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 翌日、僕はなぜかヒマワリ畑に向かおうとしていた。そこに彼女がいると思ったから……。昨日あんなことを言われたのに、僕は全く懲りていなかった。昨日のお祭りでの彼女を見て僕は確信していた。やはり僕の考えは当たっていたのだと。失礼だけれど、もう一度話してみての彼女は、強くてしっかりした子ではなかった。

 しかし、彼女は一体なぜ悩んでいるのだろう。悩んでいることは弟君のことで間違いないとは思うのだが……。

 そうして、僕はヒマワリ畑への道をのんびりと歩く。

 果たして彼女はそこにいた。麦わら帽子を手で持って(今日は首にかけていないようだ)ヒマワリ畑の中に佇んでいた。彼女は僕に背を向けている。その背からは彼女が何を考えているのかよくわからない。彼女は何もせず、ただ虚空を見ているだけのようだった。動きもしない。なぜだろう。

 僕はそんな彼女に近づこうとして、一歩足を進めた。すると、それまでそこに黙って立っていた彼女が、後ろを向いたままで、

「来ないで!」

 と叫んだ。僕は彼女にそう叫ばれてしまったので、これ以上進めなかった。

「……あの」

 仕方がないので、彼女に話しかけようとした。したのだが、

「何も話さないで!」

 今度は口さえもが封じられた。彼女の言葉にはなぜか逆らえない。僕は一体どうしたらいいのだろうか。彼女をそっとしておいた方がいいのだろうか。しかし、帰れとは言われていない。どうすればいいのか迷って、その場にじっと立って彼女を見ていると、彼女が麦わら帽子をかぶった。何度も思うが、やはり似合っていない。

 そうして、ポツリポツリと話し始めた。僕は黙ってそれを聞くしかない。

「あのね、最初会ったときにちょうどあなたぐらいの背になるのかなって思ったの。きっとあの子がぐんぐん成長していれば、私はとっくにぬかされていた。大きな子でね……」

 彼女は語りたくないであろう過去を僕に向かって語り始めた。その声は震えている。

「あたしよりも全然しっかりしていてね……。あたしはあの子のことが大好きだった。あたしがよく笑って、子どもっぽいのをあの子は好きって言ってくれた。あの子の方が年上みたいだったな……」

 そこまで言うと、彼女は傍に咲いているヒマワリを手でそっと触れた。空に向かって咲く花一つ一つを愛でるように辺りを見渡す。麦わら帽子を目深にかぶっているので、その視線をうかがい知ることは出来ない。彼女はその行為を終えると、再び僕に背を向けた。

「あたしがさ、ヒマワリの花言葉は〝あこがれ〟や〝あなたはすばらしい〟みたいなことだよと言うと、あの子は言ったんだよ。まるで姉ちゃんみたいな花だねって。なんでそんなことを言ったのかはわからない。でも、あたしはその言葉が嬉しくて、このヒマワリ畑が大好きになった。大好きにしてくれたお礼に、あたしはあの子に麦わら帽子をプレゼントした。喜んでくれた顔が今でも忘れない……」

 彼女は俯いた。どうやらこれから先は思い出したくないことのようだ。

「でもね……あの子は死んだ。死んだんだよ。あたしを突き飛ばすときになんて言ったか分かる? 〝姉ちゃん、生きろ!〟だよ。あたしさ、もう苦しくて苦しくて。あの子が死ぬことなんて……無かったのに」

 だんだんと彼女の声が小さくなってくる。

「お葬式では泣けなかった。あたしは無く資格なんてないと思っていた。でも、泣きたかった。泣きたかった……。あたしを助けてくれてありがとう! って言いたかった。そして、誰かにこう言ってほしかったんだ。〝泣いてもいいよ……〟って。でも誰も行ってくれなかった。泣きたいのに、泣けないんだよ。あたしは強くなんてない、全然。これからもあたしは死んだように生きていくのだと思っていた。もう自分では止められなかった。このままでいるのかなってずっと思ってたんだけど……」

 彼女はまたヒマワリをそっと撫でる。

「あの子によく似たあなたが言ってくれた。〝泣かないの?〟って……」

 彼女は僕を振り返った。目深にかぶっていた麦わら帽子を直して。彼女の顔を見ることが出来た。彼女は目にたくさんの涙を浮かべていた。

「苦しかった。苦しかったの……。あなたがね、救ってくれたんだよ。やっとさ、あたしは苦しみから解放される気がする。あの子が……笑ってくれる気がするの。だからさ……よくわかんないんだけど、ありがとう」

 ありがとう――と言い終わったと同時に彼女は泣いた。思いっきり。

 大きな声で。彼女の外見からはおよそ想像もつかないくらい、子どもっぽく。


 しばらく彼女は泣いていた。僕はじっと彼女を見る。

 ようやく彼女は泣き止んで、目をぬぐうとこちらを向いた。

「ばっかみたい、全然知らない人の前でこんなに泣いて。ほんとに、子どもっぽいでしょ?」

 彼女がそう問いかけてくる。

「……」

 僕が答えられずにいると、彼女はふっと息を吐いた。そして、

「――まったく、あなたはなんて顔してるの! 女の子の涙を見たってのに、何の言葉も無いの?」

「え、えと……」

 なんと答えようか迷っていると、彼女はそっと微笑んで、

「ありがとう。あなたとはこの前会ったばかりなのに、なんだかずっと前に会ってる気がする」

 そう言って――たぶん一年ぶりだと思われる笑顔を僕に向けてくれた。なんだか子どもっぽい。本当に。そのギャップに僕は驚く。

 いつの間にか彼女から子どもらしい可愛さが伝わってきていた。あれほど似合っていなかった麦わら帽子がなぜだかすごく似合っていた。

 彼女の笑顔は、すごく可愛らしいヒマワリ色の笑顔だった。

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