ギルドのアンナです。何ですか?レイナさん。」

指輪が応える。冒険者ギルドの受付に繋がったようだ。

「あれ?アンナ、昼間も私と話してなかった?まだ仕事してたの?」

「ええ、交代の子がちょっと来られなくなってしまって。」

指輪から聞こえる声は、昼間とは違って、少しトーンが低い。ちょっと疲れが出ているようだ。

「そうなんだ。お疲れ様。」

「ありがとうございます。で、一体どうされました?」

「そうそう。この周辺で何か私にできそうな依頼ある?」

「まだ依頼を受けてくれるんですか?」

先ほどまでの疲れた声と打って変わって、嬉しそうな声が指輪から聞こえる。

「ええ、最近ギルドの依頼受けて無かったからね。ちょっと手応えのある依頼でもいいわよ。」

「そう言ってくれるとギルドとしては助かります。でも、今レイナさんのいるエリアでは無いですね。」

「やっぱり、この辺りは平和だものね。」

想像していた通りだったのか、レイナは少し残念そうに応える。

「そこから少し離れたところになら、ちょっと手ごわい依頼があります。でも、レイナさんならすぐに行ける場所ですよ。」

「え?それって、どんな依頼?」

「野盗討伐、場所は鉱山と森の街です。依頼者は教会のシスターですね。」

「確かに、直ぐに行ける場所ね。おまけに顔見知り。」

依頼の内容を聞いて、思わず笑みがこぼれるレイナ。

「何度も行っていただいてる場所ですから、依頼内容以外は問題ないですね。」

指輪から聞こえる声は、レイナを信頼しきっている感じが伝わってくる。

「依頼内容は野盗討伐、詳細は現地で確認って事ね。」

「はい、現地の依頼者に確認してください。」

依頼内容をメモしているレイナ、そこでふとした疑問が浮かぶ。

「それにしても、この依頼内容と報酬だと、すぐに無くなるタイプの依頼だと思うんだけど。」

野盗討伐は、冒険者ギルドに依頼される内容でもメジャーで、かつ早く解決してもらいたいため報酬も高くなる傾向にある。

「多分、場所が問題だと思います。強力なモンスターがうろついている場所ですし、並の冒険者は安全を取って受けないんでしょう。」

冒険者は体が資本だ、身の丈に合わない依頼を受けるのは怪我の元になる。

「まあいいわ、じゃあこの依頼は任せといて。」

「それでは、お願いしますね。」

その会話後、ギルドとの通信は切れた。

「じゃあ、出発は明日ね。」

そう言ってレイナはベッドに潜り込み、寝息を立て始めた。


朝告げ鳥の鳴き声で目が覚めるレイナ。ベッドから起き上がり、窓にかけたカーテンを開けると、朝日が目に飛び込んでくる。

「今日もいい天気。」

窓越しに雲一つない空を見ながら、レイナは伸びをする。

「さて、準備しましょうかね。」

洗面所に行き、そこに置いてある水の溜まった樽から、柄杓で水を掬い、手洗い桶に移す。

手洗い桶に移した水を手で掬い、顔を洗う。冷たい水がレイナの目を覚ます。

「ふぅ。」

一度桶の水を流し、新しい水を入れ、それに手をかざす。

すると、その水が波打ち始め、少しの粘性を持ち始めた。どうやら、保湿用のローションに変化しているようだ。

「今日もちゃんとできた。」

そのローションを手に取り、顔に塗り込む。それと同時に手にも塗り込んだ。

「これで良しっと。」

残ったローションを片付け、レイナは部屋に戻った。

そして、備え付けのワードロープの前に立ち、扉を開ける。

そこには、昨日のうちに香を忍ばせて置いたローブが掛けてあり、その下には小さく畳んだ布の服と革のスカートがある。

レイナはナイトローブを脱ぎ、服とスカートを着て、寝癖を整える。

「さて、朝ごはん食べてこよう。」

ナイトローブをベッドの上に置き、レイナは食堂に向かった。


数十分後、朝食を食べ終わったレイナは、部屋に戻り、出発の準備を再開する。

荷物をワードローブから取り出し、忘れ物が無いかを確認する。

「忘れ物無し。さてと、チェックアウトしますか。」

心地よい香りのするローブを身に纏うレイナ。

荷物を取り、部屋に鍵を掛け、カウンターに向かう。

「ありがとう、いい宿だったわ。」

そう言いながら、カウンターに鍵を返す。

「またいつでもどうぞ。」

カウンター越しに、店員が笑顔を見せた。その笑顔に見送られながら、レイナは宿を後にした。

村から出たレイナは、大きく深呼吸をする。そして、来た時と同じように杖を取り出した。

「今日も一日頑張りましょうか!」

そう言って、杖にまたがったレイナは、目的地に向けて飛び立った。

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