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その恋の始まり

ネタを思いついたので書いてみた短編です。

四話くらいで終わると思います。


 ———私の世界は閉じている。

 

 部屋の中にあるのはカーテンに閉ざされた窓と、開かない四つの扉、二つの質素なベッド、そして大量の本。

 たったそれだけ。

 たったそれだけしかない部屋が私にとっての世界の全てで、どうしようもないくらいに閉じた世界。


「たるー。」


 私にとっての日常だなんて、お母様と話をするか、本を読むか、外の様子を想像して窓を眺めるくらい・・・


「たる! たるたるー!」


 ・・・ええい、クリスよ。なぜに邪魔をする。

 え? この部屋には自分もいるだろうって? いやだって、クリスの存在ってめんどくさいだもん。

 ほら、やっぱり悲劇の主人公ーってほうが読者受けするでしょ?

 部屋に閉じ込められて、もとい、引きこもって小動物とじゃれてるって、物語としてはどうかと思うのよ。


「たるー?」


 そもそも何をしているのかだって?

 そりゃあ本も読み飽きたし、お母さんも寝ちゃってるし、やることないから小説でも書こうかなって。 


「た、る・・・?」


 なんでそんなことを思ったかっていうと、何となくだけど?


 はあー。早くそこの扉を開けて、王子様でも遊びにきてくれないかなー。



         ◆ ◆ ◆

 

 

 さて、今度は普通に自己紹介しようか。今度は嘘偽りもなく正直に。


 私の名前はレイチェル。みんなからはレイって呼ばれてる。もっとも、そう呼ぶのはお母さんくらいだけれども。

 この国では珍しい黒髪の、8歳の女の子だよ! 



 さて、さっきの話も、全部が嘘ってわけじゃなくて私がこの部屋から出れないって言うのは本当。・・・本当だよ?

 引きこもりである私は、この部屋から出たら体がドロドロに溶けてしまう呪いにかかっているのだよ!



 言ってしまえば、自宅警備員というやつだ。

 あ、ダメだ。自宅守れない。この自宅広すぎるし。


 私とお母さんが澄んでいるこの部屋だけど、なんとお城の中にあるのだ!

 お城、そうお城ですよ。

 当然広さも半端じゃあない。引きこもりの私にこのお城全てを守ることなんてでっきこない。


 であれば私は自宅警備員ですらないということか。じゃあなんだ、自室警備員とでもなるのか。



 まさかこの世に自宅警備員よりもランクが下の職業があったとは・・・。


「たるたるー。」


 はいはい、寄り道せずに進みますよ。

 えっと、部屋がお城の中の一室ってことは言ったでしょ? この部屋は図書室・・・でもなくて、禁書庫・・・なんてかっこいいものでもなくて・・・。


 なんだろう。

 私にはこの部屋をなんて言ったら良いのか分からないや。


 一応、あまり人の目に触れてはいけないような本が置かれてはいるから禁書庫とも言えるのかもしれない。

 ただ、国王様や先王様の恥ずかしい秘密とか黒歴史が書かれた本が八割を超えるんだよね・・・。これで禁書庫だなんて言えるのかな?



 待てよ、禁書庫ってことにしておけば、私はその司書!?

 やったね! 自室警備員からはおさらばだ!


「たるー・・・。」


 あ、ちなみに最初に言ったやつの室内描写ほとんど正確だよ!

 窓からは普通に朝日が差し込んでくるし、ベッドは普通に豪華だし、扉なんて頻繁に開くけどね!


 宰相のおじいちゃんがいい人でね。

 ポッケットマネーで色々と買ってもらえるのだ。あの人、結構頻繁に来るからなぁ・・・。

 こっちの事情は知っているだろうに、怖くないのかしらん。



 まあそうでなくても一日三回、料理が運ばれてくるのだけれど。


 ふいー、お城の食事ということもあって、なかなか美味なのですよ。


「たるー?」


 おお、クリス。お前も食べてみたいか。今度分けてやろう。



 ・・・さて、ぶっちゃけ最初にするべきだった気もするけど、この鳴き声の主を紹介しよう。


 うちのペットみたいなもんであるクリスだ。たるー、とかいうわけの分からない鳴き声をしているのが特徴的だ。

 見た目はウサギに角がついた感じ・・・いわゆるホーンラビットっていうモンスターだね。



 この部屋では、私とお母さん、それとクリスというメンバーで生活している。

 お母さんは病弱で、いっつもベッドの上だ。もとは黒かったらしい髪の毛も今は真っ白になってる。

 もともとはそうでもなかったらしいけど、私を産んでからはずっとこうらしい。

 


 思ってたよりも長くなっちゃったかな。自己紹介って難しい。

 とにかく覚えておいてほしいのは私はこの部屋に引きこもって悠悠自適に暮らしている、この一点だけさ!



 なーんて考えてると、この部屋にある扉が遠慮がちに開かれた。

 料理が運ばれてくるにはまだ早いし、宰相さんかな? とも思ったけれど、開いた扉は執務室につながっているものではなく、王族の寝室につながっているものだった。


 そして少しだけ開けられた扉、そこから遠慮がちに覗いている顔は———


「・・・王子様?」


 そんな風に唐突に、されど確実に、私の閉じた世界は開かれた。



         ◆ ◆ ◆



 王子様・・・アルベルト=アインフォードから出会って七年がたった。今ではアル、レイと呼び合う仲だ。

 私はあいもかわらず引きこもりのままだけど。


 私と同い年のアルはあれから毎日のように私の部屋へと遊びに来た。

 特に六年前・・・出会ってから一年と少しくらいのとき、私のお母さんが死んでからは一日の半分はここにいるんじゃないかってくらいのペースでここにいた。

 どうやら慰めてくれているらしいかった。思えば、この時からアルは・・・。


 少し胸がズキリと痛む。



 アウトドア派のアルは、いつも私を外に連れ出そうとしていた。

 私は外に行くつもりなんて全くなかったんだけど、たまに連れ出されてあげることもあった。そんな時でも、クリスを頭に乗せてお城の中を見て回るくらいしかできなかったけど。


 アルとはいろんな事をした。

 アルが持ってきた本を二人で読んだこともあったし、おままごとなんかもしたりした。雨の日は二人でテルテルボウズを作ったし、晴れの日は窓から外を眺めてアルの話に耳を傾けることもあった。


 とは言っても、アルは王子様だから勉強に鍛錬と忙しく、アルが大きくなってからは会う時間が減ってしまった。それでも、時間を作って毎日私に会いに来てくれるのは、少し、嬉しかった。


 それに外にでる機会もますます減っていった。もとから無かったようなもの、ってことには目をつむってほしい。



 以前ほど外に誘ってくれなくなったアルに、それとなく理由を聞いてみれば『レイを他の人に見て欲しくない』という幼い嫉妬だったらしい。

 ・・・そういうのは、反応に困るからやめてほしい。赤く染まった頬を見られないようにするのは、大変だったんだから。



 また、ズキリと胸が痛んだ。



 よくよく考えてみれば、広がったと思った私の世界は閉じたままだったのかもしれない。なにせ、増えたのはアルとのあれこれだけ。


 それでも、一介の引きこもりに過ぎない私の、狭い閉じた世界を広げてくれたのはアルで、その世界の中心にはアルがいて・・・。



 誤魔化すのはもう無理かもしれない。

 私は、アルが、この国の王子様であるアルベルトのことを愛している。


 ・・・この恋が叶わないことは知っているけど、それでも・・・それでも、今は甘い夢に浸らせてほしい。



         ◆ ◆ ◆



 婚約の話が出てきたのはいつからだっただろうか。

 アルももう15才。この国唯一の直系の王族であるアルは、この国の繁栄の為にも相手を選ばなければならない。

 

 ひいき目無しに言うけれど、アルはかっこいいし、勉強もできるし、強いし、かっこいいし、優しくて、キリッとしたその表情は私の心を掴んで放さない・・・今は私の話はいいんだ。


 とにかく、アルは絶対にモテる。

 

 そんな完璧みたいな王子様の栄えある婚約相手に選ばれたのは・・・なんと私だった。王様やその他側近の人も納得済みで、私さえよければ正式に決定できる状況らしい。

 

「たるたる・・・。」


 いやいや、妄想じゃないよ!? 信じてクリス。頭がおかしくなったか、なんて言わないで!? 

 というか、クリスもその場所にいたでしょ? 一緒にアルの言ってたこと、聞いてたでしょ?


「たるー、たるたるー。」


 だったらもっと嬉しそうにしろって? せっかくの長年の恋だろう・・・ってウサギのクリスには言われたくないかな。



 それに・・・絶対、この婚約は成立しないから。



         ◆ ◆ ◆



 結論から言おう。

 私とアルが結ばれることはなかった。


 というのも、私が子供を作れる体じゃなかったからだ。おそらくは遺伝的な問題なんだろう。まず、子供ができる可能性がゼロに近いし、子供が出来たところで私の体が耐えられない。


 前にも言ったように、アルはこの国唯一の直系の王族。

 それ以外は問題を起こして王位継承権を剥奪された上国を追い出された王様の弟・・・アルにとってのおじさんしかいない。


 それに、この国は一夫一妻制だ。これを破ることは王であっても許されない。



 うん、運命ってやつは残酷だね。


「たる・・・。」


 泣いてないもん。泣かないもん。

 だって・・・だって私は、このことを知っていたのだから・・・・・・・・・



 ここに、告白しよう。

 私、レイチェルは転生者だ。


 元々の名前は鈴木零・・・日本生まれ日本育ちの、どこにでもいる女だった。


 ちょっと変わったところがあるとすれば、小説家になりたいと思っていて、『小説家になってやろう』というサイトで恋愛小説を書いていたことかな。


 もっともいわゆる底辺作家という奴だったけれども。

 書いていたのはいわゆる乙女ゲー転生ものとかだったんだけど、感想に『乙女ゲーやったことあります? やったこともないのに知ったかぶりで書こうとしている感じが見え見えで、少し残念です。

 一回「アインフォード王国記3」でもやってから書いてください。』と酷評を食らったことがあるレベルだ。


 まあ、それで少し手を出してしまった私も私だけど。

 というか、その『アインフォード王国記3』の世界に実際に転生することになるとは思ってもいなかったけど!



 まあ、そんなわけで私はアルベルトとレイチェルが結ばれることはないと知っていたわけで。

 これから、魔法学校・・・いわゆる高校にアルが通うことになって、そこで何人もの女の子と仲良くなることも知っていて。

 国の都合上、アルが伴侶を選ばなければならないということも・・・知って、いた。




 だから、もともとこうなることは分かってたはずなのに・・・どうしてだろう、胸が痛いよ。

 転生の影響で少しくらい話が変わることかもしれない、だなんて一縷の望みが現実になったってよかったじゃない。ネットにあふれてる話は大体がそんな感じで、それが私の身に起こったっていいじゃない!


 

 ・・・泣いてもどうにもならないことは分かってる。

 さすれば残された道はただ一つ・・・実力行使、あるのみだ。



 とにもかくにも、私の世界は、見えないふりをしてきた現実に押しつぶされることになった。

 

レイチェルはアルベルトを攻略するときにでてくる専用ライバルキャラ的な存在です。

設定にいろいろ無理があるところもありますが、寛大な心でお許しください。


できればブックマーク、評価等してくださると、非常に嬉しいです。

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