碧空の下で 006
赤の広場、聖ワシライ大聖堂を巡ったのは淳とジェシカだった。赤の広場はいつ見ても美しいと思った。この後カナダ大使館に駆け込み、難民認定まで待つ。ジェシカの方はパスポートを紛失したと言う声が聞こえる。どうやら聖ワシライ大聖堂でなくしたようだ。いやいや、アネクドートを言っているとスられたのか。真相は一切わからない。
いかんせん、こちらは難民申請なのだ。夏の日本海を渡って、更にシベリア鉄道を利用してここまで来たのだ。結果は不合格だろうか。
しかし、6時間後に再度、ジェシカのパスポートができたので訪問すると、僕も呼び出された。
「受け入れを決定しました。」
そう大使館員が告げると、思わず嬉し泣きしそうになった。数ヶ月かかる例もあると言うから、迅速たる対応に感謝の意を決して忘れたくない。
大使館をスキップしながら出て空港に向かうと、綺麗な夕日が宛かもカナダに移る僕を励ますように見え、そして、空港からカナダに向けて出発した。
飛行機の窓の下には夜の中欧、西欧が見える。人工光の影響で都市部と近郊は相当明るい。あるところから突然光など見えなくなった。大西洋の上空だろうか、ここは。
日本は戦争の真っ只中にいる。ジェシカによれば、極東全域が闇の中で、東南アジアに目を移すとあまりの眩しさで目を閉じてしまったという。
モントリオールに着くと、颯大が待っていた。
「よう、淳。なんでここにいるん?」
「ロシアのカナダ大使館に難民申請したら認められて、移民の扱いになった。」
「移民になったからにはその国の一員とならんとなぁ。まぁ俺もやけどな。」
「そうやな。」
「ところで、改名した?」
「なんでせなあかんねん。」
「政府は、在外邦人を狙っている。存命のためならなんでもやろう。まあ、正義にもとらぬ範囲で。」
この時、日本では、九州南部を中国に突破され、足摺岬に上陸されていたのだ。このまま福岡に到達するのだろうか。戦争の状態には興味があるが、郷愁の念はない。海外に難民として移住するのは命の庇護を受けることになるからだ。
「よし、改名しよう。」
そう誓いを立て、ジェシカの方向を向いた。
その夜は、星が煌々と輝いていた。何を選ぼうか、名付け本を読んで暫し考える。
非常に太い。なにせ、かなりのバリエーションがあるのだから。が、漢字まで当てなくてもいいというのは、1つの手間がなくなるという点では有り難いなあ。