泡沫の願い…
そしていつの間にか秋が訪れてた。あなたと過ごす時間は本当にあっという間で…流れるように過ぎていく時間が、日々がほんとは少し怖かった。
中庭の木々も真っ赤に染まり、この病院にも秋が訪れていた。外はだんだんと寒くなってきたがしかし、私はあの桜の木の下へ行くことをやめはしなかった。
その日も私は「桜の木の子」に会うためにあの桜の木の下へと歩みを進めていた。いつの間にか当たり前になっているこの行動に若干の驚きを感じながら。自分でも信じられなかった。あんなに嫌いだった桜をこんなにも受け入れられるなんて。だから余計に考えてしまうのだ、もっと早く出会えていたらと。そんな事考えたって過ぎた時間は戻らないのだからと分かってはいるものの考えずにはいられなかった。だからだろうか、その日桜の木の下でいつものように出会えたその子にあんな提案をしたのは。
突然の事なのに笑顔で受け入れてくれたあなたに私がどれほど安心したことか。きっとあなたは知らないだろうけど…
私があの場所に着くと、もうその子はその場所に立っていた。今日も会えた、その喜びから私はつい口走ってしまった。
「一緒に来て欲しいとことがあるんだ。」
なんでこんなこと言ったのか自分でも理由がわからなかった。でも、その子は笑顔で頷いてくれたから言ってよかったと思うことができた。
「しし座流星群が見えるんだ。今夜。だから、、、!夜、屋上で…会えないかな?…みんなには内緒で。」
無茶苦茶だと思った。自分でも。それなのにその子は頷いてくれて…だから私は今日だけはその子の優しさに甘えてしまおうと思った。
それからあっという間に夜が訪れた。先生に内緒で部屋から抜け出すのは意外と簡単だった。見つからないように慎重に屋上まで上がり、それから私は来てくれるのをそっと待つことにした。本当に来てくれるのだろうか、そう考えれば考えるほど不安になった。しかし、そう思っていたのも束の間、その子は来てくれた。いつもの笑顔と一緒に。私は素直に嬉しかった。
桜の木以外の場所であなたと会ったのはあれが初めてで…少し緊張してた私にあなたは微笑み掛けてくれた。ありがとう。本当に。ありがとう…
それから二人で並んでベンチに座り、その時が来るのを静かに待った。おたがい何も話さず、ただただ静かに。しかし、その時は意外とあっという間に訪れた。漆黒の空に降り注ぐ数え切れないほど沢山の星たち。それは本当に綺麗で、私はしばし息をするのさえ忘れていた。見ることができて本当に良かった、二人で…そう素直に思った。が、その時、私は大切な事を思い出した。あまりの綺麗さに見とれ自分がまだ願い事の一つもしていないことを。もう遅いだろうか、そう思いもしたがこの願いだけは、とそっと願うことにした。
しばらくお互い何も言わず空を眺めていたがしかし、秋の夜風は思っていた以上に肌寒く、私の身体は意志とは反して限界が近づいていた。だから、離れたくない思いでいっぱいだったが私は静かに席を立った。するとその子も立ってくれて、いつものように別れの挨拶を交わした。来た道をまた慎重に戻って行くだけ、、、なのに、どうしてか涙が溢れて止まらなかった。
あの日、あなたと初めて見た流星群は本当に綺麗だった。でもそれ以上にあなたとの別れが辛くて…涙を堪えるのに必死だったこと、あなたは気付いているのかな。




