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第31話 夜逃げは脱力気味に

 全身が痛くて、目を覚ます。

 ―――ここ、どこだろう……。

 暗くて、何も見えない。

 どうやら、夜のようだ。

 寒くはない。ベッドの中にいる、らしい。


 ―――何で、私こんなところにいるの?


 しばらく考えて、ようやく答えに行きつく。

 そうだ。私、あの時……


 考えると頭がズキンと痛む。

 私は、誰かに後頭部を殴られて意識を失ったようで。

 後頭部は、まだ痛んでいる。


 あの時からどれくらい経ったんだろう。確かめようにも、方法がない。

 それに、ここはどこなの。

 ふかふかで、豪華なベッド。

 暗くてよく見えないけれど、とても広そうな部屋。

 こんなに豪華……公爵夫人の家? ううん、それはない。

 それなら、もう少し質素な作りだろう。それに……、きっと誰かそばにいてくれている、と思う。


「……お、城?」


 それは最悪の選択肢。でも私が知る唯一の選択肢。

 自分で口にした瞬間、私の中でその可能性は急速に高まった。

 どうしよう。一人でパニックになって、全身が熱くなる。

 逃げたい。ふいに、そんな衝動に駆られた。


 そっとベッドから抜け出し、冷たい床を踏む。

 いつの間にか、裸足になっていた。

 ――靴がないかと探したけれど、それどころか靴下すらも見つからなくて。


「どう、しよう……」


 さすがに裸足じゃ危ないかなとは思ったけれど、そんなことを気にしている余裕もない。

 ええい、このまま行ってやる。

 手探りでドアへと辿り着くと、ドアノブをがちゃがちゃと回す。


 ――いや、回したかった。


 が、回らない。

 外側から鍵を掛けられているらしい。

 逃げないように、ということなんだろう。

 つまり、やっぱりここは城……らしい。

 どうしよう、またしばらく立ち尽くし考えた挙句、私は窓を探し始めた。

 もしかしたら高すぎて逃げられないかもしれないが、っていうかその可能性の方が高いけど、やらずに後悔するよりやって後悔した方がいい。うん。

 自分に言い聞かせて、私は壁を伝っていく。


 ふいに布のようなものが手にあたり、私はそれを引っ張った。

 すると、視界に光が飛び込んできた。

 月光だ。

 その布は、カーテンだったらしい。

 私は窓から下を見下ろす。


「……うわぁ……」


 思わず声が漏れるほどの高さ。

 4階くらいだろうか。

 私は気持ちが揺らぐ。

 どうしよう。飛び降りたら、死ぬよね。

 私は平々凡々な女の子。無駄に運動神経がいい猫とか嫌に過激なスリルを求めている猫とか異常に高い所を跳びたがる猫とかとは訳が違うのだ。


 でも、ここにいたって、きっとどうせ同じこと。

 何故か私は、この城にとどまるよりもいっそ飛び降りて死んだ方がいい気がした。


 私は覚悟を決め、窓を開ける。

 3階から飛び降りたことだってあるんだ。大丈夫。

 グッと身を乗り出すと、私は夜空へと飛び出した―――


「えいっ!」


 身体が一瞬ふわりと浮いて、そして落ちていく。

 風が全身にふきつけ、今までの人生が頭の中をぐるぐる回っていた。

 地面はどんどん近くなり、感覚だけは研ぎ澄まされていく。

 ああ、本当に死ぬのかなぁ――なんてぼーっと思っていると、突然視界がグラリと揺らぎ、身体が宙で止まった。


「……え……?」

「あーあー危ないなぁー」


 聞き覚えのある声に身体を捩って見上げると、そこにはいつだったかのM男が。


「いやあああ出たああああ!!」

「静かにしてよぉー、城の連中に気付かれちゃうよー?」


 全く緊張感のない声で笑うグリフォン。

 でも、私はそれどころじゃない。


「あ、あんたっ、どっから……っ」

「ひどいなーその扱いー。せっかくお城から助け出してあげようと思ってたのにーってか一応本当に助けてあげたのにぃー」


 あそこやっぱり城だったんだと思いつつ、私はまだ警戒を解けずにいた。

 助けてくれたのはありがたいけれど、でも、こいつってさ……あれだし。


「ど、どこに連れてくのっ!? まさか、またっ……」

「ご主人のところには連れてかないよ。安心して」


 くすりと笑うグリフォン。

 ……何だ、普通に笑ったら格好良いんじゃん。

 って。そういうこと考えてる場合じゃない!


「違うなら、どうする気……?」

「さあねー? それより、アリス、自殺する気だったのー?」

「え? え、や……」


 さっきのを自殺願望ととったらしいグリフォン。

 別にそういうわけじゃないんだけど。


「でも分かるよー。俺もたまに自殺したくなるもん」


 や、おい。

 待てやこら。何だその『うんうんそういうことある』みたいなノリの話は。

 そういうことあっちゃ駄目だろ。そういうノリで言うな。


「じゃあー、とりあえず行きますかぁー」

「ど、どこによ!?」

「どっか適当なとこー」

「お前の頭の中が一番適当だ!」

「あ、じゃあそこ行くー?」

「待てや!」


 そんなやり取りをしながら飛んでいく。

 ……不思議と、怖くはない。

 信じていいのだろうか。とりあえずこの状況じゃどうしようもないし、私は大人しく従うことにした。


「じゃあ俺の頭の中へれっつらごー」

「行けねえよ!」


 ……信じて、いいのか?




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