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 僕がここにきて五日目の夜。今日はお祭りがあり、花火が上がるのだそうで、せっかくだからと僕も行くことにした。

 最大の理由は彼女がいるかな……と思ったからだったが。

 夜道をたくさんの人が歩いている。こんなに人がいたのかととても驚く。

 それにしても、夜道と言うのはなかなかいいものだ。昼とはまた違ったものが見えてくる。初めて見る田舎の夜に僕は感動した。

 そうしてお祭りがやっている公園に行くと、その盛り上がりに僕は圧倒された。とにかく言葉で表せないようなすごさがある。

「うわー……」

 とおもわず声を上げてしまった。飲めや歌えの大騒ぎで、皆一様に笑顔を浮かべている。すごく楽しんでいるのが伝わってきた。こんな騒ぎは僕が住んでいる街ではなかった。この場所に住んでいる人の数は、僕が住んでいるところよりも圧倒的に少ない。しかし、結びつきがすごいのだ。皆が皆顔見知りのような雰囲気を漂わせている。僕も酔って顔が赤い人に何人も話しかけられた。なんというか、ものすごくフレンドリーだった。そう言う雰囲気に呑みこまれ、いつの間にか僕もこのお祭りを楽しんで、本来の目的を忘れていた。


 そうして、いよいよ花火が打ち上げられようとした。はっとして、僕は話しかけてきたおじさんを適当な理由を付けてあしらって、周りを見渡してみた。

 アイスを片手にはしゃぐたくさんの子どもたち。ビールを飲んですっかり出来上がっているおじさんたち。世間話に盛り上がるおばさんたち。

 そんな皆が空に視線を注ぐ。花火が打ちあがるのを今か今かと待ち望んでいる感じだ。

 その中には叔母さんも含まれていた。叔母さんの話によると、この街の花火は、すごさはないが、数が多く色がとても鮮やかだそうだ。

 そんな中、彼女は皆と少し離れた位置で空を見上げていた。僕は彼女をすぐに見つけることが出来た。あの綺麗で長い黒髪は余りにも印象的だ。やはり一つ年上とは思わせない大人っぽさが彼女からは感じられる。

 そんな彼女の顔に笑顔はない。誰も寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。場違いだけれど、僕はそんな彼女も綺麗だと思った。残念ながら彼女は浴衣を着ていなかったが、それでもその辺りの同い年の子とは明らかに違う。

 僕はためらいつつも近づくことにした。僕が近づいてくる足音に気付いたのか、彼女が振り返った。そしてばつの悪そうな表情になった。

「あっ……この前の」

 どうやら彼女はこの前のことを気にしているようだった。言いにくそうに僕の方を向いて、

「あの……この前はあんなことをしちゃって……ごめんなさい」

 と謝った。僕は「いいですよ」と言った。

 彼女は僕を見渡してこう言った。

「あなた、このあたりじゃ見ない顔だけど……?」

 僕はここに来た理由を説明した。話を聞く彼女は僕が年下だと分かると、途中から敬語を止めた。

「そっか……あなたはこの場所のことをなんにも知らないんだね」

 そう彼女は呟く。僕は何と返してよいかわからなかった。

 僕が彼女に話しかけようとすると、花火の打ち上げが始まった。

「たーまやーっ、かーぎやーっ!」

 と叫ぶ声がどこからか聞こえてきた。花火が打ちあがった瞬間、歓声が上がった。なるほど確かに綺麗だ。この田舎の雰囲気とうまくマッチしている。邪魔なビル等がないためか、綺麗にはっきり見ることができた。叔母さんが綺麗だと言っていたのも頷ける気がする。


「あっ」

 そう言えば花火に夢中になっていて彼女のことをすっかり忘れていた。そう思って彼女の方を振り向くと、彼女は夜空を真剣に見つめていた。花火が下から上がっていくと、それを目で追いかける。その視線は楽しんでいるのとはどこか違った。まるで花火一つ一つをとても大切にしているようだった。

 僕はこんなときにでも彼女に見とれていた。彼女の真剣な表情と花火が合って、とても良い。僕は声を出すことが出来なかった。花火が終わるまでは彼女に話しかけてはいけない感じがする。また直感的なものを感じたのだ。

 僕が次に口を開いたのは、最後の花火が終わったときだった。最後の花火はひと際大きかった。夜空を支配せんばかりの勢いで、夜空にパッと花を咲かせた。皆が「おお!」と言う声を出していた。彼女はそんな花火を見ても無言だった。無言で花火が散る最後の瞬間まで目を離さない。

 花火が終わった。皆口々に「今年もすごかったね!」と言うような話をしている。

 僕は彼女に話しかけることにした。先日からずっと言おうと思っていたことを……。



「――どうして泣かなかったんですか?」



 そうぽつりと言った瞬間、彼女はこちらをキッと睨んだ。あからさまに敵意をむき出しにした。でも構わない。僕は言いたいことを言ったのだから。

「あなたなんかに……」

 彼女はゆっくりとためこう言った。

「あなたなんかに何がわかるのよ!」

 そう言い終わると、走ってどこかに行ってしまった。

 僕は呆然と彼女を見送ることしかできなかった。

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