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第40話 私という存在

いつも言いますが、更新遅れてすみません……><

「ごめんね……、アリス」


 いつもの優しい口調で、ヤマネ君は謝った。

 困ったように笑って、私を見つめる淡いピンクの瞳。


「う、ううん。ヤマネ君が謝ることじゃないよ? ヤマネ君は悪くないもん」

「違うよ……、僕が……悪いから」


 ふるふると首を振って、ヤマネ君は俯く。

 あれ、……逆に落ち込ませちゃった?

 私は別に傷付いてもいないし、立ち直りの早さだけは誰にも負けないもの。

 だから大丈夫、なんだけどなあ。


「気にしないで、ヤマネ君。私、別に落ち込んでないから」

「……アリスは、優しいね……」


 私が元気づけるように言うと、彼はようやく笑ってくれた。

 か、かあいい。

 相変わらず殺人的な可愛さを誇ってますね。ハイ。


「わ、私は別にそんな大層なものじゃないよ? 優しくなんてないし」

「ううん、アリスは優しいよ……。ありがとう」


 ふわりと微笑まれたら、くらっときて。

 絶対ヤマネ君の方が優しいのに、私なんてヤマネ君に比べたらよくいる近所の意地悪なオバサン並みに優しくないよ。

 なの、に。


「アリスは誰にもない優しさを持ってる……、だから『アリス』なんだよ」


 ヤマネ君はそう言って笑った。

 アリスって……、私が誰にもない優しさを持ってるから、アリス?


「あの、それって……」

「代々のアリスはみんなそう……、明るいアリスもいれば、無口なアリス、人嫌いのアリスだっていた。短気で、自分勝手なアリスだっていたんだ……。でもみんな……、とても純粋きれいだった」


 純粋きれい……。それって、私も?

 みんながそう思ってるのなら、それは多分間違い。

 私は、きれいなんかじゃないもの。

 みんなの方が、よっぽどきれい。


「彼女が純粋きれいだから……、純粋に、なりたかったから、僕らはアリスをここに招くんだろうね……。純粋になりたくて、ずっと、アリスを――夢見てた」


 それが、彼らがアリスを招く理由?

 ひどくて、哀しくて、――とても切ない願い。


「みんなの方が……、私よりもずっと純粋きれいなのに」

「ううん……、僕らは穢れてるよ。アリスが思ってるよりも……ずっとね」


 そう言って儚く笑うヤマネ君。

 嘘。ここの人たちは、純粋過ぎるくらいに綺麗なのに。

 だからこそ、アリスを夢見たんだと――私は、思う。


「……それから、チェシャ猫のこと……、責めないで、あげてね。あれが……、彼の役目だから」

「役目……?」


 ヤマネ君に言われたからには勿論、チェシャ猫を責める気なんてないけれど。

 それにしても、彼の役目って、どういうこと?


「そう……。チェシャ猫の役目は、いつだってそうなんだよ……。アリスに、教えなきゃならないの」


 この世界のことをね、とヤマネ君は困ったように笑った。

 チェシャ猫が、私に? この世界のことを教える、って。

 今までにそんなこと――あったかも、しれない。


「ただ、彼はちょっとひねくれてるから、素直に教えてはくれないだろうけどね……」


 ああ、確かにそうかも。

 複雑な性格してるもんね、チェシャ猫。素直じゃないというか、何というか。

 私はそう言って、笑った。


「――ねえ、ヤマネ君。お願いがあるの」


 ふと思い出したように、私は言う。


「なあに、アリス……?」

「あのね、できれば私のことは『ありす』って呼んでほしいんだ」

「あり、す……?」


 ヤマネ君は、小さく首を傾げた。

 発音なんて、ちょっとした違いだけれど。

 その溝はきっと大きいでしょう? だからね、そう呼んで、と。


「うん、きっとみんなにとって、私は『アリス』なんだと思う。『アリス』なのかもしれない。でも私は、光野ありすっていう、一人の人間だから」


 ちょっとの間があってから、そうだよね、とヤマネ君は少し悲しそうに笑った。

 その寂しそうな笑顔を見ると、ズキリと胸が痛んだ。

 さすがに無理なお願いだったかな? とも思ったけれど、ヤマネ君は優しく微笑んで。


「うん、いいよ。……ごめんね、僕らが……ありすの、本質を、見ていないから」

「ヤマネ君は悪くないよ! それにね、分かってくれただけで嬉しいの。私が光野ありすとして、存在できるってことが」


 私は、アリスじゃなくて、光野ありすという一人の人間でいたい。

 その思いが伝わったのか、ヤマネ君は受け入れてくれた。

 だんだん、私がこの世界に受け入れられていくみたいで、凄く嬉しい。

 今までは、自分の存在が忘れ去られたような――そんな気持ちだったから。


「ありす……僕らの、大切な、ありす。絶対、元の世界に帰してあげるから」

「ありがとう――ヤマネ君」


 凄く心強かった。

 私は独りじゃない。この世界で、ただ独り迷ってるわけじゃないって。

 たくさんの人が、私のことを想ってくれているって、そう―――



 ――決めた。



 私、この国の呪いを――解く。




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