第13話 預言者ちゃんは謎の事件を解決しに行く
「人が石になる怪事件?」
ある日、ファルティシナはゴルダスに呼び出された。
極秘の依頼がある、ということだった。
それが……「人が石化してしまう事件」を解決して欲しいというものだった。
「人が石になるというのは、文字通りの意味での『石』ですか?」
ゴルダスに尋ねたのはリリィだった。
最近はたまにファルティシナと一緒に活動している。
一応、B級冒険者に出世していた。
「文字通りの意味での『石』だ。完全に彫像みたいになっちまう。……まあ被害者は一応ギルドの方で保管しているけどな。生きてるかは分からない」
生きているかは分からないが……
石が壊れたら、本当に死んでしまいそうな感じがする。
仕方がないので大切に保管してあるのだ。
「とにかく、原因を突き止めてくれ。もうすでに何人も冒険者がやられてるんだ。一般人に被害が出る前に食い止めたい」
「なるほど……」
ゴルダスからの依頼とあらば、断る理由はない。
が、依頼を受ける前にファルティシナは確認したいことがあった。
「ところでどうしてその依頼を私に?」
他にも腕の立つ冒険者は大勢いるはずだ。
ファルティシナは冒険者として活躍し始めてから一年程度しか経歴がない。
「まず第一の理由としてだが……」
ゴルダスは声量を押さえて言った。
「もうすでにS級冒険者の被害が出ている」
ファルティシナとリリィは目を丸くした。
S級冒険者がやられた、ということは少なくとも相手はS級冒険者を上回る相手だということだ。
「俺の知る限り、S級冒険者最強はあんただ、嬢ちゃん」
「なるほど……」
今回の相手は、今までとは違い、パンチ一発で済むような相手ではなさそうだ。
ファルティシナは少し気を引き締めた。
「第二の理由だが……嬢ちゃんなら、何とかしてくれそうな気がする」
「それは……嬉しい理由だね。信頼に答えられるように頑張るよ」
ファルティシナは笑みを浮かべた。
「それで事件が起こっているのは?」
「帝都から南西の、とある地方都市だ。古代遺跡があることで有名なんだが……」
ゴルダスはその都市名をファルティシナに告げた。
思わず、ファルティシナは息を呑んだ。
「ご主人様、どうしてソワソワしているんですか?」
「……そんなにしてるかな?」
その地方都市への移動中。
リリィがファルティシナに尋ねた。
二人は馬車で移動をしているのだが……ファルティシナはいつになく、落ち着かない様子だ。
「していますよ。……昨日だって、一睡もしていないでしょ?」
「よくわかったね」
「一緒に寝ているんですよ? わかるに決まってるじゃないですか。落ち着きもなく、何度もトイレに行って……」
リリィにとって、ファルティシナは完全無欠の存在である。
ちょっとアホっぽいところを除けば、最強無敵の人間だ。
そのファルティシナが……何かに悩んでいるのだ。
リリィからすれば気が気でない。
「……依頼を受けた辺りから、ずっと落ち着かない様子ですね。何か、心当たりでもあるんですか?」
「……まあね」
ファルティシナは髪に触りながら答えた。
「リリィはさ、神話って知ってるよね?」
「私の故郷にも、まあ神話はありましたし……知っていますよ。でも、この辺りの神話は知りません」
神話など、どの地域や国にも存在する。
そして場所によって、語られている内容は全く異なる。
「ファルティシナ教では、神話は嘘、まやかしと教えられているんじゃないんですか? 私はファルティシナ教徒ではないですけど……」
当然、リリィは自分の故郷に伝わる神話と、そして多神教を信じていた。
ファルティシナ教からすれば、異教の、未開の信仰だ。
「……まあ、私はファルティシナ教徒じゃないからね」
「え? そうなんですか!?」
新事実にリリィは目を丸くした。
「でも、ファルティシナ教徒だって……冒険者ギルドでは名乗ってますよね?」
「名乗ってるだけだよ、角が立つでしょ? そう言わないとさ」
「それは、そうですね……」
実態としてはファルティシナ教の教えなど何一つ守っていないが……
ファルティシナ教徒であると名乗ることで、自分の身を守っている異教徒は大勢いる。
「じゃあ、どんな宗教を信じているんですか?」
「宗教、か。……そもそも私の生まれ故郷ではね、宗教なんて概念はなかったよ」
ファルティシナは遠い目をして言った。
「……どういうことですか?」
「そもそもさ、『宗教』って何なのか、知ってる?」
「神様を信じることでは……無いんですか?」
リリィが尋ねると、ファルティシナは少し悩んでから答えた。
「少し、違うね」
「少し?」
「ふんわりした意味なら、合ってるよ」
リリィは首を傾げた。
つまり、逆に言えば厳密には間違っているということになる。
「『宗教』ってのはね、『再び結び付ける』っていうことなんだよ」
「……再び、結び付ける? 再び? 何と何をですか?」
「神様と、人だよ」
神と人。
その両者を再び結び付ける。
それが『宗教』なのだ、とファルティシナは語った。
「よく、意味が分かりません」
「そうだね……例え話を使うか」
ファルティシナは少し尋ねてから、リリィに言った。
「リリィはさ、今、この場にいる自分の存在を信じる?」
「……信じるも何も、だって、私はここにいるじゃないですか」
ファルティシナにとって、その回答は望ましいものだったようだ。
ファルティシナは満足気に頷く。
「じゃあ、さ。リリィから見て、私の存在はどう? いるって、信じられる?」
「……さっきのと、同じです。ご主人様はこの場にいるじゃないですか。それとも、何ですか? 実はご主人様は一度死んだ、幽霊かなんかだったりするんですか?」
「……鋭いね」
「はい?」
「いや、今のは忘れて」
意外にも、ファルティシナの出自……
つまり一度火炙りで死んだのにも関わらず、生き返ってしまった事実を偶然にも言い当てて見せたリリィに、思わずファルティシナは苦笑いを浮かべる。
とはいえ、ファルティシナが生き返った話はこの際、今は関係ない。
「つまりさ、本当に存在するなら信じる必要すらないんだよ。それが当たり前のことなんだからさ。『信じる』って行為は、まず前提として『疑い』があるんだよ」
今、自分が生きていることをわざわざ『信じる』者はいない。
なぜなら、それは自明の事実だからだ。
しかし相手の言った言葉を『信じる』者はいる。
なぜなら、相手の口にした言葉には、常に嘘偽りである可能性、つまり『疑い』が存在するからである。
まず初めに『疑い』があり、そのあとに『信じる』行為が来る。
「神様を信じるってことはね、つまり神様はもしかしたら、いないかもしれないっていう『疑い』が前提条件として必要なんだよ。宗教ってのはね、そういうものなの。『疑い』があるからこそ、『信じる』必要があるし、そして『疑い』があるものを『信じる』からこそ、意味がある」
それからファルティシナはかつて、大昔に……
ファルティシナの主観では数年前に口にした言葉を再び口にした。
「『神を試みてはならない』。……本当に神様がいることが自明なら、こんなことを言う必要はないんだよ。試みてみようとする人間なんていないし、そして……」
試みたところで、何の問題もないはずなのだから。
「……それで、何なんですか? 『再び結び付ける』ってのは」
「つまりさ……『再び』ってことは、その前に……」
ファルティシナの言葉は、馬車の御者の声に遮られた。
「お客さん! 到着しましたよ!!」
御者に促され、ファルティシナとリリィは馬車から降りた。
ファルティシナは城壁と城門を見上げて、呟く。
「……さすがに、全然違うか」
「ご主人様? どうしましたか?」
ボーっとしてしまったファルティシナに、リリィは心配そうに尋ねた。
ファルティシナは首を左右に振った。
「ううん、心配しないで」
「そうですか? じゃあ……早く冒険者ギルドの支部に向かいましょう」
こうして二人は、古代遺跡のある街、アルティシーナ市の城門を潜った。




