5
僕がこの田舎に来て六日目の朝。明日僕はこの田舎を発つことになっていた。僕はこの田舎にきての一週間を振り返ってみた。思えば一週間なんてあっという間だ。僕の人生の中で一週間と言ったら、ほんの一瞬なんだろう。しかし、この一瞬を過ごすことが出来て僕はとてもよかったと思う。彼女と出会うことが出来たから。出来るならもう少し彼女と話したかったけれど、まあそれはちょっと望みすぎであろう。
僕はこの田舎に感謝の気持ちを込めて散歩していた。都会の家に居たらおそらく勉強ばかりだったが、この田舎に来てとても貴重な体験をすることが出来た。なんだか勉強も頑張れそうな気がしてきた。
僕は通りをのんびりと歩く。この一週間じゃあ見切れない場所もたくさんあった。叔母さんに言わせると、もっといい場所はたくさんあるとのことだった。僕はまた来ようと思っていた。決して勉強から一時退散するのではなく……。まあ多少はそんな気持ちがあると言えばあるのだが……。それに彼女がいるし……。
そう思いながら、曲がり角を右に曲がる。この先を行くとヒマワリ畑に行ける。
スタスタ。スタスタ。……パタパタ。パタパタ。
先ほどから気づいている。僕の足音のほかに違う足音が混ざっていることに。少し駆け足で一定のペースを維持して僕についてきている。これが暗かったりでもすれば不審者かなと思ったが、今は明るいので誰が後をつけてきているのかがわかった。にしても、彼女はばれてないみたいと思っているのだろうか。僕にしたらこそこそしているから余計にわかりやすいのだが……。今も靴ひもを結ぶふりをしてこそっと後ろを振り向くと、彼女は近くにあった木に隠れていた。というか、麦わら帽子が丸見えだ……。
僕はどういう反応をしたらいいのかわからなかった。ここで話しかけてもいいのだろうか。それとも、気づかないふりをして歩き続けたらいいのだろうか……。
彼女は僕に話したいことでもあるのだろうか……。
答えは出ないままさらに歩き続ける。のんびりと歩いていたつもりだったのに、いつのまにかヒマワリ畑についてしまった。今日もヒマワリは太陽に向かって「私はここにいますよ!」と主張しているかのように、大きく立っている。この暑いのに……よくこんな元気が出るものだ。僕にもその元気をわけてほしいものだ。
僕がヒマワリ畑に着いても、一向に出てくる気配がなかったので、僕は仕方なく後ろに呼びかけることにした。
「えっと……出てきてもいいですよ?」
疑問形で尋ねると、彼女は慌てて僕の前に姿を現した。今日は黄色のワンピースを着ていた。何だろう、一気に子どもっぽくなった感じがする。
「えっと、気づいてた?」
彼女が恐る恐ると言った様子で尋ねてくる。本当は気づいてませんでしたよ、と言いたいところだが呼んでしまった手前そう言うこともできまい。
「えっと……はい」
「き、気づいてたんなら言ってよ! ばっかみたい」
「あ、あはは」
そう言う彼女に僕は乾いた笑みを浮かべる。今の彼女だと、年上には……見えないかな。悪いけれど。
「それで何で後をつけてきたんですか?」
僕は先ほどから気になっていたことを訪ねてみた。出来るならもう少し彼女と話したいと言う思いが叶って僕としては嬉しかった。
「え、えっとね」
僕の言葉に彼女は表情を赤くしてもじもじした。何だろう、すごく恥ずかしそうにしている。傍のヒマワリを見つめたりして、時々僕の方にちらちらと視線をよこす。その彼女の様子が気になって僕はドキッとした。
なんだろう、すごく可愛い。
「あ、あたしと」
彼女は息を吸ってこう言った。
「と、友達になって!」
「……」
友達……。友達か。こんなに可愛い子と友達になることが出来るなら僕もうれしい。嬉しいんだけど、
「あの……」
「うん?」
彼女はすっきりとした顔をしている。頑張ったと言う顔だ。今度は僕が口ごもる番だった。
「その……僕、明日で帰るんですよ……ね?」
「え?」
彼女は僕の言葉を聞いた瞬間、呆然となった。