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第63話 裏腹な言葉、そのまま捉えて

「で何だかんだで結局仲のいい二人に対して俺は何と声をかければいいのかな。俺の苦悩は何だったんだと思い切り罵倒すればいいのか、それともここは大人としてあえて抑えてにっこり笑っておけばいいのか?」

「ご、ごめんなさい帽子屋さんあの時は本っ当にごめんなさい!」

「謝って済むならば俺のこの苛立ちは最初からいらなかったと思う」


 帽子屋さんはよく分からないけれど相当不機嫌でした!

 ……いや、よく分からないわけじゃないけれど原因は私にあるんだけどね本当すみません。土下座でも何でもするから機嫌を直して頂きたい。


「……何で帽子屋あんなに不機嫌なわけ?」

「さー。あ、あれでもずっと心配してたからね」

「そうそう、昨日の夜も寝てなかったみたいだよ」

「……なるほど。寝不足なわけね」


 後ろでチェシャ猫とドライな双子の会話が聞こえる。とりあえず助けて欲しい。

 あああ皆様、光野ありすですこんにちは。今日も元気に帽子屋さんの説教中です。……いや、今語尾に星がつきそうな勢いで言ったけど正直げんなりです。非が私にあるのは分かってるんだけどね。

 ヘルプミー。誰か助けて。謝るから助けて。ていうか何で面白そうに見てるのかなそこ! ちょっとちょっと、後でしばくぞ猫に双子め。


「……帽子、屋」

「ん? ……ヤマネか。どうした?」

「その辺にしておきなよ。……あの言い方は、帽子屋にだって非があった」


 ひいいと心の中で悲鳴を上げる私を叱る今世紀最大級に機嫌の悪い帽子屋さんにつつと寄ってきた救世主は、眠たげな瞼を持ち上げ、つつじ色の瞳で彼を見上げたヤマネ君だった。

 あああメシア様! むしろゴッド! 私は諸手を挙げて彼の到来を歓迎する。……いやもう何言ってるんだ私。それくらい嬉しいんです、はい。

 ヤマネ君はどうやら、帽子屋さんを諭してくれているらしい。相変わらず眠そうだけど、言葉自体はとても真摯だ。

 あう、助かった……。ヤマネ君は優しい子だ。いつもこんな私の味方になってくれる。ぐすん、生きててよかった。


「もう……、ありすの性格だってそろそろ分かってきてるでしょ? あんなことを言った帽子屋も馬鹿だよ……、それと睡眠時間は10時間以上、睡眠不足はお肌の大敵」

「……う……、後半はあんまり関係ないと思うんだが……」

「とにかく、謝りなさいって、こと。ありすが可哀想だよ」


 よっぽど眠いのか、科白を何度も区切りながらゆっくりと告げるヤマネ君。

 うう、優しいなあ。感動で涙が出そうだ。あのことについては、私にも非があったとは思うんだけど。結局私の一人遊びみたいだったし。

 同じく帽子屋さんもやっぱり根が善い人なので、自分の行動に非を感じていたのか、ヤマネ君に散々言われうっと詰まる。そ、そんな罪悪感を覚えてもらう必要はないんだけれども。


「……あー……、ごめんな、ありす」


 私がじっと帽子屋さん――というか帽子屋さんとヤマネ君のやり取り――を見つめていると、私の視線に耐えかねたかのように、帽子屋さんがつっと目を逸らした。

 が、目を逸らしつつも彼はぽんと大きな手を私の頭に置いて、どことなく無愛想だけれど優しい声でそう言った。

 ……そんな、謝ってくれなくてもいいのに……。

 うーん、これじゃ私の方が悪人だぞ。だって私も悪いし。というか私の方が悪いし。帽子屋さんが不機嫌なのは嫌だけどね?


「んと、その……私の方こそごめんなさい。ひどいこと言っちゃったって、反省してます。謝って済むことじゃないかもしれないけど――」

「いや、俺が大人げなかった。ヤマネの言う通りだったと思う」


 ううう、帽子屋さんも優しいから、結局はそう言って頭を下げてしまう。畜生私は悪人か。こんな善い人に頭を下げさせるだなんて。


 ……て、いうか、さ。

 元はといえば、チェシャ猫が悪いんじゃないの? 夜這いしてきて、ふざけたことを言ったのはあの馬鹿なわけなんだし――。私が言うと責任転嫁にしか思えないけれど、帽子屋さんも同じことを考えたらしい。帽子屋さんはチェシャ猫の方をちらりと見ると、何か考えあぐねたように顎に手を当てぽつりと呟いた。


「……まあ、結局の元凶はチェシャ猫だったわけだし――」

「ああ、まあそうですよね――」


 私もちらりとチェシャ猫の方を一瞥。……じゃなくて、ジト見。


「……な、何さ?」


 ディーやダムと何やら楽しそうに話していたチェシャ猫は、私と帽子屋さんの視線に気付いたようで若干頬を引きつらせる。

 じとー。

 私はあえて何も言わず、ただ視線を留めるだけにしておいた。嫌がらせで。


「いいよな」

「いいです」

「えっ、ちょっと待ってよ何がいいって? 何? 何もよくないよ何で俺の方を見てるの? ねえ二人とも、ちょ、聞いてる?」

「聞いてない」


 チェシャ猫の焦ったような早口言葉をあっさり跳ね除けて、ジト見を再開する。……いや、さすがに途中でいたたまれなくなってきたからやめたけど。

 悪いのは、私も一緒だ。あんな風に突き放したのは私なんだから。チェシャ猫ばっかり責めるのはさすがによそう。……せっかく仲直りしたんだもの。


「楽しそうだねえ、みんな」


 そこに突然ひょいと顔を出したのは、グリフォンだった。私は、ふいに肩にのしかかった重力に転びそうになる。……こいつ、突然人の肩に腕乗せんな。

 けれどそんな私の心中いざ知らず、グリフォンは寝惚け眼を空いている方の手で擦っている。……こいつもしや、今起きたのか? もう昼前ですけど。

 いや、起床時間は人それぞれだし、自分のことを棚に上げておいてあれだけどさ。……だってこいつ寝間着だし。しかもいい年していちご柄のパジャマなんて――え、いや、いちご? 何で? 5歳児か。


「おはよーグリフォン! 僕も今起きたとこ!」


 と、同時にグリフォンと叫んでいるはずなのに私の腰に抱き着いてきたミルク君が笑う。こっちは普通にオレンジのTシャツと短パン姿だ。……え、いや、季節感。それじゃ多分まだ寒いと思うぞミルク君。


「わあ、モテモテだねありす」

「別に嬉しくないわよ……特にこのおっきい方。なに人の肩に腕乗せてんのよ」

「いや、疲れた……」

「あんた起きたばっかりよね?」


 何に疲れるというんだ一体。


「そういえばねえ、ありすー。前から聞きたいことがあったんだけどおー」

「何? とりあえず腕を下ろしなさい腕を」

「腕を一度上げるのが億劫だからいや」

「何でそんな末期的な駄目人間になってんのよあんた」

「人間じゃないもーん」

「そう。じゃあ死んでクズ」


 もういいよこの人。生きる価値すらねえ。

 グリフォンはえーと軽く批判のような声は上げていたけれど、顔はにへらと笑っている。……ああ、忘れてた。忘れてたけどこいつMなんだっけ。畜生土に還りやがれ。


「仕方ないなあ、ありすったら鬼畜なんだからー」

「……頬が緩んでるわよドM。死ね」


 いや本気で土に還りやがって下さい。気持ち悪いから。

 ようやく腕を放したグリフォンから一歩後ずさり距離を取る。まだ腰に引っ付いているミルク君はとりあえずスルーしておこう。


「それで? 何だって」

「ありすってさあ、今さらだけど他の世界から来たんだよねえ」

「……そうよ」


 それが? と私は気丈に聞き返す。あえて思い出さないようにした。お姉ちゃんの無邪気な笑顔とか、……ああ言ってる時点で思い出してるじゃん私。駄目だ。私はシスコンかこの野郎。

 そんなどうでもいいことを考えていると、止め処もない思考を意図なしにフリーズさせる言葉がグリフォンの口からふいに発せられた。


「元の世界に彼氏とか、いないの?」


 ……は?


 口から漏れたのは、意味をなさないそんな言葉。

 彼氏?

 私には無縁すぎて一瞬何のことだか分からなかった。だって私チビだし不細工だし。頭もよくない、運動なんて以ての外だ。


「…………いるように見えんの?」

「いや、あんまり」


 うっわあ正直。殴るぞこら。だけどそこで肯定されても気持ち悪いので何とか抑えておく。

 でも、何で突然そんな。彼氏いたら何? 何だって言うんだ。嫌味か畜生。


「そっか……いないんだ。へえ……」

「……いや、だから何なのよ」

「いや、ね? ありすは年齢イコール彼氏いない歴なのかと」

「誰もそこまで言ってないじゃない」


 その通りだけどもさ。


「べ、別に彼氏がいないからって待ってる人がいないわけじゃないわよ? お姉ちゃんだって心配してるし……多分」

「御両親は?」

「し、心配してる……と思う」


 多分。多分だけど。……さっきからそんなのばっかりだ。

 だって分からないんだもの。お姉ちゃんの顔はともかく、両親の顔なんてぼやけて何だか思い出せない。娘として最低だとか、親不孝とか思われるかもしれないけれど。


「そっか。じゃあ帰らなきゃねえ」

「当たり前でしょ。こんなおかしな世界、一年なんて――ましてや一生なんていられるわけないわ」


 焦ったように答えると、ふいに、みんなの顔が悲しみに歪んだ気がした。――気のせいかしら。

 一瞬あとにはもう、誰もが各々の表情へと戻っていたから。しかもそれは、それぞれの笑顔、で。


「僕らも応援するよ、ありす!」

「早く白兎を捕まえなきゃね!」

「ディー、ダム……ありがとう」


 ああ、優しい子たちだなあ。駆け寄ってきた二人の頭を優しく撫でる。

 気のせい、多分気のせいだったんだ。だってこんな笑顔、なんだし。自分に言い聞かせるように。


「そうだよ、白兎だって兎なんだからにんじん仕掛けとけば引っ掛かるって! 僕だって一体何度帽子屋に引っ掛けられたか分かんないんだからー」

「胸張るところでもないと思うけどね」


 そしてミルク君、ハク君はそう簡単には捕まらないと思う。ていうか君らはやっぱりどっちかというと兎よりなのか? どうなんだ?

 だけどそんな彼らの笑顔に癒されて、私も笑った。白兎も絶対にんじん好きだよーと唇を尖らせて言い切るのは一体何故なのか。ミルク君がにんじん好きなのは分かったけどさ。


「――頑張ろうね、ありす」

「え、あ、……うん……」


 年少組とじゃれていると、ふいにチェシャ猫が後ろから肩を叩いてきた。驚いて一瞬戸惑ったけれど、その後こくんと頷く。

 うん。……頑張らなきゃ。

 思いながらも、どこか、ずれた感覚を覚える。――何がずれてるの? 分かりそうで分からない。分かっているけれど、分かりたくない。


「早く帰って、家族を安心させてあげなきゃね」

「――うん……そうだね」


 私は、優しい微笑を浮かべるチェシャ猫に向かって、ひどく曖昧に笑った。

 ずれてる感覚。分かった、気がする。


 だってこんなに、みんな優しいのに。









 狂っているのは何? ――私自身だ。

 帰りたいなんて嘘だと言ったら、貴方はどんな顔をする?




あばばば、遅れてすみません! 本当はもう少し早く更新できる予定だったのですが……エラーめ畜生。煮て焼いて食べてやんぜ!←

えー、すみませんふざけました。しかも何だこんなお約束的な。何がお約束っていちご柄が。でも本人気に入ってると思います。きっと。


活動報告でほのぼのさせる予定だと言っていたのに、何だかほのぼのしてません。ごめんなさい!

次回……ほのぼのできるかどうかは分かりません。多分無理だと思いま(←頑張れよ)

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