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第7話 預言者ちゃんは奴隷エルフを買う

 翌日。

 ファルティシナはゴルダスに付き添われて、奴隷市場へとやってきた。

 

 法的にはグレーな制度のためか、奴隷市場そのものは街の中心部から少し外れた歓楽街の地下に設置された。


 「わぁ……柄の悪そうな人が一杯いる……なんか、怪しい薬も売ってるし!」

 「何でそんな楽しそうなんだよ、嬢ちゃん。……あんまりウロチョロするなよ? 人攫いに遭うぞ」

 「S級冒険者って、誘拐できるモノなの?」

 「誘拐犯が怪我するだろ」


 ファルティシナの心配よりも誘拐犯の心配をしているらしい。

 もっとも……ゴルダスなりの冗談だろうが。


 「そう言えば聞いてなかったが……どんな奴隷を買うつもりなんだ?」

 「召使用に。家事手伝いとかをやって貰おうかなって。ほら、ただいまって言ったらお帰りなさいって言ってくれる人が欲しいじゃない」

 「なるほど。それは分かる」


 独身らしいゴルダスはファルティシナの気持ちに共感できる部分があったのか、頷いた。

 そして尋ねる。


 「何か、条件とかあったりするのか?」

 「うーん、可愛い女の子が良いかな」


 男と同棲するのは、ちょっとファルティシナにはハードルが高い。

 となると、女の子だ。

 そしてどうせ女の子と住むなら……可愛い方が良い。


 幼少期、男として育てられたせいか……実はファルティシナは可愛い女の子が好きなのだ。


 「……あんた、まさか同性愛者じゃないよな?」

 「……?」


 ファルティシナは首を傾げた。

 ただ、なんとなく今までの雰囲気から否定した方が良さそうだなと思い、首を左右に振った。


 「違いますけど。……同性愛者だと、何かダメなんですか?」

 「ダメって……預言者ファルティシナ様の教えでは、そうなってるだろ? 主に背く行為だ」

 「へ、へぇ……」


 そんなこと言っただろうか?

 その預言者ファルティシナ様本人は首を傾げた。


 ぶっちゃけ、ファルティシナの出身地では同性愛者など珍しくなかった。

 むしろ奨励すらされていた。

 生殖的な意味を伴わない性交渉は、純粋な性愛の営み。

 つまり真実の愛である。


 真実の愛を知ってこそ、真の大人。

 ということを言う哲学者すらもいた。


 まあ、残念ながらファルティシナはその真実の愛とやらは未経験で終わってしまったので、真の大人にはなれていないのだが。


 そんな文化圏で育っている自分が、いくらその場の乗り、ライブ感とはいえ「同性愛はいけません」などと言うだろうか?

 

 (まあ……多分、どっかの発言を曲解したんだろうね)


 そもそもファルティシナ自身、女の子に対して興味がある人間である。

 言うはずもない。


 ファルティシナが教えを説いてから三千年。

 ファルティシナの創始したファルティシナ教は、尾ひれ背びれが付いて、翼を生やし、いつの間にか生えてきた両足で遥か彼方まで走り去ってしまったようだ。


 そうこう話しているうちに奴隷市場に辿り着いた。


 「私、奴隷の競りって初参加なんだよね」


 ファルティシナはわくわくしながら言った。

 王宮にいたころは奴隷は家来が勝手に買ってくるもので、そして王宮を飛び出した後は奴隷など買おうとは思わなかった。


 人生初めての競りに緊張しつつも、楽しそうな様子のファルティシナ。


 しばらく待っていると、すぐに競りが始まった。


 「どうだ、お嬢ちゃん。あの奴隷なんて、家事が上手いそうだぞ。見た目も悪くない」

 「うーん、私もっと若い子の方が……」


 ファルティシナは不老不死だ。

 それを考えると、出来るだけ若い子を買いたい。

 ゴルダスがお勧めした奴隷は少し年が多すぎた。


 「あの子は? お嬢ちゃんと年も同じみたいだが……」

 「もうちょっと可愛い子が良いなぁ……私と並んでも問題ないくらいに」

 「あの子は?」 

 「もう少し胸があった方が……」

 「あの子は?」

 「ちょっと不健康そう……」

 「お前さん、贅沢だな」

 「どうせ買うなら、良い奴隷を買いたいじゃない」


 うんうん悩んでいるうちに、競りも終盤になってくる。

 終盤になるにつれて……奴隷の価格も高価になっていく。


 「さあ、皆さん! これが最後の商品です!!」


 司会の男が言った。

 ゴルダスはファルティシナの頭を軽く小突く。


 「おい、嬢ちゃん。お前さんが贅沢ばっか言ってるから、もう最後になっちまったぞ」

 「ええ! ……ここ、品揃え悪いね」

 「嬢ちゃんが贅沢なだけだろ……」


 そうだろうか?

 とファルティシナは首を傾げた。


 実は神々や半神の知り合いが多いファルティシナの、美少女・美少年の基準は相当高かったりするが……ファルティシナはそれに気づいていなかった。


 「本日の目玉商品、北方の大森林の妖精と言われる、あのエルフです!!」


 首輪を引かれ、舞台に上げられたのは薄い体の線が透けて見えるような服を着せられた、耳の尖った少女だった。

 髪色は白銀、瞳は美しい翡翠色だ。


 多くの客がこの少女を目当てにやってきたのだろう。

 どよめきが上がった。


 「……何で、あの子耳が尖ってるの? 先天性の異常か、何か?」

 「エルフだからだろ」

 「エルフ?」


 ファルティシナは首を傾げた。

 ファルティシナが知る限り、三千年前はそんな民族は存在しなかった。


 ファルティシナが知る限り、人間は一種一亜種。

 多少、肌や体格の差はあったとしても先天的に耳の形が変わるほどの違いがあるとは考えられなかった。


 じっと、ファルティシナはそのエルフの少女を観察する。


 (……なるほどね。堕ちた半神の子孫か)


 僅かながら、少女は神威を宿していた。

 それは神性が失われ、大地や空に帰った三千年後の世界に於いては酷く目立った。


 (……誇り高き、神の子の子孫が奴隷にまで落ちぶれてしまうとは、ね)


 すでに大した力は有していないのだろう。

 舞台に上げられた少女は恥辱で、その可愛らしい長い耳を真っ赤に染め、そして不安そうに当たりを見ていた。


 「では、早速競りを開始しましょう。まずは……銀貨十枚から!」

 「二十枚!」

 「三十枚!」

 「五十枚!」


 どんどん価格が競りあがっていく。

 それに伴い、会場を熱狂が支配する。


 「百枚!」


 ついに価格が三桁に突入する。

 そして……


 「五百枚!!」


 一気に五倍に跳ね上がった。 

 五百枚という価格を提示したのは、如何にもという感じの、小太りの金持ちそうな年配の男性だった。


 少女の顔が引きつる。

 あれには買われたくない。


 と、顔に書いてある。

 が、その方がよりそそる(・・・)ようで、小太りの男性はニヤニヤと笑みを浮かべた。


 「千枚」


 その時、凛とした声が会場に響いた。

 

 「お、おい……嬢ちゃん! あんた、正気か?」

 「正気だよ。……千枚。私が、千枚出します」


 ファルティシナがそう言うと、小太りの男性は目を見開いた。

 しかし小娘に負けていられないと思ったのか、さらに値を釣り上げた。


 「二千枚だ!」


 どうだ、と小太りの男性はファルティシナを見た。

 ファルティシナは少し考えてから、言った。


 「四千」


 小太りの男性はファルティシナを睨みつけ……叫ぶ。


 「五千!!」

 「八千」


 即座にファルティシナは価格を積んだ。



 ……斯くしてファルティシナのエルフ購入が確定した。

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