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幕間 夢見の国のアリス

今回はいちおう幕間となっていますが、読み飛ばすと話がわからなくなりますのでご注意ください。

「アリス! アリス! ……全く、どこへ行ったんですか、あの子は! このクソ忙しい時にせっかく来てやったっつうのにあのガキはよお!」

「いつになく荒れてるねえ、白兎」

「帽子屋! ……いつからそこにっ」

「最初からいたがな。……おまえ、あの子しか見えてないんだろ? お熱いねえ」

「なっ……! からかわないで下さい! 別に僕はあんな小娘なんてっ」

「あーはいはい。……それで白兎、肝心のアリスのお嬢ちゃんだけど、さっきからおまえの後ろにいるよ」

「っ!? アアア、ア、アアアリス! いつからそこに!」

「……最初っからいたわよ、シロンの馬鹿」





「ア、リ、スー? いい加減かくれんぼは終わりにしましょうね? とっとと出てきやがれこのクソガキが」

「…………」

「アリス! そこにいるんだろゴルアッ! 聞こえてんなら返事くらいしろや、そして出てこいやァ!」

「……シロン嫌いー」

「っ!? な、ななな、何を! いやっ別に僕は動揺なんてしていないですが! な、なななな、何が気に障ったんですアリス?」

「……シロン……だって、かまってくれないの。……シロンは私のこと、嫌い?」

「きっ!? まさか嫌いなわけないでしょうが! あーもう、分かりましたから出てきて下さい、アリス! かまってあげますから、おままごとでも戦車ごっこでも何でも付き合いますから!」

「……ほんと? 新・戦車ごっこ~愛と金の葛藤エキスパンション~もやってくれる?」

「エ、エキスパ……? ほ、本当ですとも! 僕は嘘をつきません! ――だからアリス、お願いですから……こっちに、僕のところに来て下さい」

「……うん。わかった、シロン大好き」

「っ! べ、べべべ、べつに僕は動揺なんかっ」





「アリス! 怪我をしたというのは本当ですか、一体どんな刺客がやって来たんですかちゃっと苦しめて殺ってきますから相手の身元を吐きなさい! さあ!」

「……シロン、大げさよ……ちょっと転んだの。街で」

「街ですか! アリスに怪我させたのはどの小石だ!? それともタイルか! どっちでもいい、アリスが転ぶ要因になるようなものなんて全部撤去してやらあ!」

「だから聞いてよ、シロン! べつに大丈夫だってば、私なら元気よ? シロンがここにいてくれるだけで幸せだもん」

「っ! べ、べべべ、べつに僕は心配なんて! 全く! していないです! た、ただアリスに何かあったらどうしようかとっ」

「……それは結局同じことじゃあないか、白兎」

「! 帽子屋! いつからそこに!?」

「だから、最初から」

「いえべつに僕は何も言っていません! 何も! 言ってないですから! ――大体、あなたがついていながらアリスに怪我をさせるとはどういうことですか!」

「転んだだけだろ」

「傷口から細菌が入ったら! 化膿したら! 傷跡が、残ったりしたら! どうするんです! これでもアリスは女の子なんですよ!? お嫁に行けなくなったらどうするんです!」

「大丈夫よ。シロンがもらってくれるもの」

「いやもちろん僕が責任持って……え? あれ?」

「よかったなあ、解決したじゃないか」

「べべべべべつに! ですから僕は! 傷跡が残ったら、という仮定の話をしているんですッ!」





 しあわせだったの。私。

 シロンと一緒にいて、しあわせだったの。

 それ以上、何もいらなかったの。


 だから、いつまでも、いたかったの。



 ――私、元の世界になんて、帰りたくないわ。





「アリス! チェシャ猫のところに行ってきたというのは、本当ですか!?」

「あ、シロン。ただいま。そうよ、猫さんのところに行ってきたの」

「あれほど――あれほど、あの森に行くのはやめろと言ったでしょうが!」

「どうして? 猫さんはいい人よ?」

「どうしても、です! 猫は善人面をしているだけだ! 今に喰われてしまう! 金輪際、あの森に行くのはやめなさい!」

「……ひどいわ、シロン。私が今シロンと一緒にいられるのも、猫さんのお陰なのに……どうしてそういうことを言うの!?」

「っ!」

「猫さんはお願いを叶えてくれるの! 素敵な人なんだから! 私がシロンと一緒にいたい、って願った時だって! ――馬鹿シロン、もう大っ嫌い!」

「アリス! どこへ行くんです!」

「ついてこないで! もう、シロンの顔なんて見たくない!」



 叩きつけて、飛び出して。

 気が付いたら、私は森にいた。……いつも笑ってるおかしな猫さんがいる、黄金の森。



「おやおや、悲しそうな顔をしてどうしたんだい、アリス? またシロンとケンカしたの?」

「だって……シロンが、猫さんのこと……悪く、言うんだもん。シロンなんて、大嫌いよ」

「おやおや。そんなことを言っちゃあいけないよ、アリス。本当はそんなこと思ってないだろう?」

「…………」

「だめだよ、アリス。謝らなきゃ。彼は悪くないんだ」

「……でも……猫さん」

「謝る勇気が出ないなら、僕が魔法をかけてあげようか? シロンと仲直りができる魔法を」

「シロンと仲直りができる……魔法? できるの?」

「そうさ、そんなの簡単だよ。――ただし、君に一つだけ頼みがある」

「頼み?」

「そう。簡単な頼みさ……アリス」



 猫さんは言って、いつものにやにや笑いを浮かべた。

 頼み。口の中で繰り返して、猫さんを見上げると、猫さんはこう言ったわ。



「君が、僕に名前をつけてくれるなら」





「アリス! ――よかった、無事だったんですね……!」

「シロン! ……ごめんね、私……私が悪かったの」

「いいえ、そんな! 僕が悪かったんです、どうかあなたは謝らないで。……怪我はないですか?」

「うん、大丈夫よ。……ねえ、シロン」

「なんですか、アリス?」

「――私たち、ずっと、ずうっと一緒よね」


「ええ、勿論です。ずっと一緒ですよ、アリス」


「……大好き。シロン」

「僕もです、アリス……」



 抱き合って、その腕が二度とほどけないように。

 目を閉じたら、涙がこぼれてきたの。……どうしてかしら。

 でも、ふしぎと、気持ちは落ち着いていたわ。シロンに抱きしめられていたからかしら。それとも、あのふしぎな魔法のおかげ?



「……ありがとう、ルーシャ」

「? アリス?」

「ううん、何でもないわ」



 つぶやくと、すっかり疲れていた私は、涙を拭うことも忘れて幸福な夢の中に落ちていったの――。










(カエリタクナンテナイワ、ワタシ)












「そう。じゃあ、その願いを叶えてあげようか」

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