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第1話 預言者ちゃんの復活

 もし仮に……

 その子供が男児として生まれれば、その子は名君としてこの国を治め、偉大な功業をなすこともなく、かといって大罪を犯すこともなく、平穏な生涯を歩むだろう。

 だがしかし……

 その子供が女児として生まれれば、その子は偉大な人物となる。

 女児として生まれた場合、考えられる未来は二つ。

 あらゆる世界を支配する唯一の大王となるか……

 またはあらゆる世界を破壊し、唯一の世界を作る創造主となるか。

 しかしどちらの未来を選んでも……彼女の人生は苦難に満ちたものとなり、炎の中で死ぬことになるだろう。


 ――予言の神――









 「……ふむ。おかしいな」


 森の中に……一人の少女が裸で立っていた。

 髪は赤みを帯びた金色、瞳は黄金色。

 肌は白く、しかし青白くない程度で、健康的な色合いをしている。


 容姿は非常に整っていて、女性としての凹凸のバランスも程よい。


 「……私は死んだはずだが」


 少女は首を傾げた。

 

 少女の名はファルティシナと言う。

 もっとも、人々からは『ファルティシナ』と名前で呼ばれたことはあまり多くはない。


 どちらかと言えば、『聖女』『預言者』『神の子』と呼ばれることの方が多かった。

 

 ファルティシナは人間を愛していた。

 故に人間を救うために、自ら足を運んで教えを説き……多くの人々を救った。


 故に『聖女』と呼ばれるようになったのだ。


 しかし……仲間の、弟子の裏切りによって捕まった。

 結果、火炙りにされ、その生涯を閉じた……というのが、少し前までのファルティシナの記憶である。


 「……なぜ生きているんだろう?」


 そう思い、ファルティシナは自分の体を確認する。

 燃えたはずの髪は火炙りにされる前までの、背中までの長さまでしっかりと残っており、焦げ一つない。

 肌にも火傷一つなく、綺麗な色合いをしている。


 全身を隈なく確認し終えてから……ファルティシナは赤面した。


 「というか、何で裸なの!」


 淑女として、裸はダメだ。

 こんなもの、自分の信徒には……いや、親以外には見せられない。


 「葉っぱで隠すか?」


 いや、しかしそれはそれで余計に恥ずかしいような気がする。

 ファルティシナは少し葛藤した。


 「……おい、あんなところに裸の美女がいるぞ!」

 「マジか!」

 「本当だ……」

 「ついてますぜ、兄貴!!」


 葛藤している間に人に見つかった。

 ファルティシナは耳まで真っ赤にする。


 ……が、同時に考える。


 (これは好都合だ、と)


 ファルティシナの考えなど露知らず、男たちはファルティシナに近づき……

 襲い掛かってきた。


 「「「「うひょおおおおお!!!!」」」」


 男って、本当にこういうのばっかだな。

 ファルティシナは内心で呆れながら……


 雷の魔術を放った。

 絶叫を上げて、転げまわる四人。


 「そ、そんな……雷の魔術なんて、高度な魔術を、使えるのは、A級の魔術師くらい……」

 「貴重な情報、ありがとう」


 ファルティシナはもう一撃を放ち、四人を完全に気絶させた。

 念のため脈を測り、死んでいないことを確認する。


 それからファルティシナは男たちから衣服を奪った。


 「すんすん……少し匂うな」


 しかし、我慢するしかない。

 ファルティシナはズボンと上着を着て、男たちが持っていた応急処置用の包帯を胸に巻き、その大きな胸を強引に潰す。

 それから包帯を細く割き、それで髪を適当に縛った。


 そしてフード付きのマントを羽織り、フードを深く被る。


 「これで男装は完璧、っと」


 ファルティシナの性別は女だが……男装している期間の方が長かった。

 各地を旅をするには、男装をしている方がいろいろと都合が良いのだ。


 まあ、それでもファルティシナは容姿が整っているので狙われることが多々あるのだが。

 

 だからこそ、顔はできるだけ隠す。


 「取り合えず、人里に下りますか」


 川を探し、それを伝っていけば辿り着くはずだ。

 ファルティシナはそう考え、歩き始めた。






 「……何が起きている?」


 ファルティシナは首を傾げた。

 人里に下りたは良いが……そこにいたのは人間ではなかった。


 二足歩行する豚の化け物だ。

 

 知らないうちに人間は豚になってしまったのだろうか?

 それとも、神罰を受けて豚にされてしまったのだろうか?

 それともファルティシナの目がおかしくなってしまったのか?


 どれが正解だろうか? とファルティシナは少し悩んだ。


 「ブヒィィィ!!!!」


 状況が飲めなかったが、とりあえずファルティシナは涎を垂らしながら棍棒を振り上げてきた豚の化け物を拳で殴った。


 「ぶひぃぃぃ…」


 胃液を吐きながら地面に倒れる豚の化け物。


 「……まあ、おそらく人間ではないだろうが、生かしておくか」


 例え言語が分からずとも、ファルティシナは『人間』となら言葉を交わすことができる。

 人類全てが無意識のうちに共有している言語、『神言』を操れるからである。


 しかし豚の化け物の言葉はどう聞いても、豚の鳴き声にしか聞こえなかった。

 とはいえ、万が一があるので一応生かしておく。


 「す、すげぇ……オークを一撃で殴り倒したぞ!」

 「お、オークはBランクの魔物……一撃で倒すとなるとAランク、いやもしかしてSランクの冒険者か!?」


 人の声が聞こえた。

 声の聞こえた方を向くと……そこには村人らしき人がいた。


 ファルティシナは少し安心した。

 

 「あなた方はこの村の住民か?」

 「は、はい!」


 村人は答えた。

 そんな村人に襲い掛かろうとする豚の化け物――オーク――を飛び蹴りでファルティシナは倒してから、再び尋ねる。


 「こいつらに襲われているようだが……助太刀した方が良いか?」

 「た、助けていただけるとありがたい!」


 村人がそう答えると、ファルティシナは頷いた。


 「分かった。……微力ながら力になろう」


 オークという怪物にどんな事情があるかは知らないが……

 ファルティシナはいつだって人間の味方である。

 人間とよく分からない動物が争っているなら、よく分からない動物の方が悪だ。


 ファルティシナは片っ端からオークを殴り、蹴り倒していく。

 

 「ブヒィィィ!!!!」


 ファルティシナが仲間のオークを倒したことに怒り狂った、群れのリーダーと思しき、一際大きなオークが棍棒を振り上げて襲い掛かってきた。

 

 「黙れ、豚」


 ファルティシナはそのオークの股間を蹴り上げた。

 的が大きかったこともあり、その蹴りは直撃し……オークのリーダーは泡を吹いて倒れる。


 (……そんなに痛いのだろうか?)


 ビクビクと痙攣する豚を見下ろし、ファルティシナは首を傾げた。


 「ぶ、ぶひぃぃぃ……」

 「ブヒィ! ブヒィ!」

 「ぶひぃぃぃぃ~!!!」


 リーダーが倒れたことで、一目散に逃げていくオークたち。

 ファルティシナはそんなオークたちの背に、手のひらを向けた。


 「痺れろ」


 電撃を放つ。

 放たれた雷はオークたちを射抜き……一撃で昏倒させた。


 「おおお!!」

 「冒険者様がオークを倒してくれたぞ!!」

 「あの実力……やはりSランク冒険者じゃないか?」

 「あんなに強い人、初めて見た!」

 「どうしよう……私、恋しちゃったかも……」


 家の中に隠れていた村人たちがファルティシナに拍手を送る。

 ファルティシナは頬を掻きながら……思った。


 (冒険者って、何だろう?)


 とりあえず、いろいろと聞かなければなるまい。

 ファルティシナはそう考えた。


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