碧空の下で 014
あのメールの返信に、ジャスティンは脱北ならぬ「脱日」を行うよう、またばらばらの国に逃げるよう書き、実際に更は刑務所のような軍需工場を抜け出し、アメリカに行くことを決意した。梨沙はイギリスに逃亡するという。
時は夜12時、夜行急行の「信州」長野行きに乗るべく、有刺鉄線のついた鉄条網を乗り越え、狭山市駅までやってきた。ここから本川越、古谷本郷と行けばいい。これは埼玉出身の人に聞いた話だ。無論、あの工場で娑婆とか言っていた地区のこと。刑務所用語の転用か。
西武新宿線、JR川越線と乗り換え、古谷本郷駅に着いた。ここからは寝台列車の旅。住宅や田畑を観ながらの夢路の中には、アメリカが出てきた。なお、梨沙の方もこれについていった。なんと、人員不足のため小3でも強制的に徴集されたのだ。
そうこうするうち、太田市も高崎もこえ、横軽にて急勾配に電車が打ち勝って行くのを感じながら、熟睡し、終点長野に5時20分に着いた。あの勾配にも、刑務所のような工場も打ち勝った。
眠い目を覚まし、外を見ると、直江津行きの列車が止まっていた。発車まで時間がある。
5時45分、直江津行きの一番列車が発車した。途中には、記念切符で人気の吉駅があり、それを通過して暫くすると、燦々と照らされる野尻湖がある。遠い昔、ナウマン象が見つかったそうだ。車窓の風景は目まぐるしく変化して、遂に直江津に7時丁度に到着した。
ここで直江津の名物「鱈飯」を購入して、各停の富山行きに乗り込もうとすると、何やら音が聞こえた。そして駅長室に連れて行かれた。本来なら、軍需工場にいなくてはならないし、疑われたのかもしれない。
駅員さんに捕まって、駅長室に連れて行かれた。不正乗車を疑われたのだ。
更は立ち上がった。
「切符はあります!」
券面には、以下が書いてあった。
古谷本郷・太田電鉄・横川・信越鉄道・長野・
北陸地方鉄道・京都・京神明鉄道・梅田 子ども用 ¥4980
駅員は、目を丸くした。鉄道ファンでもない限り、ここまで各停だけで長距離を乗り通す客は中々いない。最後に旅の安全を願われ、駅長室を出た。駅長さんは、速達特急「北陸」を使うことを推奨していた。
車内でも速達特急券は買える。急いで乗り込むと、8時丁度に、終点の天王寺に向かって走り出した。
車内アナウンス「この列車は、速達特急北陸3号、大阪天王寺行きです。途中の停車駅は、富山、金沢、福井、京都、新大阪、梅田です。速達特急券や特別座席券をお持ちでないお客様は、車掌の山田までお申し付け下さい。トイレは6号車にございます。途中の金沢までご案内いたします。」
そんなに飛ばすのか。
車内アナウンス「途中の富山には、8時47分、金沢には9時14分、福井には9時59分、京都には10時57分、新大阪には11時20分、大阪梅田には11時23分、終点の大阪天王寺には11時30分に到着いたします。」
相当早い。元の北陸・信越本線は、北陸4県の3セクとJR西、東の6者に分かれている。そのため相対的にこちらが安くて快適。
更たちは、相当な速さの列車からどこまでも青く、碧空の広がる日本海を眺めているうちに大阪に戻った。
そして、彼女たちは、アメリカ、イギリスの領事館に駆け込み、庇護を受けることを求めた。前々から、労基法が廃止されたため、1日16時間働くことも日常茶飯事になっていた。そして、夭折していった親友たちもいる。それでも、泣くことなど連座制により死刑に相当するので泣くに泣けなかった。
各国の領事は、彼女たちの壮絶な物語を聞くと、すぐにビザを発行した。そこには、難民ビザという文字があった。彼女たちは、国家による洗脳の影響からか、これが第1号の女性脱日者となった。無論、第1号はジャスティンなのだが。しかも、彼は日本国内全土に捜査網が広がっており、いわゆる悪者にされている。