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第73話 アリスだった少女の行方

「初めまして、女王様」


 私が高らかに言い放った言葉は、明らかに、女王様を動揺させた。

 ――女王様だけじゃない。傍らに寄り添うジャックとメアリも、部屋の中で待機するその他の兵も。

 初めまして。たったそれだけの、言葉に。


「……それは……一体、どういう意味だ? アリス」

「どういう意味も、何も。……初めましての意味って一つしかなくないですか」


 捻くれてる、っていうのは自分でも分かる。……我ながら困らせるようなこと言ってるなあ。無茶苦茶な、あるいは、道化的な。

 でも、これは私なりのささやかな――報復、と言うべきか。……ちょっと違う。多分、それよりもっと幼稚な何かだ。

 そんな私の言葉に女王様は初めて戸惑いのような色を浮かべると、口をわずかに開いたまま、私のことを凝視する。


「――アリス……いや、まあいい。それよりも、早くこちらへ」


 けれど彼女はそれ以上追及することはなく、私を手で招いた。

 私も抗いもせずに示された場所へ、――すると、私の隣にすっとエースさんが立つ。


「エースさん?」

「……何の真似だ、エース」

「えー、女王陛下。長らく留守にしていましたが、俺も一応役持ちのトランプ兵のわけですから。アリスがおかしな真似をしないように……、そういう名目じゃ許されませんかね?」


 おどけた口調で――本音じゃない、ということを周囲に吹聴しているようなものだ――隣に立ったエースさんはそんなことをのたまう。

 にこにこと有無を言わせないその笑顔は、女王様やジャックから見たら相当腹立たしいものなのだろうけど、私はそれをとても心強く感じた。……ありがとう、エースさん。


「まあ、イエス以外の答えは受け付けませんけど。どうします? 女王陛下」

「……ふん。まあ、いいだろう。……お前も一応トランプ兵だからな」


 一応、というところを強調する女王様。でもエースさんはそんな皮肉を気にした様子もなくありがとうございます、と返す。


「――それじゃあ、皆が揃ったから始めるぞ。《アリス》の引き継ぎを」


 女王様が玉座から立ち上がり、ざわりと空気が音を立てた。

 始まる。

 細い腰のラインが強調され、胸元が大きく開いた赤のドレスをまとった女王様は、正に薔薇の美しさそのものだった。広がるドレスの裾は薔薇の花弁、暗く鋭い眼光はさしずめ薔薇の刺か。

 美しい、と純粋に思う。けれど、同時に醜いとも感じた。


「アリス、私の言葉に答えよ」


 女王様が壇上から私を見下ろし、そう告げる。

 私は抗うことなく素直に頷いた。

 その態度に満足したのか、女王様は、唇を吊り上げて笑う。


「私はお前を、アリスとは認めない。お前はアリスとしてはあまりに異端すぎる。だから、アリスの座を渡せ。――いいな?」

「はい」


 なんてストレートで、わがままな言葉。でも、かえって好都合だった。

 私にとってみれば、それのどこに不満があるもんか。

 大体、渡せって言われたって、元々無理矢理与えられたものなんだし。喜んで返還しよう。


「では、メアリ。私の言葉に答えよ」


 私の左隣で殊勝に――たとえるなら、あれだ。神の御言葉を待つ敬虔なる教徒のように――待つメアリが、こくんと首を縦に振る。


「私はお前を、アリスと認める。お前はアリスとしての資質を全て満たしている。愛されるべき少女だ。だから、新しいアリスとなれ。――いいな?」

「はい」


 うっとりとした、甘い声音。

 敬虔な教徒っていうのは言い得て妙だったかもしれない、と私はそれを見て思った。

 それにしたって……。いくら愛される少女だからと言って、メアリは役持ちでしょう? よくアリスにする気になったものだ。私や歴代のアリスのように、異世界から連れてこられたわけでもないのに。

 そこまで私を早くアリスから下ろしたかったか――その線が有力だと思うけど。

 いや、でも、そしたら2代前の……帽子屋さんの彼女だったアリスみたく、ただ私を殺せばいいだけじゃない。アリスとは認めない、と言って。

 何故、メアリに? 何故、引き継ぎだなんて? 何故、そんなことをするの――?

 今さらそんな疑問が頭をもたげてくる。

 今さら。終わりかけの、この時に。何故? 何故? 何故? 何もかも、どうして……?


「では、アリス。――もう一つ答えよ」

「は、はい」


 しかしそこで話を振られ、思考に一時中断がかかる。

 反射的に返事してしまったけれど、これ以上何を答えるというのか。私にまだ何か言うことがある?

 思って、けれど、思い当たる。――私がアリスじゃなくなる、のなら。


「アリス。お前はアリスの座を譲ることを認めた。よって、お前は引き継ぎが完了すれば、この世界ではまるで意味のない存在になる。そうだな?」

「は――はい」


 この世界では。

 そしたら私は、私は……元の世界に、帰してもらえるんだろうか。

 鼓動が高鳴る。全身が熱くなる感覚。女王様も、笑みを浮かべる。


「だから、私は我が忠実なる腹心ジャックに命令しよう。――この娘を、殺せ」


 けれど。


 そうは問屋が卸さないのが、この世の中。告げられた言葉に、私は一瞬フリーズする。


 ――この娘を、殺せ。


 何度も何度も部屋の中に反響する言葉。いや、私の頭の中に、かもしれない。

 この娘? メアリ? ――そんなわけがない。だって、彼女はこれからアリスになるのに。

 この娘。私だ。他に誰がいるというのだろう? これから殺されるべき、娘。


「――御意」


 ジャックが目の前で斧を振り上げる。その表情には何もなく、ただただ薄っぺらい印象だけが焼き付けられた。


「ありすっ!」

「こっちへ!」


 足が動かない。足が竦んで、動かない。

 斧の刃先が迫っているにもかかわらず動けない私、を抱きかかえるようにしてエースさんが攻撃を避ける。


「やれやれ……っ、話し合いの余地も何もあったもんじゃないな、全くっ」

「貴様らと話し合いをする気など元よりない。――その娘を渡せ」

「渡せって言われて誰が大人しく渡すもんかっ」

「そーそー、馬鹿じゃないのー!?」


 挑発するようなディーとダムの言葉、だけど女王様は見向きもしない。

 ただ、ただ、その薔薇の刺のような鋭い視線が、私を貫いている。


「チェシャ猫、ありすを連れて逃げろ!」

「言われなくても、っと」


 エースさんの腕からチェシャ猫の腕へ。急いでいるせいか少々乱暴な受け渡しだったけど、私は無事チェシャ猫の腕の中に収まる。


「大丈夫? ありす」

「だ、大丈夫……多分」

「多分って何さ」

「……多分」


 それ以上、言葉が紡げない。いつもみたいな軽口の応酬すら出てこない。喉の奥に何かが引っ掛かっている。

 殺される。

 そんな言葉ばっかり脳裏に浮かんでは消える。この娘を殺せ。ぐわんぐわんと反響する。


「ほら、しっかりつかまって――とっ」


 けれど、勇気づけるようにそう言った途端、チェシャ猫の歩みがぴたりと止まった。

 何だろう、とほとんどお姫様抱っこの体勢になりつつある私は進行方向をちらりと見る。それは勿論扉の方向、なわけだけど。


「女王様の命令だ」

「ここは絶対に通さん!」


 そこは既に城の兵が塞いでいて、どうにもこうにも通れそうもない。……さすがにお城の兵というだけあって行動も早い。

 さすがのチェシャ猫だって、二重にも三重にも取り巻いた兵隊たちを越えていけるわけがない。――万事休す、か。

 手が震える。全身が震える。震えは、多分チェシャ猫にも伝わっているだろう。


「……ありす」

「だい、じょう、ぶ」


 大丈夫。……どこが、ってほどに震えた声音。

 大体、大丈夫かどうかなんて聞かれたわけでもないのに。

 後ろでは帽子屋さんたちがジャックやその他部屋に最初からいた兵隊たちと戦うのに手いっぱい、そしてチェシャ猫は私というお荷物を抱えたままで何十もの兵と対峙している。

 ここまで来たのに。ここまで、やって来たのに。

 たとえ味方がみんな私のことを見てくれていたとしても、やっぱり女王様までは変えられないってことか。元の世界に戻ることも叶わず、ハク君との約束も守れない。……そんなの。


「そこをどきなさい!」


 ぐっ、と唇を強く噛んだ、瞬間。

 兵たちの幾重もの壁の向こうから、凛とした声が響いた。まだあどけなさの抜けないボーイソプラノ。聞き覚えのある、よく通る声音――。

 取り巻きの後ろの方でどよめきが起き、そして、少しずつ兵士たちの波が開けていく。


「……ハク、君」

「お久しぶり――というほどでもないですね、ありす」


 私よりいくつか年下なのだろう、くるくると丸い瞳に丸い頭。柔らかそうな金色の髪からは白く長い耳が天に向かって伸びていて、まるで《白兎》というその役を強調するかのようだ。まだまだ幼さの面影は抜けないけれど、顔つきは既に私よりも大人びている。

 ハク君。

 私をこの世界へ連れてきた、ひと。


「まずは先日の非礼を詫びたいところなのですが、今はどうやらそれどころではないみたいなので」

「全くその通りだね。用件を言ってさっさと消えてくれるかな、白兎」


 ハク君の悠長な言葉に、チェシャ猫が少し苛立ちを含んだ口調で返す。

 当たり前だ。ハク君の言葉で一時的に兵士の波が開けているとはいえ、それもいつまでもつものか。大体、女王様の一言さえあれば、彼らはすぐにハク君にだって飛びかかるだろう。

 しかし。


「その物言いは何ですか、猫」

「は? それはこっちの科白――」

「僕は、ありすを助けに来たんですよ。――こちらです」

「えっ、ちょっ、白兎っ!?」


 ハク君は簡潔にその用件を告げ、そして、返事を聞こうともせずチェシャ猫の腕をぐいと引っ張った。――予期しなかった行動だからか、それともハク君の力が存外に強いのか。チェシャ猫はぐらりとよろけ、そのままハク君に追随するという格好で走ることになる。勿論、波の開けた扉の向こうへと。


「待てっ、白兎! お前ら、早くあの娘を捕まえろ!」


 女王様が後ろでヒステリックに喚くが、私だってそれどころじゃない。ハク君がつかんでいるのは私を支えるチェシャ猫の片腕で、ということは、支えを半分失った形の私は必然的にひどい揺れに襲われることになるのだ。こ、これくらいなら下ろして欲しい……! 勿論、私なんて下ろされた途端に捕まってしまうだろうけど。


「し、白兎、どこ行くのさっ!」

「分かっているでしょう、――グリフォンが待っています。いざというその時のためにグリフォンだけを部屋に辿り着く前に抜けさせて、逃げ道を探させたんでしょうが?」


 帽子屋さんたちが防いでいる間に兵たちの猛攻を何とかすり抜け、別れ道と曲がり角ばかりの廊下を走る。――否、正確には、走っているのはチェシャ猫とハク君だけど。


「そうだけど……、だったら、白兎は何で」

「ずっと見ていました。屋敷から出てきて、城へ向かうところ、そして城へ入るところ。……焦りましたよ、まさか、こんな無謀な行動に出るなんて」

「……ありすの提案だけどね」

「呑んだのは貴方がたでしょうが」


 あのチェシャ猫でさえ押されるほどのハク君の威圧感に、私はチェシャ猫の苦々しげな表情を見上げて息を呑む。


「とにかく、ありすだけでも逃がします。グリフォンなら窓からでも逃げられる、それに空を飛んでいれば撃ち落とされでもしない限り安全だ。グリフォンならそんなヘマもしないでしょうし」

「え……、私、だけ?」

「貴女が一番大切ですから」


 恥じらいも何もなくさらりと述べられた科白に、私は思わず目を見開いた。

 いや、多分、私が思ったようなそういう意味じゃないだろう。私が呪いを解ける存在だと彼が思っているから、ただ、大切だと言っただけで。


「でも、そしたら、ハク君や……チェシャ猫は? それに、帽子屋さんたちは」

「分かりません。あの兵の数ですし――、陛下の様子を見ていたら、無事でいられる可能性は低いでしょうね」

「そ、んな……」


 そんな。

 私だけ逃げて。

 私の提案で、来たのに。


「世の中、ままならないことばかりですよ。いちいち失望していたら身がもたない」


 まるで私の心を読んだかのように――顔に出ていたのかもしれない――ハク君が淡々と言う。

 冷たい。冷たい言葉だ。……だけど、彼なりの慰めなのかもしれない。

 だからこそ、私はいたたまれないのだけれど。


「こっちの部屋です」

「えっ!? わっ、ちょっと――」


 いきなりの方向転換。視界がぐらつく。酔いそう、と、グリフォンじゃないけど思った。

 けれどそこで、いきなり歩みが止まる。

 目を上げれば、そこは、多分客室だろうと思われる城の一室だった。

 テーブル、ベッド、バスルーム、クローゼット。しばらくは誰に使われた痕跡もない部屋。


「遅かったねえ。しかも、チェシャ猫とありすだけだしさ」


 ――その部屋の真ん中に、そういえばしばらく姿が見えなかったグリフォンが立っている。

 いつものとぼけた表情で、とぼけた口調で、微笑んだ。


「それじゃあ、グリフォン。……ありすは任せましたよ」

「んー、がんばってみるー……ってそんなに睨まないでよお。俺、過度な期待をかけられると余計に緊張するタイプなんだけど……」

「期待はしてません。脅してるんです」

「よ、余計嫌だなあー……」


 言って、チェシャ猫の腕から今度はグリフォンの腕に。……そろそろ私は、人間じゃなく道具として扱われているような気にさえなってきた。

 と、思って、私は気付く。任せましたよ? いや、確かにさっき、私だけでも逃がすとは言っていたけれど。でも、そしたら、二人はこの後どうするの?


「え、待って。ハク君やチェシャ猫は、この後どうするの?」

「どうする――って戻るしかないよね。帽子屋たちのところ」

「そうですね。とりあえずあの騒動を収めなければ、今後の動きも何もありませんから」


 ――そんな。


「じゃ、じゃあ……逃げるってやっぱり、私一人で?」

「俺もいるよひどいなあ!」

「……ごめん。私と、グリフォンだけで?」

「大体定員一人でしょ、グリフォンは」

「ありすだけでも重いんだからこれ以上は無理だねえー」

「…………そう、だよね」

「あれ、何で今回はありすそんなに殊勝なのおー?」


 うるさい、なんて、噛み付くような元気もない。

 私はいつだってこうだ。自己嫌悪。

 悪い出来事ばかり招いては、自分で解決できずに彼らに任せてしまう。

 非力や無力なんて言葉では済まない。足手まといすぎて嫌になる。結局、私だけ安全な場所に逃げるわけ? 勢い勇んで来たはいいけど、何もできないまま?

 ハク君は、本当に思っているんだろうか。私がこの国の呪いを解ける、だ、なんて――。


「なーにらしくない顔してんのさ」

「たっ」


 ぐいと頬をつねられ、私は思わず声を上げた。

 ち、チェシャ猫? 私は随分間抜けな格好でチェシャ猫を見上げる。

 けれど見上げたチェシャ猫は、優しく笑っていた。


「あれだけ横暴な真似をしておいて、こういう時だけ急にしおらしくなっちゃってさ。本当にありす? 偽者じゃない? メアリと入れ替わったとか?」

「はあ!?」


 本気で不安そうに聞いてくるものだから、私はそんな素っ頓狂な声を上げてしまう。

 何よ、それ。……人が折角心配してやってるのに。そうやって人の好意を無にしやがって。


「よしよし、その顔。素直すぎるとありすって感じしないからね」

「……失礼な。そんなに私を貶したいわけ?」

「貶してないよ? 可愛い、って言ってるんだけど」


 うわあ、そんなわけねえ。低く甘い声で囁かれても、最早どきりともしない。むしろ苛立ちすら覚える。

 けれど、そんな私を見てチェシャ猫はしたり顔で笑った。


「ほら、これで寂しくなくなった? 安心してよ、すぐに迎えに行くからさ」

「……う、むう」


 悔しいが、その通りだった。さっきまで覚えていたはずの緊張や恐怖さえ、最初から何もなかったかのようにどこかへ行ってしまった。……何だか、ものすごく悔しい。負けた気分だ。勝ち負けの問題じゃないけれど。


「それじゃ、グリフォン。頼んだからね? 次会った時、ありすに傷一つでも付いてたらその羽一枚一枚むしりとって火にくべるよ」

「な、何でそんなに横暴なの、みんなして……」

「俺の大切なお姫様。任せるんだから、それなりの責任は持ってほしいね」


 ……お姫様とか言ってて恥ずかしくないのかあいつは。聞いてるグリフォンも恥ずかしくないのか。少なくとも言われてる私は恥ずかしい。

 けれど、聞いているグリフォンはどうやら恥ずかしくないらしい、はいはいと口を尖らせて答えると私に目を落とす。


「じゃあ、ありす、落ちないでねー」

「頼んだって言われた矢先にそれか。何? 落ちないでねって何? 誤ったら落ちるような事態に陥るの?」

「空はほら、危険だからあー」

「お前が一番危険だ」


 酔っ払いか。酔っ払いなのかお前は。そういえば私は前にも一度お前の飛び方を飲酒運転みたいだと形容したことがあったな。


「それじゃ。俺たちはもうそろそろ戻らなきゃ、ここから二人が逃げたのがバレても厄介だし」

「そうですね。あちらもどうなっているか分からない。早く加勢に行かなければ」

「あ……、……うん。気を付けてね、二人とも」

「あは。ありすからそんな心配される日が来るとも思ってなかった、明日あたり槍が降るかも」

「そんだけ言うなら勝手に槍に振られてろ」

「冗談だってば。ありがと、ありす。大丈夫だよ、俺は強いから」


 端正な顔立ちに小さな笑みを閃かせ、チェシャ猫は自信たっぷりに言う。

 ……城の兵だって強いじゃない。

 言おうと思ったけど、これ以上何を言ったって無駄だ。何かがいい方向へと変わるわけでもなく、むしろ、今この瞬間にも帽子屋さんたちが危険な目に遭っているかもしれないのだ。

 だから、私は黙って出かかった言葉を嚥下する。だいじょうぶ。これ以上引き止めちゃいけない。


「……またね」

「うん。またね、ありす」


 だから、小さく手を振って、お別れ。

 チェシャ猫の振り返らない背中がドアの向こうに消えるまで。

 またね。

 また会えるように。もう一度、ちゃんと会って言葉を交わせるように。


 果たせるかどうかも分からない約束を、交わす。


「……ねえ、グリフォン」

「うん?」

「私、強くなれるかしら」

「――――」


 答えは、分かってる。

 それでも。



「……さあ。どうだろうねえ」



 私は、強くなりたかった。




 私という存在があることで、貴方が苦しむこと。

 ――知らなかったの、私、あまりに弱すぎて。


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