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第26話 生と死の狭間で

「ここにいたか……」


 ついに、見つかってしまった。

 目の前には、どうやっても敵いそうのない大男が一人。

 こっちを、睨んでいた。


「さあ、アリス、来てもらおうか。抵抗さえしなければ、そこの二人も殺す気はない」


 そう言われた時点で、私の覚悟は決まっていた。

 死にに行くような気持ちで、私はそっと頷く。

 頷けば最後だと、何もかも終わってしまうと思いながら。


「アリス! 駄目だよ!」

「僕らは君を―――」

「うるさい。黙れ、殺されたいのか?」


 男の気迫に押され、ディーとダムはグッと押し黙る。

 それでも負けず、二人は顔を上げてまた口を開いた。


「僕らは死んでも!」

「アリスを渡さない!」


 私は心の中でひっそりと涙を流した。

 ―――ありがとう、二人とも。

 でももういいんだよ。

 誰かに傷付いてほしくない。

 心が麻痺したように、終わりたいとだけ何度も思っていた。


「ディー、ダム……駄目だよ。私なら、気にしなくていいから」


 自分の口から出たのは、驚くほど優しい声。

 視界がぼやけている。

 泣いているんだな、と自分で分かった。

 同じように、ディーとダムの大きな藍色の瞳にも、涙が浮かんでいた。


「……早く来い。そのガキは置いてな」

「……分かり、ました」


 何故か丁寧な口調でその男に従う私。

 二人に向かい、バイバイと声は出さずに口を動かして伝える。


「アリ……ス」

「やだよ……」


 みんながどうなってるかなんて知りたくない。

 私のせいで死んだなんて信じたくない。

 私が逃げたりしなければ、きっと誰も傷付くことはなかったのだろう。


 せめて、二人だけでも助かって。


「そんなの駄目だよっ!!」

「僕らは、アリスを護るんだ!!」


 二人はそう叫んだかと思うと、がし、と私をつかんで引き戻した。


「え……?」


 何で、と言おうとして、ディーとダムの目から涙が零れ落ちているのが見えて心が痛む。


「……死にたいか」

「アリスは死んだって渡さない!」

「アリスは自分の世界に帰るんだから!」


 二人は、黒く光る銃を男に向ける。

 簡単に人を殺せる、何かを“護る”には重すぎるモノ。

 男の身を案じたわけではない。

 でも、やめて、と言おうとした。二人が傷付くかもしれなかったから。

 けれど、声が出なかった。


「僕らの命に代えたって!」

「アリスだけは護るんだっ!」


 銃が、火を吹く。

 その音はとても近く、怖かった。けど。

 それ以上に、無表情で立っている目の前の男が怖かった。


「……ふん」


 男は、いとも簡単にそれを避ける。

 でも双子は撃つのをやめない。

 何度も銃声が響く。


「どうせ、女王様に引き渡す気なんでしょ!?」

「それだけは許さない……ッ!」


 どれだけ撃っても、男には当たらない。

 二人も適当に撃っているわけではなさそうなのに、何故ここまでかわせるのだろうか。


「……死刑、決定だな」


 男が冷たい声でポツリと呟く。

 瞬間、ディーが吹っ飛ぶ。


「……ッ!」

「ディー!!」


 壁に叩きつけられた、ディーの小さな身体。

 私はそれを見ても何も言えなかった。

 ただ、全身が熱くなるのを感じるだけ。


「さぁ、死ぬがいい」


 男が持っているのは、大きな斧だった。

 黒く光る、狂気の塊。


「や……やめてっ!」

「駄目だ。こいつらは、アリスを護ると言った……つまり、女王様に逆らったことになる。よって、死刑だ」


 どうして、こんなゲームだけで人が死ななきゃいけないの。

 やめて。やめて。

 声が出ない。涙はこんなに溢れてくるのに。


「さあ、死ね」


 男は、斧を振り上げる。

 ダムは、青い顔でそれを見つめている。

 多分、動けないんだ。


 こんな所で、終わるの?

 私は、護ってくれた人たちを、ここで見殺しにするの―――…?

 そんなの、嫌なのに。


 誰か、助けて―――…!!



 バンッ!!



「な……っ!?」


 突然響いた銃声に、男の身体が倒れる。

 銃声のした方を見ると、それは窓の方。


「女の子を泣かせるなんて、ジャックってばサイテー」


 ピンクと紫の尻尾を揺らした猫が、口の端を吊り上げてそこに立っていた。




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