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第59話 ドグマチックアンチテーゼ

更新速度を重視するあまりに短くなってしまいました(´・ω・`)

でもまあとりあえず、当分の更新は早めを心掛けていきたいと思います。

 蛍光色の物体Cを深い森の中で見つけたのは、日も高く昇った正午過ぎのことだった。



 風に引っ張られて飛び出した街中で、危惧していたように私が捕まることはなかった。

 街の人の目は私に向くものの、捕まえようという意志は既にない。ただのろりと私の方を向いて、緩慢な動作で腕を突き出すだけ。それこそゾンビのように。

 理由は分からないし正直不可解で不気味だったけれど、助かったといえば助かった。

 訝しみつつも私は風に背中を押され、街を後にしたのだ。


 そして、気まぐれな風に誘われるままに、私は街の近くの森へと足を踏み入れていた。


(こっちよ、こっち)


 昼過ぎにも関わらず薄暗い深淵の森の中、私は風に引っ張られて走る。

 身体がただ軽くて、恐怖さえ感じなかった。

 縺れるように足が前へと踏み出して、転がるように走っていくだけ。

 何だか不思議な心地。だけど悪い気分ではなかった。


「どうして、貴女はチェシャ猫の居場所なんか?」

(聞こえるの。鼓動が)


 私の問いに、風が耳元でさらさらと囁く。当然とでも言うような口調だった。

 けれど、鼓動、というのは、決して解らないこともない。

 勿論私には鼓動なんて感じられないけれど、感覚的には解る。チェシャ猫の鼓動が、彼女には感じられるのかもしれない。

 チェシャ猫の居場所なんてまるで分からない私は、きっと彼女に任せるしかないだろう。

 ――そもそも今さら、引き返せるとも思えないし……。

 私は何も言わずに頷いて、招かれるままに深い森の最奥へと駆けていく。


 ただ『チェシャ猫に会いたい』という単純な衝動が、私を慟哭のように責め突き動かしていた。





 ――そうして一体、どれくらい走っただろうか。


 そう感じる頃には軽かったはずの身体もひどく重く、足も硬直して正に棒のようになっていた。

 きっと時間にしてみれば、大した時間ではなかったんだろう。

 けれど、運動なんてまるでしないこの身体だ。

 週一の体育以外ではまるで鍛えられていない身体は、既に限界を訴えている。


(大丈夫? ありす)

「だ、大丈夫じゃな……っ」


 息も絶え絶えに膝に手をつき、ぴりっと走った喉の痛みに思わずげほげほと咳き込んだ。

 あの長い距離を全力で疾走すれば、そりゃあそうなるだろう。

 涙目になりながらも何とか呼吸を整えると、私は、取り巻くようにそよぐ水色の風に視線を向ける。


「そ、それより……、チェシャ猫、は? まだ走るの?」


 心臓のあたりをぐっと押さえながら、私は聞く。視認することはできないのでどこに向けて言葉を放てばいいのか分からないけれど、感覚的には大体分かる。風を感じるのだ。

 するとふよりと風は木々に阻まれた空へと舞い上がって、何かを待つように虚空に舞い始めた。

 鼓動を、感じているんだろうか。私が足を休めようと屈み込んで待っていると、風はようやく、緩慢な動きで私の元へと降りてきた。


(そこにいるわ。すぐ、そこ)

「本当!?」

(ええ。でも――あっ、待って)


 私は風の制止も聞かずに、真っ白になった頭に『すぐそこにいる』という言葉だけを刻み込んで再び走り出した。


(ありす!)


 遠くなっていく声なんて、もう私の耳には届かずに。


 ――チェシャ猫、チェシャ猫、チェシャ猫! どこ?


 私の腰ほどまである生い茂った草の群れをかき分けながら、乾いた喉の代わりに心の中で精一杯に叫ぶ。

 勿論返事なんて返ってくるわけもないし、たとえ返ってきたとしても彼が私に見つけられることを望んでいるとはとても思えなかった。だってもしもそれを望んでいるのなら、こんな森の奥深くまで身を潜めたりしないはずだもの。

 チェシャ猫は天の邪鬼だから、絶対とは言えないけれど。

 でも、馬鹿みたいっていうのは多分、分かってたはずで。だけど止められない衝動が溢れ出すのを、私はひしひしと感じていた。

 だってとても、どうしようもない。こんな気持ちなんて。


 だから私は自分の行為を正当化して走っていた。

 直感が告げる、会いたい人がいる方へと。

 でもきっと、それがいけなかったんだと思う。あの時風の声を聞くべきだったって、後でいくら反省や後悔をしたってもう戻らないように。


 私はそして、連なる事象を全て悔やみ嘆くだろう。



「わたしが貴方の“アリス”になってあげる――わたしが貴方に、名前をあげる」



 私は、見てしまったのだ。


 そこには、私の知らない顔をしているチェシャ猫がいて。

 そして黒髪黒目の、まるで私にそっくりな、だけど明らかに私じゃない少女がいて――



 二人が優しく愛おしく、まるで恋人さながらに唇を交わしているのを。










 いつか貴方が、私を裏切るのなら。


 どうか最初から優しくしないで、愛さないで。


 哀しいのはきっとね、貴方のくれた愛が余計、貴方の裏切りを残酷にしてしまうことだから。




泥沼化を切実に所望します(^q^)白邪です。

当分は他の更新よりもアリスに力を入れていきたいと思っています。理由は暇があったら活動報告にでも。

と。今さら読み返して呆然。

何だか展開がありきたりなんですが……、うーん。精進します。

次回はたぶん久しぶりなあの人の登場です。

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