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82.駆除隊員 与作

結局、八尾は自分の復習も兼ねて一からトレーニングをすることにした。

暫く放置した畑周辺の状況が曖昧であることも要因の一つである。


ヤハチに与作に罠の猟をトレーニングしたいと伝えると、ヤハチは二つ返事で了承した。

ガンガン鍛えてくれと言う事であった。

与作本人もヤハチの後ろで拳を握り締めて喜んでいた。ガッツポーズであった。


罠師のネックとしては、時間的束縛が大きい事があげられる。

朝一で罠を見回り、それから普通に仕事をする。

夕方、日が落ちる前に罠を掛けなおしたりメンテしたりと結構忙しい。

だが、畑仕事の傍らと言う事であれば、その制約もさほど気になる事ではない。


今日は昼過ぎまで畑仕事を行い、それから畑周辺の痕跡を確認することにした。


アンは他の畑でも被害が出ていると言う鳩狙いであちこち回っている。

べるでは何でも試したい事があるからと家に残った。


「そういえばミラはどうしているんだ?」


「ミラさ、お作法ば特訓するとか言うてたな。あのお転婆さ、特訓したばとも治らんと思わねか?」


「ははっ、・・・でも化けるかもよ?

どうする?お淑やかなミラに成っちゃったらさ」


「ははは、ミラに限ってそげな事さねぇべさ」


ミラはその頃くしゃみを連発していた。


・・・


「さて、足跡の見方だけど覚えている?」


八尾は足元の獣道を見ながら訊いていく


「種類とサイズと・・だべか?」


「そう、じゃこれは何?」


「鹿だべ、ちっちゃいのと中っパと でも畑さ出てねぇだなぁ」


「シシは居ねぇなぁ」


「ヤオにぃーちゃ、最近シシは出てねぇだ」


与作は暇さえあれば足跡を見ていた。

ここ数日、熊騒ぎから怖くて出かけていなかったのだが、それまでは連日巡回していたのだ。


「熊の痕跡も無いか、よく確認しよう」


八尾と与作はそれぞれ畑際の森を調べた。

そして熊の痕跡はなく、奥の方に僅かに猪の足跡が来ているのを発見した。

猪の足跡は小さいもので、やっと親から別れた位の若猪と思われた。


「こいつは様子見だな、暫く放置すれば他の猪も回って来るぞ」


八尾は先輩猟師に言われたままを言葉にした。


「で・でも、先に取ってしもうた方が、畑さ荒らされんのじゃねぇだか?」


「与作さぁ、ミラの事は何処まで知ってる?」


「み・み・み、ミラの事だかっ?」


与作は顔を真っ赤にして言う。


「あー、うん、ミラの奉公でさ」


「あ・あぁ、奉公の事だか・・・

・・・知ってるだよ、おらもミラも・・・」


与作の顔は一転して暗くなった。


「知ってるって・・・」


「だから、ミラが花街さ奉公出るってこったべ?」


「・・・知ってたのか」


「・・・ミラも知ってるだよ。

ヤオにぃーちゃが町さ行った時だ、ミラば打ち明けて来ただよ。

だから・・・だからおら、ハンターさなって金稼ぎたいだ」


「よしっ、そこまで判ってりゃ話は早いっ。

与作、お前は駆除隊員だろ、お前が罠を掛けて仕留めろ。

俺も少しは手伝うが、お前が仕留めた分の報奨金はお前のものだ。

アンも計算してたが、頑張れば2年で溜められるぞ

・・・やれるか?与作?」


「やるだっ!ヤオにぃーちゃ、おらやるだ。頑張るだ。」


与作は即答した。その顔は真剣そのものである。


「じゃぁ明日の朝、もう一度見回りをしたら、午後に畑仕事が終わってから畑際の筋に罠掛けるぞ。

それと今からゴンさんとこに行こう」


「ゴンさんとこ?」


「そうだ、止め刺しも考えないと駄目だろ」


・・・

・・・

・・・


「ゴンさーん」


「おぉ、ヤオどん、与作。

なんだ?二人して、酒ば呑むにゃちぃと早えぇぞ?」


「ゴンさんにお願いがあって・・・いや、酒じゃなくて・・・

槍を一つ打って欲しいんですが」


「槍かぁ・・・ダメじゃな

この間、クワの改良さして、鋼を全部使おちもうたば

じゃで柔っこい軟鉄しかねえだでよ、槍は無理じゃな」


「鋼・・・か・・・鋼・・・・

あぁ、これ潰して作れませんか?」


そう言って八尾はストレージから古い刺身包丁を取り出した。

刺身包丁は元は尺もののプロ仕様であるが、既に刃渡りは20センチぐらいになっており

裏スキも無くなり平らになった使い古されたものだ。

八尾がなぜそんなものを持っているかは兎も角として、これは部屋(ストレージ)に大事に仕舞われていたものである。


「どれ、見せてみぃ」


とゴンは包丁を受け取ると、指で刃をビーンと叩いた。


「ふむっ、良い鋼じゃな。だが・・・なんで槍が要るんじゃ?」


八尾は経緯を説明した。与作が止め刺しをしなければならない事や止める方法についても。

ゴンは真面目な顔をして、


「なるほど・・・よしゃっ、任せときっ!明日には最高の一本を作っておくだよ

だで、2メートル位の堅木の棒を用意しておくだな。」


「「ありがとう、ゴンさん」」


そして二人は畑仕事をするためにそれぞれの家に帰って行った。


・・・

・・・

・・・


家に帰るとアンが得意気に言った。


「タケルっ、これ見て見てっ!」


土間に鳩が十数羽横たわっていた。


「うわっなにこれ?」


「畑回りつつ捕って、家々に配りまわって残ったのがこれよっ」


鳩は全部、頭を撃ち抜かれていた。ほぼ土鳩であるが、数羽ほどキジバトも捕れたようだ。


「ミラの所なんて鳩畑になってたわよっ 道理でみんな大量に種を蒔くわけねっ」


種を蒔いた畝の上に笹の枝を置いたりする事は行ってないみたいである。

なので、喰われる分を考えて多めに蒔いてあるらしい。


鳩はまだまだいるとの事で、明日もアンは駆除に行くとの事だ。


「じゃぁ、俺も朝の見回りが終わったら合流するぞ」


そう、八尾はもう一丁、アンダーレバーのエースハンターを持っているのである。


「了解っ、ちゃんとタケルの分も残しておくわよっ」


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