第6話 ゲームの真意はまだ知れず
今回短いです。申し訳ございませんー!
「アリスを怖がらせるのはやめろと言ったはずだ。チェシャ猫」
「んー……怖がらせてるつもりはないよ? むしろ遊んであげてるんだけど」
桃色紫な猫耳コスプレのチェシャ猫と、シルクハットとタキシードな紳士的な雰囲気を醸し出す男の人。
その二人が、今、私の目の前で睨み合っていた。
「ゲームはまだ始まったばかりだよ、そんなに神経質になることないじゃん?」
「ひどく扱えば、アリスは壊れてしまう」
「だいじょーぶっ。今回のアリスはそんなに柔じゃないよ」
からからと笑って、チェシャ猫は私を抱えていた腕をぱっと解いた。
「え」
突然のことで驚いた私は地面にダイブ。勿論、今度は顔面からじゃなかったけれど。一日に二度もそんなことして堪るか。
でも、当然尻餅をついたわけで。私は顔を上げてきっと睨みつける。
「ちょ……っ、いきなり何するの! バカ!」
「ほーらね、元気でしょー」
けらけら笑いながらもチェシャ猫は私に手を差し出す。
うー、そんなことを証明するためにわざと落としたかこの野郎。しかもちゃんと手を差し伸べるのが余計憎いぞ。
と、思いつつもその手を取る私は何なんだか。む、あったかい。
「……お前、アリスになんてことを」
「アリスはそんな簡単に壊れないよ。物じゃないからね」
また、睨み合い。
えっとー……やめてほしいんですけど……?
この間に逃げようと思っても、何故か足が動かない。――っていうか、悔しいけれどこいつの隣は居心地いいみたい。さっきまで、あんなに嫌だったのに。何でだろう。
「アリスはね、まだ何も知らないよ。ゲームの真意も、自分の意思も」
「知ったように言うな」
「だって知ってるよ? 前回のアリスは最終日にようやくそれを理解したんだよねえ?」
ぼそりと呟くチェシャ猫の言葉。
小さいけれど、はっきりした声で私の耳にも届く。
前回のアリス? それって……。
「だからと言って……」
「誰がアリスを助けるの? 少なくとも、キミじゃないでしょ」
「お前でもない」
青年はキッとチェシャ猫を睨む。でも、チェシャ猫はへらへらと笑って。
「ねえ帽子屋、アリスは俺たちのことなんて求めてないんだよ。求めるのは平和と元の世界」
言った瞬間、帽子屋と呼ばれた青年の表情が変わった。
元々険しい顔はしてたけど。それより、哀しみの色が浮かぶ。
その表情を見た途端に、なぜか私が悪いことをした気になった。
「じゃあもう行くね。俺はアリスを連れていかなきゃ」
「っ! 待て、まだ――」
「キミにはないよ。アリスを連れていく権利」
チェシャ猫は相変わらず笑いながら、目は笑わないまま、そう言い放った。
そして相手が黙っているうちに私をまたお姫様抱っこして。
「さ、行こ」
そう、優しく言った。
私は何故かそれに従った。
ねえ、何が何?
このゲームの真意って?
私の意思って……?
まだまだ、ゲームは始まったばかり。