第27話 預言者ちゃんは巨兵を倒す
「やめよう、アグラス。私たちが戦う理由など、ない!」
「理由はある! 貴様がディシウスの居場所を吐かぬ限り、俺は戦いをやめないぞ!」
アグラスは島の残骸、直径数キロに達する岩を手に持ち、ファルティシナに殴りかかる。
ファルティシナは蝶のように空を舞いながら、アグラスの攻撃を交わし続ける。
「良い? アグラス。もうすでに……あなたが封じられてから、三千年の時間が流れている!」
「……だから、何だというのだ!」
アグラスは吠えた。
ファルティシナは唇を噛みしめる。
残酷な真実を彼に伝えるべきか、酷く悩んだ。
伝えずにこのまま殺してしまう方が幸せなのかもしれない。
だが……
(彼は答えを求めている)
ファルティシナは真実を告げることを決断する。
「よく聞け、アグラス! もうすでに巨兵大戦は終結したのだ!」
ファルティシナは叫んだ。
アグラスの瞳が動揺で揺れ動く。
「巨兵大戦は神王率いる十二柱神の勝利に終わった!」
「そんなはずはない!」
アグラスは叫んだ。
「俺たちは……俺たちは、神の攻撃では死なぬのだ! 貴様ら神々に、俺たちの、万を超す巨兵を倒す術はない!」
「いや、すべての巨兵は戦死した!」
ファルティシナは一つ目の残酷な真実を言った。
そう……すでにアグラスの兄弟姉妹はみな、殺されたのだ。
「お爺様……半神の大英雄レオニダスにより、すべての巨兵は殺された。神王は巨兵大戦に、人間である半神の英雄を切り札として使ったのだ。お前たちは神の攻撃では死なないかもしれないが……人間である半神の攻撃では、死ぬ!」
「そんな……馬鹿なことが……あるか!!」
アグラスは数キロの岩塊を投げ飛ばした。
ファルティシナはそれを盾で防ぎきる。
「では、俺たちの切り札である……大魔神竜はどうなったというのだ! あれは容易く倒せる相手では……」
「かの大魔神竜は神王の奮闘により、封じられた。……お前たちは、そしてお前の母である大地母神ガイアスは敗北したのだ。世界は神王を頂点とする、十二柱神の支配による秩序が、王権が確立した」
残酷な二つ目の真実。
彼らの完全な敗北を伝えた。
「では、では!! ディシウス神はどこへ行ったというのだ!! まるで気配が感じられぬではないか!! まるで、貴様と俺以外の神々が、どこかへ行ってしまったようではないか!!」
すべての岩塊を投げ終えたアグラスは、海底に手を突っ込み、巨大な岩石を引き抜き、それをファルティシナに投げつける。
やはりそれも、ファルティシナは盾で防いだ。
「ああ、そうだ。彼らはもうこの星にはいない。……神王だけでなく、あなたの母親もだ」
三つ目の真実。
母親も、仇敵すらをも残っていないということを伝える。
「そんなことが……あるはずない!」
アグラスは口を大きく開け、そこから衝撃波を出した。
が、それすらも盾で防がれてしまう。
「か、神がいなくなるなど……あるはずが……」
「神はもう、いない」
ファルティシナは四つ目の残酷な真実を口にした。
「世界のシステムが変わったのだ、アグラス。我らの神話は物語となり、事実ではなくなった。神々はすべて、ただ一つの、普遍的な理に還ったのだ」
「い、意味が分からない……貴様は、何を言っている?」
アグラスは青い顔で言った。
ファルティシナの言うことが事実であれば……もうすでにアグラスに帰る場所はなくなったということになってしまう。
「我らだけではない。この世界の……ありとあらゆる国の、地域の神々もまた、消え去った。神々が当たり前にいた時代、神代はもうすでに過ぎ去った。今は人の時代だ。宗教によってのみ、人は神と繋がっている。もっとも……再び結び付けられた神は、作り物だ。それは力も、意志も持たない。なぜなら、すべての神々はこの大地に、天に、海に、すべての人の営みへと還ったからだ」
ファルティシナは冷たく言った。
「だから戦いをやめろ、アグラス。お前が戦う意味はもうない」
「そんなはずが……あるか!!!」
アグラスはがむしゃらに拳を振り、ファルティシナを攻撃する。
ファルティシナはため息をついた。
「……仕方がない。力づくで、止めさせてもらう」
ファルティシナはマントから剣を、『無銘の剣』を引き抜いた。
そして殴りかかってきたアグラスの腕を切り裂く。
鮮血が噴き上がり、腕が海へと落ちる。
だが……
「ふはははは! 馬鹿め! 俺は神の攻撃では死なないのだ! その意味が分かるか? 貴様から受けた攻撃はすべて……あっという間に再生する!!」
……しかしアグラスの腕は再生しなかった。
「そ、そんな……馬鹿な!」
「言ったでしょう? 私は人間だと」
ファルティシナはそう言って、『空飛ぶ靴』で空を蹴り……一気に接近し、もう片方の手を切断した。
アグラスは口を使い、ファルティシナを噛み切ろうとするが……
あっさりと避けられ、逆に顎を蹴られてしまう。
「き、貴様が人間のはずはない!」
「いや、人間だ」
「貴様ほどの、濃密な神威を放つ者が、人間のはずがない! どこからどう見ても……貴様は神だろう!!」
アグラスは叫んだ。
が、しかしファルティシナは淡々と言う。
「だが、貴様の傷は治らない。つまり私は人間だ」
「違う! 貴様は神だ! それも……貴様、ディシウス神の系統に連なる神だな? 娘か、孫かは分からぬが……その美しい容姿、間違いない! 貴様は神だ!!」
喚くアグラスの足を、ファルティシナは容赦なく切断した。
両手足を削ぎ落されたアグラスは海の中に体を鎮める。
「神だ……神であるはず、なのに……なぜ、貴様の攻撃が俺に通じる? どういうことだ……どういうからくりだ……」
「……これで、終わりだ」
ファルティシナはアグラスを見下ろしながら……
マントの中から、黄金に光り輝く槍を取り出した。
「ま、まさか……その槍、は……なぜ、貴様がその槍を持っている!!」
アグラスは叫んだ。
ファルティシナはその問いには答えず……槍を静かに構えた。
「どういう……ことだ? 貴様、まさか……あの蛇女の系譜に連なる者か? いや、それだけではないな? 貴様の、その髪色! 赤みを帯びた金髪、それは……あの軍神のものか! 貴様、知恵の女神と軍神の娘だな? ならば、その神威も頷ける。だが……どうしてだ。知恵の女神と軍神の娘が、神でないはずがない! この俺を殺せないはず、傷つけることができないはず!」
「私は人間だ」
「貴様のような、濃密な神威を纏う人間がいるはず……いや、待て? 貴様……まさか、人間の血肉を持っているのか? どういうことだ! なぜ、神である貴様が人間の肉体を持っているのだ!!」
「私が人間だからだ」
ファルティシナの全身から、紅く輝く、雷のような神威が迸る。
黄金の槍は、その真紅の稲光を纏い、美しく煌めく。
そして……さらにファルティシナの体から、紅蓮の炎が溢れ出した。
その炎は、黄金と真紅に輝く槍に、蛇のように巻き付いた。
それはとても幻想的だった。
「その、炎は……まさか、あの文明神の……プロムセス神のものか? どういうことだ。なぜ、知恵の女神と軍神の娘が、アルティシーナ神とマレアス神の娘が、巨神の、文明神プロムセスの炎を扱えるのだ! そして……なぜ人間の肉を持っている。…………まさか、まさか、まさか!! 貴様、プロムセス神の被造物か?」
「私は人間だ。少なくとも、私は自分のことを人間だと思っている。……遺言はそれで良いか? アグラス」
ファルティシナは大きく、槍を振りかぶった。
「そうか、分かったぞ。貴様の正体が!!」
そしてファルティシナはその槍の名前を……唱える。
「愚者の聡慧なる神槍」
真紅の雷と、紅蓮の炎を纏った黄金の光がアグラスの方へと延びていく。
最後に……
アグラスは叫んだ。
「神として造られ、人の両親から産まれた、泥人形だな!」
光が迸った。




