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95.春の終わり

4月も終わりのある日、ミラにお迎えが来た。

そう、月に・・・いや、シヤルスクの町にドナドナされてしまう日がやって来たのだ。


「あらっ?スタンのお爺ちゃんじゃないっ 久しぶりっ」


もうヒヨコの面影も無くなりつつある若鶏に餌とやってると、スタン爺さんがロバを連れてやってきた。


「おりゃ、アンとべるでちゃんじゃぁねぇか。元気そうじゃな。

ちょっと見ねぇ間にべっぴんさんになりおったなぁ。ヒャッヒャッヒャッ」


「ちょっとって、ついこの間じゃないっ?え?べっぴんになったっ?そうぉっ?」


「いや、ほんのお世辞じゃよ。ヒャッヒャッヒャッ」


「な、なんですってぇっ」


とアンは怒って爺さんの腹を殴る。 と言っても本気では無いのでお腹がポムポムとする程度だ。


「ヒャッヒャッヒャッ。冗談じゃよ冗談。ホントにべっぴんさんになり居ったなぁ。」


と爺さんはアンの頭を撫でる。

べるでが羨ましそうな顔をしていたので、横から八尾が頭を撫でる。

それを見たアンが微妙な顔になって八尾に擦り寄った。


「ヒャッヒャッヒャッ、相変わらず仲がよいのぉ」


「で?爺さんは何遊びに来たんだ?」


「こぞう、全く年上に対する口のきき方をもっと考えんかい

俺りゃミラ嬢ちゃんの護衛に来とるんじゃぃ。隊長じゃぞ、もうちっと敬ってもいいんじゃねぇか?」


「隊長って、他にも誰か来てるのっ?ロハスさん?」


「うんにゃ、ワシ一人じゃよ、ロハスの野郎は別件で忙しいってなぁ。

でも帰り道はお前さん方と一緒じゃからな、道中も安心じゃで ヒャッヒャッヒャッ」


「護衛手当ては付くのかしらっ?」


「どうせお前さんたちもハンター試験で行くんじゃろ?旅は道連れって言うじゃろが ヒャッヒャッヒャッ」


「なんだよ、ロハで護衛兼、爺さんのお守りか?」


「なんじゃこぞう、お前ロハスに似て来おったな。一丁前の口叩きおって

ワシにそー言う口を利くなんざ10年早ぇえぞ ヒャッヒャッヒャッ

そうじゃ、今夜はルイんとこで宴会じゃからな、日が暮れたら忘れんと来るんじゃぞ

アンとべるでちゃんの料理、期待しとるでなっ」


そう言い残してスタン爺さんはルイの家へと向かって行った。


「もうっ、ちゃっかりしてるわねっ」


アンは笑いながら言った。

べるでも微笑みながら


「今度の旅も賑やかそうデスね」


「ミラも居るからほんとに賑やかそうだな」


八尾は鶏小屋から掻き出した糞をチリトリに入れると、庭の隅の穴に落とした。


「さぁ、あんた達っ、ご飯食べておいで」

「ポチも宜しくデス」


アンが足元の鶏に言うと庭の前の畑に出て、虫や雑草を啄む。

ポチも畑に出て、鷹やテン等が襲って来ないように見張ってるようだ。


夕方、野良仕事が終わると


「はいっ、みんなお家ねっ」


との声にゾロゾロと小屋に入って行く。

一、二羽ほどまだ遊び足りない奴がウロウロしているのを、ポチが追い立てて小屋に入れる。

その姿を見て、良く従うもんだと八尾は苦笑する。


小屋に閂を掛けて家に入る。

最近、扉に小さなドアが付けられたので、夜でもポチは出入りが出来る。

夜中たまに出て行く事があるのだが、鶏小屋の見回りか、夜の散歩か定かではない。


明日の準備をしていると、遅い、とミラと与作がやって来た。


「ヤオにぃちゃ、遅いでねぇだか、もう、おど達は飲み始めてしもぉたでー」


土間ではまだ鹿の唐揚げを揚げている最中である。


「あぁ、悪い、まだ料理作ってるからさ、もう少し待ってくれ」


と2人を囲炉裏端にあげると、八尾はポチや鶏の世話を与作にお願いした。


「判ってるって、大丈夫だぁ。大船に乗ったつもりで安心してけろ。」


タイタニックじゃないと良いなあ・・・

八尾も大概失礼である。


グーーキュルキュル


ミラの腹は相変わらず素直である。

大量の唐揚げを揚げる匂いの破壊力は半端でない。

つられて与作も八尾も腹が鳴った。

土間に居るポチの足元はよだれでベタベタだ。


唐揚げが揚がり、べるでがポチに2、3個やって留守番を任せる。

そして山ほどの唐揚げをザルに入れてルイの家へと向かった。

出るときに一つ口に頬張ったので、みんな無言で歩く。


「おおぅ、ヤオどん、まぁ駆け付け三杯だ、呑め呑め」


着くなり濃い酒を飲まされた。ゴンの新作らしい。

街で買って欲しい物一覧とか渡されたらしいが、記憶に無い。

どうやって帰ったかも全く判らないが、家の布団の中に仰向けになっているのは間違いない。

両腕の感覚が無い・・・

なんか普段より密着感が・・・

あれ?なんで?どうして?


意識が戻ってきたら急に吐き気が込み上げてきた。

八尾は慌ててトイレに走る。

散々戻して、井戸の水で口をゆすぐと、井戸端にへたり込んだ。


どうして俺も裸なんだ?


寒くなると二日酔いが悪化する。

意識も朦朧と布団の側に有った下着を着るとそのまま再び布団に倒れ込んで目をつぶった。


そうしてゴルノ村の春は終わって行った。


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