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第4話 預言者ちゃんはドラゴンを蹴り殺す

 村を後にしたファルティシナは、教えられた通り街を目指し、森の中を歩いていた。

 歩きながら……妄想を膨らませる。


 

 

 やっぱりお洒落なお店、ちょっとしたお茶が飲めるところが良い。

 お茶だけじゃなくて、お菓子なんかもあると良いよね。

 あと美味しい料理も。

 あ、でも酒場もやってみたいなぁ……私、お酒作れるし。

 昼はお茶、夜は酒場? 

 でも雰囲気がそれぞれ違うから……いっそ、二軒経営しちゃう?

 ついでに私の作った小物とか、薬とかを売れば……利益は出そうだね。

 そのためには開店資金も必要だけど……

 従業員もいるなぁ。

 従業員は……やっぱり容姿が良い方がお客さんは入るんだよね。

 お金だけじゃないね、必要なのは。

 多分、お店を出すには街の領主か、議会、そして商工業ギルドの許可が必要。

 うーん、思ったより障害が多いな。

 まあ、でも障害は多ければ多いほど燃えるからね!

 自分の力を自分のために使う……うん、こういうのは初めてだからわくわくする!

 でも……少し罪悪感があるなぁ。

 私の力を使えば多くの人を救うことが……

 ダメだ! 

 あまり人間の活動に手を出しちゃ……彼らが成長できない!

 それは私の望むところじゃない。

 三千年前、預言者ファルティシナは死んだんだ。

 それで神話は終わった。

 私は何もすべきじゃない……

 まあ、でもちょっとなら良いかな?

 そうだ。お店で得た利益で孤児院とかを運営するとか?

 うん、それくらいなら問題ないかな。

 普通の女の子、ができる範囲だし。

 よし、そうしよう!




 「誰か、助けてくれ!」

 「うん?」


 ふと、誰かの悲鳴がファルティシナの耳に聞こえた。

 妄想の世界からファルティシナは帰還する。


 誰かが助けを求めているというのに、それを助けに行かないというわけにはいかない。

 ファルティシナは悲鳴の聞こえた方へと駆け出した。


 「……何か、大きな生き物が通った後だね」


 走りながら、ファルティシナはなぎ倒された木や、木に付けられた傷を確認する。

 

 ファルティシナの視界に……赤いものが映る。

 それは真紅の鱗を持つ、ドラゴンだった。


 (竜種?)


 ファルティシナの知る竜種と言えば、神の一種である。

 神獣、魔獣と言われる存在だ。

 たった一頭でも一国を焼き尽くし、滅ぼすだけの力を持っている。


 ファルティシナの祖父はかつて、とある竜を殺したが……

 その竜の毒は、不老不死の存在をも殺してしまうほどの猛毒だったとファルティシナは聞いていた。


 しかし……その竜からは特にこれといった、神威を感じなかった。


 (まあ、いっか)


 どちらにせよ倒す事実は変わらない。

 ファルティシナはそのままの勢いで竜へとまっすぐ向かい、跳び蹴りをくらわした。


 「とりゃああ!!!」


 バキッ!!

 そんな音を立てて、真紅の鱗にヒビが入る。 

 ファルティシナの足が竜の肉にめり込む。


 竜は木々をなぎ倒しながら、吹き飛んでいった。


 「す、すげぇ……レッドドラゴンを一撃で……」

 「あ、あれSランク級の魔物だぞ。それを蹴り一発なんて……」


 先程まで竜に襲われていた冒険者たちは驚きの声を上げた。

 ファルティシナは冒険者たちに駆け寄る。


 「大丈夫ですか?」

 

 ファルティシナは冒険者たちに駆け寄った。

 冒険者たちは三人。

 そのうち二人に目立った大きな傷はないが……

 一人は右手を食い破られており、肩から先がなかった。

 

 鮮血が森の草木に流れ落ちている。

 このまま放置すれば、死んでしまうだろう。


 「あ、あんた、この怪我を治せたりは……しないか」

 「できますよ」

 「……え、できるの?」


 驚く冒険者を尻目に、ファルティシナは村に滞在している間に作っておいた治療薬を掛けた。

 そして治癒魔術を掛ける。


 すると冒険者の傷があっという間に治っていく。


 「す、すげぇ……」


 冒険者は右手を何度も開いたり閉じたりする。

 そしてファルティシナに頭を下げて、礼を言った。


 「ありがとう」

 「いえいえ、大したことないです」


 十分、大したことあるだろ。

 と、冒険者たちは内心で思った。


 それから魔術師と思われる冒険者がファルティシナに尋ねた。


 「あの治癒魔術、見たことがない魔術式でしたが……もしかして神代の魔術ですか?」

 「神代?」


 ファルティシナは首を傾げた。

 

 「神代……って、なんですか?」

 「やだなぁ……預言者ファルティシナ様が降臨する前の時代ですよ」

 「……」


 その理論だと、神代の魔術……というわけではない。

 ファルティシナがそれを使えている時点で、ファルティシナが生まれた後も存在した技術である。


 だが……おそらく、今自分が使った技術がこの時代にはとうに廃れてしまった技術だということにファルティシナは薄々気付いた。


 「……まあ、そんな感じです。ご内密に」

 「はい! ……ところで、あの治癒魔術の魔術式を教えていただけませんか?」

 「いや。別に構わないですけど……」


 魔術は真にその意味を理解していなければ、まともに使えない。

 それを知っているファルティシナは、現代の魔術師の力量を図るためにも、治癒魔術の魔術式を教えてみた。


 魔術師は教えられた通りに、その魔術式を試してみる。

 無論、成功するはずもない。

 

 「あれ……おかしいな? なんでだろ」

 「なんでって……あなた、魔術のことを、ちゃんと理解しているんですか?」


 ファルティシナは、こいつ本当に魔術師か?と内心で疑った。

 魔術とは、神の御業の模倣である。

 その現象に関する正しい理解がなければ、魔術は作動しないのだ。


 「……これでも一応、B級魔術師ですよ?」

 「B級……」


 聞くところによると、B級魔術師というのはそこそこ優秀らしい。

 ファルティシナは試しに、そこの木に向って何か魔術を使ってみてほしいと頼む。


 「良いですよ……ファイヤーボール!!」

 

 魔術師が唱えると、炎の玉が出現し、木を一本燃やして見せた。

 ファルティシナは首を傾げる。


 ……何だ、この無駄の多い魔術式は。

 

 なるほど、確かにその魔術式は……魔力を注げば発動するだろう。

 それほど、簡単に作られていた。

 しかし本来必要な現象への正しい理解、魔術という技術への理解を必要としない代わりに、必要な魔術式の量が数十倍にまで跳ね上がっているように見える。


 例えるならば……本来ならば九九まで暗記していれば、三桁だろうと四桁だろうと、どんな掛け算も解けるはずなのに、その九九を暗記してないがゆえに、三桁四桁の掛け算を解くために、三桁四桁のあらゆるパターンの掛け算をひたすら暗記しているような……


 そんなある種の不合理のようなものを感じた。


 はっきり言って、ものすごく頭の悪い魔術だ。

 しかし……ファルティシナには既視感があった。


 「あの、もしかして、ですけど……ファイヤーボール、って詠唱しないと発動しなかったりします?」

 「当たり前じゃないですか! 魔術ってのは、そういうものでしょ」


 ファルティシナは合点がいった。

 

 (これ、私が開発した庶民向けの簡易なんちゃって魔術じゃん)


 ファルティシナが布教の片手間に、魔術を知らない、知識のない、大学に行ったりすることができない庶民が実生活で使えるように発明した、お手軽簡単魔術である。


 分かりやすく説明すると……

 本来ならば素材を切って、炒めたり茹でたり、味付けしなければいけない料理を、お湯注ぐだけできるようにした代わりに、味と栄養そのものは滅法悪いという。

 そんな感じの代物だ。


 (……なるほど。これに頼り切ったせいで、元々の魔術知識が軒並み崩壊しちゃったのね)


 便利さは時に人間を堕落させるらしい。

 ファルティシナは三千年ぶりに新たなことを学んだ。

面白いと思って頂けたら、ブクマ、ポイント等をよろしくお願いいたします

あと、下記リンクから飛べる私の作品、『女神様(以下略)』と、この作品はかかわりがあるので、そちらの方に目を通していただけるとより一層楽しめます

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私がなろうで連載している他作品です
もしお時間があったらどうぞ
『女神様は普通の女の子に憧れる』
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