102.観光?
「きゃー、これ可愛くて安いだ」
「ミラちゃん似合うわよー」
「これって下着なのっ?」
「ぎゃー、それ大胆ー」
「オネェサマ、なぜそこに穴が開いているデスか?」
「知らないわよっ」
「ねぇこっちのコーナーに可愛いのあるわよー」
「どこどこ、きゃー可愛いー」
「やったー掘り出し物みっけー」
ぎゃいぎゃいと時間は過ぎていく、八尾のHPはどんどん削られていく・・・
やっと一件終わったと思えば、次は隣と店を変えるが、やることは変わらない・・・
辺りが薄暗くなり、周りに灯りが点く頃、やっと買い物が終わった。
「じゃぁ、あまり遅くなると父さんが怒るから帰るわー」
「今日はたのしかったわ、また一緒に買い物しましょ」
「またねー」
と二人は急ぎ早に帰って行った。
・・・
「さてっ、何処かで何か食べて帰りましょっ」
「あれ?この店・・”シヤルスク銃砲”? 銃砲店だって?」
中に入ると初老の店主と思わしい人がカウンターに居た。
「いらっしゃい。今日は何か?」
店主は怪訝そうな顔つきで言った。
「あ、初めまして。ゴルノ村で有害駆除をやってる八尾と申します。
通りすがりに店を見つけたのですが、種子島用の火薬って購入出来ますか?」
「ほう、ゴルノ村から来たんだ。ひょっとしてハンター試験受けるのかな?
種子島の登録証は持ってるかな?」
客とわかると一転して砕けた口調になった。
どうやらたまに”面倒な人”が来るらしいのだ・・・
「登録証?登録が必要なんですか?」
「無いの?ひょっとして未登録なのか?ゴルノには伝わって無かったかな?
あぁそう、うんうん、じゃぁ明日銃を持ってきたら登録申請書書いてあげるから、そのまま役所に行って登録しておいで
登録書が無ければ火薬は売れないからね。火薬も明日用意しておくから大丈夫だよ」
なんでも火薬は少量しか店に置かず、離れた所に保管してあるとの事だった。
アンとべるでは店の中の剥製や棚の銃などを興味津々に見ていた。
「ねぇっこれ何かしらっ?剥製でもなさそうなんだけど、カモの置物っ?」
「お嬢ちゃん、それはね、デコイって言って、川に浮かべておくとカモは仲間が居るから安全って思って降りて来るんだよ」
「へぇっ、案山子の反対なのねっ」
「ちょいっと可愛いデスね。」
店主はニコニコしながら応対する。
「他にもカモ笛って言ってね、デコイの近くで俺たちここに居るぞーって吹くと効果的なんだよ」
「へぇ~っ それで騙されて降りて来ちゃうの?」
「面白いもんだべなー」
一通り店を眺め終わると、明日銃を持って来ると告げて店を後にする。
「面白かったわねっ、特にあのデコイ、1つ欲しいわっ」
「剥製も多かったデスね。タケルさん、前に捕ったヤマドリもここでなら売れるかもしれまセンね」
「・・・あぁ・・・あれ・・・尾っぽを矢羽に使っちゃったんだよな・・・」
「えぇっ、あの失敗作にっ?勿体ないっ」
八尾が作った矢も一本一本はまぁまぁの出来では有った。
しかし、矢の数をそろえるとサイズがまちまちで的を射るには不揃い過ぎたのだった。
「まぁ過ぎたことを言っても始まらない。さぁ、何を食べる?」
それはやらかした者が言うセリフではない・・・
でもアンもべるでも突っ込まずに何を食べるか考えている。
もう日はとっぷりと暮れている・・・
「もうコミダで買って宿で食べるっ?」
「コミロンさんとこならもう閉まってる時間かと思うデス」
「じゃぁっ・・・」
「あ、蕎麦屋がもう出てる。あそこで良いかな?立ち食いだけど」
見ると屋号に当たり屋と書かれたあの店だ。
「おねぇさんっ。山かけ4つ」
「ヤオ君じゃない。あぁハンター試験受けに来たのね。
あら、可愛いお嬢さんたち。ヤオ君も隅に置けないわねぇ」
「誰なのよっ」
アンは後ろで小突きながら聞いてくる。
「前に来た時に寄ったんだよ、近さんも来てさ・・・」
「ハイっお待たせ。山かけ蕎麦4つね。」
辺りにはふんわりとカツオ節の匂いが立ち込めた。
「うわぁ、細せぇ蕎麦っこだぁ。おらこんな細い蕎麦喰うの初めてだよ。良い香りだぁ」
「あぁっ良い匂いっ。これは美味しそうねっ」
「このちっちゃい卵、可愛いデスっ」
散々買い物で歩き回ったおかげで食欲は余りなかったのだがお腹は空いていたらしい。
一口食べれば食欲が戻って来る。
箸で蕎麦を手繰り上げるとカツオ節の香りが引き立ち、トロロのおかげもあってスルスルと喉を通る。
喉ごしに蕎麦の香りが後味に残って、否が応にも次の蕎麦へと箸が進んで行く。
皆無言で食べた。
最後ズルズルっとトロロを啜り、満足気である。
「あぁ美味しかったわっ ご馳走様っ」
満足してホテルに戻った。
「疲れたぁぁぁ」
八尾はベッドに倒れ込んだ。
アン達は、熱いお湯で濡らしたタオルで体を拭いた後、昼に買った服を着てミニファッションショーを始めだした。
それが終わったのか、お茶の良い香りが漂って来たが八尾は寝息をたてて寝てしまった。
夜中、喉が乾きを覚えつつ、ウトウトしていると何やら頭の後ろがふよふよと柔らかい・・・
何か最近もこんなん有ったなー、と思った瞬間跳ね起きた。
起きて見れば何の事はない、べるでが後ろから八尾の頭を抱えて寝てただけなのだが、スタン爺さんの腹枕の一件が八尾の精神に強烈なダメージを残していた。
八尾は汗びっしょりだった。
べるではミラと寝ていたみたいだが、寝相の悪さにこちらのベッドに逃げて来たみたいだ。
水を飲んで寝ようかと思ったが、眠さも飛んでしまったため、朝まで試験の勉強をした。
・・・
そして朝、ホテルで朝食を済ませロハスの店へと向かった。
「やあ、みんなおはよう
ミラちゃん、今日はバレッタが遅番で中に居るから上がってお茶でも飲んでて、ヤオ君は先店で話しして良いかな?」
「ミラちゃんの事だけど・・・
再来年までは研修もないから安心してと伝えてくれるかな?
その分仕事は少々キツいかも知れないんだけどさ」
と言う事で少し安心した八尾であった。
「それとさ、熊の毛皮、高値で売れたよ。
他の品の代金と合わせてこれね。明細がこの紙」
「おぉっ結構な額に成りましたねー」
「僕もこの値段は初めてだよ。びっくりだな、ははは」
ずっしりと重い革袋を受け取った。
・・・
「頑張ってな、ミラ。 では宜しくお願いします、ロハスさん」
「ヤオにぃちゃ、おどに心配ねぇ言うてけれ」
ミラは時々振り返りながら南へと歩いて行った。




