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第78話 女は度胸

長らくお待たせいたしました。ほんっとーに、お待たせいたしました……。

これからは定期更新を約束します!とはいきませんが、のろのろながら、更新を再開したいと思います。

こんなだめだめ作者ですが、今後ともよろしくお願いします!

「ありす、開けた方がいいと思う? それとも開けない方がいいのおー?」

「開けない方がいいに決まってるでしょ! ていうか絶対開けんな! 顔も見たくない!」

「ひどいな。あんなに運命的な出会いを果たしたのに」


 いや、果たしてないから! むしろ悪い意味で運命的ですよね! ああ、寒気がする……これ前回も言ったけど! しかも2回も!

 はい、こんにちは! ありすです! 光野ありす! 元は普通の女子だったはずですが今では残念ながら人よりちょっと強靭になってしまった気がしないでもないです。あらすじ、歩く黒歴史がしつこいノックでご主人否定! 何だか全然分からなくなってきた! とにかく余裕ないんでこれくらいで勘弁して下さい!


「開けてよ、グリフォン。僕とお前の仲だろう?」

「えー……でもなあ、さっきもう主人じゃないって言ったのそっちじゃんー」

「それはそれ。これはこれ」


 しかもこいつら、どう考えたって会話がおかしい!

 僕とお前の仲とか主人とか何とか。……いや、好きにすればいいと思うけど、お願いだから私を巻き込まないで。ただでさえ嫌な記憶なのに。もうこれ以上思い出したくもない思い出を増やさないで欲しい。

 後ずさる。ドアという一枚を隔ててはいるけど、それでも私は後ずさっていた。


「大体、何しに来たのさあ。今さら。……あんただって分かってるでしょ? ありすはもう《アリス》じゃないって」

「分かってるさ、そんなこと」


 分かってて来た…………物好き?

 あ、いや、考えたくない。この時点で既に嫌な記憶が三割増しだ。日本語がおかしいのもそのせいだ。決して私のせいじゃない。頭を振って嫌な思考を閉め出した。


「けど、いつだかの汚名を晴らさせてもらわないとね」


 扉の向こう側で、くすりと笑う声が聞こえる。

 ……。……いや、晴らさなくていいですよ?

 どうせ晴らしようもない。何をしたって。お前の名前は永遠に私の心に歩く黒歴史として残るだろう、忘れようもないわ。


「えー、なになに、汚名ってどうやって晴らすのお?」

「――って、お前は何興味を持ってんだ!」

「だって気になるじゃんかあ。汚名ってどうやって晴らすのかなあって」


 そりゃああんたは汚名だらけでしょうけどね。……取り込まれたら負けよ。グリフォンがまかり間違ってドアを開けたりしないように見張らなきゃ。……さすがに、大丈夫だとは思うけど……。

 そんなことも気にせず、一枚隔てた向こうでドードー鳥はさらりと言う。


「だからありす、君を連れていく。新しい《アリス》の元へ」

「……は?」


 ドアの向こうの声に、私は思わず聞き返してしまった。

 ……連れていく?

 いや、そうじゃなくて。

 新しい《アリス》の元へ? ……それって、つまり。


「……それ、メアリ?」

「ご名答。彼女は君をご所望なんだ」


 …………。

 ……うん、それって、つまり。


 こいつはメアリの手先、ってこと?


「……まあ、顔も性格もお似合いよね……」

「何ぼそぼそ言ってるのお、ありす」


 いや、何でもない。……まあ、メアリも今ではアリスなんだし、好かれるのは当たり前なんだろうけど。


「どうせ、殺したいとでも言うんでしょ?」

「いいや? まさか。それは女王陛下の話だろう、彼女はそんなことを望んじゃいない」


 私を殺したいわけでは、ない?

 ていうか、メアリは女王様と一緒にいるんじゃないのか。

 新しいアリスとなった彼女を、女王様が手放すとは思えないけど。


「彼女は俺と一緒に街の外へと逃れた。勿論、女王の手からもね。彼女が望んでいるのはそんなことではないんだ」


 …………。

 ……どうでも、いいけど、……一人称統一してくれないかなあ。

 そんな本当にどうでもいいことを私はふと考える。いや、現実逃避っていうか、……うまく整理がつかなくて。


「じゃあ、メアリは今、一人なの?」

「そうなるね。だから、僕が君を連れ帰って三人というわけさ」


 簡単な足し算。馬鹿にするみたいに。

 眉をひそめるけれど、そんな場合ではない。……メアリが、私を、殺す以外の選択肢として望んでいる。

 罠かもしれない。その可能性が高い。こいつが私に正直なところを告げる理由はない。……けれど。


「じゃあ連れて行って、ドードー鳥。メアリのところへ」

「ありす!?」


 顔を上げる。ドアの向こう、ドードー鳥の読めない双眸があるのだろうところに向かって。


「ど、どうしたのさあ、ありす。突然馬鹿になっちゃったのお? いや、元からそんなに頭よくなかったけど――」

「うるさいわ! そうじゃなくて。別にいいでしょ、あんたが死ねって言われてるわけでもないんだし」


 反射的に鳩尾に思いっ切り肘を叩き込んだ後、呻くグリフォンに向けてそう告げる。

 そう。別にグリフォンが危険に晒されるわけでもない、――このドアを開ける瞬間に油断さえしなければ。


「大丈夫。あんたは別についてこなくてもいいの、空飛んでみんなを探して合流すれば」

「だ、だけど、そしたらあ……ありすは?」

「メアリに会ってくるだけ。――問題ないでしょ?」

「大ありだよお……」


 いや、問題だらけなことは分かっている。納得してもらえないことも。

 私だってメアリに会わなきゃなんてくだらない衝動、従う理由もないわけだし。……こんな危ない賭け。だけど。


「俺、白兎やチェシャ猫にどやされちゃうってば。羽を全部引っこ抜かれて火にくべられちゃう」

「いい気味だわ」

「ひ、ひどいありす!」


 いや、だっていい気味だし。いっそそうしてもらった方がいいかもよ? 飛んで逃げたりもできなくなるわけだしね。


「だから私が行ったら、その後みんなに合流しなさい。羽を引っこ抜かれたくなかったら空から話しかければいいじゃない」

「でもお……ありす、ドードー鳥は……」

「分かってる。あんたの大好きなドのつくサドなのよね」


 承知の上だ。だから笑顔を浮かべてみせる。


「大体ここでチェシャ猫たちを待ってても埒が明かないでしょ? いつ扉を蹴破られるかも分からないのに。そしたらどうせ連れて行かれる、それなら平和的に行く方がいいわ」

「……そう、いう問題かなあ……」

「……どうしてあんたってこういう時に限って頑固なの」

「だ、だってえ」


 あああ面倒臭い。いつもは気弱で自分のことしか考えてなくてただの面倒臭がりのくせに。あんたが結局一番面倒なんじゃない!

 ひと睨みすると、さすがにグリフォンは怯んだ。


「……わ、分かったあ。ありす、気を付けてねえ?」

「頑張るけど。どうかな」

「無理だと思うけど気を付けてね」

「なら言うな」


 どすりと手刀を叩き込むと、てっとグリフォンは声を上げた。


「じゃあ、ドードー鳥。今から扉を開けるわ。いい? グリフォンを傷付けようとか少しでも思ったらあんたの手をドアに挟むからね」

「あ、ありす、地味な嫌がらせ……」


 グリフォンは狼狽したようにそんなことを呟いたけれど、ドアの向こう側からはくつくつと抑えた笑い声。


「安心しなよ。そんな奴に興味はないから、どうせ何をできるような奴でもない」

「……あんまりグリフォンを馬鹿にすると痛い目見るわよ」

「手をドアに挟まれる、って?」


 心底馬鹿にするような笑い声。……あー、私、やっぱりこいつ嫌いだわ。

 確かにグリフォンは気が小さいし間が抜けてるし、自己中心的な嫌な奴かもしれないけど。


「そうよ。手がちぎれても知らないから」


 言いながら、私は、思い切りドアを開け放った。

 がごんという結構殺人的な鈍い音、――それでドードー鳥が思い切り開け放たれたドアにぶつかったことを知る。


「お、まえ……っ」

「自業自得じゃないの。そんなところにいるから」


 額を押さえ、ドードー鳥が呻いた。でも私は突き放す。あんたが悪い、人を馬鹿にしたりするから。


「ほら! グリフォン、もたもたしてないで早く行く! 羽を毟り取られないように頑張ってね?」

「え、あ……う、うんっ」


 あたふたしながらも頷いて、グリフォンは飛び立った。

 すぐに青い空の中へと溶け込むその姿。

 それを見送って、私は、ひと息つく。


「――った……!」


 が、それも束の間。

 髪の毛が毟り取られるような衝撃を覚えて、私は尻餅をついた。

 涙の滲む目で見上げれば、私の髪を引っ張ったのは勿論ドードー鳥。その額には青筋が浮かんでいる。


「コケにしやがって。後悔するなよ」

「……そっちこそ」


 余裕の笑みの欠片もないいきり立った表情に、私はかろうじて笑みを返す。

 ――後悔? するものか。むしろいい気味だわ、あんたのそういう表情が見られて。

 それに、グリフォンだって無事に逃がすことができた。――ねえ、これって私の勝ちじゃないの?

 そしてあんたのは、負け惜しみ。……怒ってもいいわよ、余計惨めなだけだから。







 強くなりたいの。

 大好きな貴方を守ってあげられるくらい。


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