碧空の下で 023
その日、下校して我が社、dialogue de paixに向かっている途中、幼児が四トントラックに轢かれそうになっていた。どうやら話の内容から察するに、何人かで近くの公園にてボール遊びをしていたところ、外に飛び出してしまったらしい。ジェシカはジャスティンに気がついた時にはすでに叫んでいた。
―「あの子を助けて!」と。
ジャスティンは動揺することなしに飛び込んでいった。しかし、四トントラックはもう目の前まで迫っている。ジャスティンは走って逃げた。ここぞとばかりに。そして最悪のことは回避できた。それをジェシカは動画に撮って、SNSに上げていた。それを見た首相は同日夕方、ジャスティンに特別にカナダ国籍を与えた。もちろんのことながら、市民権判事の前で宣誓し、国歌を歌って、であった。そして二人には表彰状を授与した。その模様はテレビやインターネットで放送されていた、と後で伝えられた。
その夜、ジャスティンが家に帰ると、アンドリューからこう言われた。
「ジャスティンはここにはいないね。」
「どうしてそんなこと言ってるの。」とジャスティンは反論した。慄きたくもなった。
「日本人としてのジャスティンがいない、ということなんだ。ジャスティンがカナダ人である、ということが嬉しい。二度とあんな悪辣なあちらの政府に捕縛されることなどないのだから。同じ碧空の下で暮らしてるのに、どうしてカナダという土地で自由に暮らせることを祝えないのだろうか。」
「ありがとう。自分だって、カナダ人であることそのものを自分自身で祝福したい。勝ち鬨をあげたい。」
そう言うと、二人はお互いにしばらく抱擁を交わした。そのあとで、日本国籍を放棄するべく日本大使館に行った。でも、もうカナダ人だから国外に出たことだけで警邏に拘束されることなどあり得ない。そう思うと、カナダ国旗を誇りに思って掲げられるな。至極真っ当なことなんだけれども。そんな当たり前のことを喜べた。そしてカナダのパスポートも持てるし。最高の日には満天の星空が見えた。六等星まで輝いていた。




