138.平穏な日々
「この8-8-8って何よっ?鳥の餌っ?」
と白い粒々を取り出した
3、4ミリの少し灰色がかった白の球体だ
どうやら化学肥料みたいだ
「化学肥料かな」
「なんでそんな物が部屋に有るのよっ?」
「何だろ、観葉植物用にでも分けて貰ったのかな」
「これ撒けば作物が良く育つデスか?」
「確か撒きすぎると肥料ボケとかで実が成りにくいとかあったような気がするんだけど、少しなら大丈夫だと思うよ」
「少しってどの位よっ?」
「知らん、植木鉢にパラパラ程度じゃ無いかな」
「実験してみマス」
と言っていたのが数週間前の話しだ
今、べるでは割り箸を片手に青虫取りをしている
多めに肥料を撒いた畝に大量の青虫が発生して、そこから周りの畝まで被害が出ていた
アブラムシも酷い、葉の裏にみっちりとかたまり茎や葉表まで集っている
生育は撒いた畝の方が目に見えて良い
化学肥料だけでなく八尾が混ぜ込んだ下肥もバラつきが多かったので生育の差が激しいのだが、、
青虫を摘まんで土の上に落とす、待ってましたとばかりに鶏がそれを啄む
鶏共ももう慣れたもので、畑に出て行くと必ず数羽ほど後をついてくるようになった
アブラムシは刷毛でこすり落とす、葉を痛めないように軽く動かすとアブラムシは豚毛に潰されて面白いように落ちて行く
青虫はやっと実りだしたシシトウやピーマンの中に入り込んで食い荒らして行く
小さな穴が開いたシシトウをハサミで切り落とすと、それも鶏が咥えて奪い合いとなる
トマトは青い方が好みなのか?なんだか、青いトマトはひと齧りされるだけで中に潜り込みはしない
後ろからアンが無事な野菜を収穫して籠に納める
今日は行商人が来るので日持ちのする野菜を収穫している
まだ半分青いトマト、ナス、キュウリ等々
熟れたトマトは別な籠に入れていく
八尾は収穫の終わった麦畑を耕している
畝を作ってサツマイモの苗を植えるのだ
刈り取った麦穂は庭との境に干してある
こちらはもっと干してから脱穀だ
「あーもぉっ、殺虫剤無いのっ、農薬もっ」
青虫を取りながら蚊に刺されまくったアンが嘆く
「蚊取り線香焚いてるのに何でそんなに喰われてるのよ?」
「知らないわよっ、ディートも塗ってるのにっ」
とムヒを塗りたくっている
見ると蚊にしては腫れ方が違うような感じだ
「この刺し跡はブヨではありまセンか?」
とべるではポイズンリムーバーを取り出して、アンの虫さされ跡に押し付けて吸引する
ブヨの場合は血液が溶解してるので、かなり血漿混じりの血液が出る
シリンダー内側に霧状に飛び散った血を洗い流してアルコールで消毒する
アンの二の腕はあちこち赤くなっていた
「ブヨはしつこいデスから後でまた抜きマスね」
アンは未だ痒いのか更にムヒを塗って沁みると喚いていた。
夜は夜で熟した梅の処理をする
水に浸けてアクを抜いておいた梅を布巾で拭いながらヘタを竹串で外していく
フワフワと鮮烈な梅の香りが漂う
塩をまぶして瓶に入れていく
梅5キロに塩1キロの配合でまぶし残った塩を上から振りかけて小皿を裏返しに何枚か置いて重石にする
ちょっと痛んだ梅は広口瓶に砂糖と一緒に放り込む こちらはウメシロップだ
終わると八尾は塩で真っ赤になった手を洗う
アンも砂糖でべたべたなのでついて行った
「地味な作業ねっ」
「青梅から仕込んでるのにまだまだあるなぁ、結構採れるもんだな」
数日前は青梅で梅酒の仕込みをしていた、青梅の一部は卵の殻を混ぜてカリカリ梅にしたらしい
井戸から戻ると、べるでは熟したトマトのヘタを取っていた
部分的に虫食い跡が有るのでソコも包丁の切っ先で入念に抉る
アンはそれを細かく刻みだした
囲炉裏に鍋を掛け少しの水でコトコトと炊く
なにか葉っぱ系も入れていく、バジルか?
煮えて来たら竹ベラで焦げ付かないようにかき混ぜるのは八尾の役目だ
べるではトマトの切れ味が気に入らなかったのかショリショリと包丁を研ぎ始める
先日きっちり研がれてはいるので、今日はタッチアップ程度で良いらしい
包丁の刃を指の腹で触って「ふふふ」と微笑んでいる
ちょっと怖い
横でアンはポイズンリムーバーでブヨに刺された所を吸い出している
なかなか痒みは引かないらしい
ムヒを塗りつつ酒をコップであおりだした
かなり怖い
今日も忙しかった




