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第24話 闇に怯え陰に隠れ

 帽子屋さんは外を見てくると言い残し、もうしばらく前に行ってしまった。

 私はどうにも落ち着かない。

 自分が狙われているのだから当たり前なんだろうけど。

 震えが止まらず、皆に心配そうな顔をされるのが少し情けなかった。


「ぼ、帽子屋さん……どうしたんだろ」


 蚊の鳴くような声で、私はぽつりと呟く。

 そんな言葉も、ミルク君は拾い上げてくれて。


「大丈夫だよ。帽子屋は強いから」


 ああ、でも戦っててほしくはない。

 無事に帰ってきて。

 自分の危険も、仲間の危険も受け入れられない。私は弱虫だ。

 そうよ、でも、わがままと言われても、そんなの絶対に嫌だから。


「ありす……」


 チェシャ猫の声は、少し悲しげで。

 私、何でこんなに震えているんだろう?

 さっきまでの明るい気分は消え失せ、今はただ恐怖や焦り、不安が入り乱れるだけ。


「ねえ、みんな……」


 私が少しでも元気づけようと顔を上げると、突然銃声が響いた。

 誰のオト? 誰が撃たれたオト?

 それはとても鋭く、自分が撃たれたかのような衝撃だった。


「…ッアリス! 逃げよう!」

「もっと奥まで! ほら!」


 ディーとダムが、私の手を強引に引っ張っていく。

 そのあとに公爵夫人もついてきた。


「ほ、他の人は?」

「足止めしてくれるみたい」


 焦りを含む声で公爵夫人が答える。

 それは、ある意味で帽子屋さんの危険を表している気がして。

 彼が無事に戻ってくるのを確認せず、私は安全な場所へ逃げるなんてこと。

 何が怖いのかも分からない。私はただ恐怖を原動力に走っていた。


「みんな……」


 呟いてみても、振り返ることすらできない。

 振り返れば、全てを飲みこむような闇がそこに待っていそうで。

 今も、それから逃げているのだと。

 足がもつれそうになりながらも、私は走った。ディーとダムに手を引かれ。


「この部屋に入って」


 公爵夫人の言葉で入った部屋は、倉庫のような場所だった。

 屋敷の中では珍しく、物が散乱している。


「隠れなさいな」


 言われるがままに、双子と一緒に物陰に隠れる。

 息を殺し、見つからないように。


「こ……公爵夫人は?」

「私はいいの、大丈夫よ」


 にこりと微笑んで、部屋から出ていく公爵夫人。

 何が大丈夫なの。嫌な予感がする。


「アリス……」

「手、冷たいよ」


 ディーとダムも不安そう。

 もしかして、私と一緒にいた方が危ない?

 だって、狙われてるのは私だし……

 近くにいなければ、きっと巻き込まれることもないはず。

 そう思うと、何だかみんなに悪いことをした気がして。


「ねえ、ディーとダムは逃げないの? 私のそばにいなければ、きっと狙われることもないんだよ?」

「何言ってるのさ、アリスのバカ」

「僕らはアリスを護るためにいるんだよ?」


 私の言葉に、頬をふくらませて答える二人。

 その言葉は心からの言葉だと分かった。

 嬉しくて、でもそれがまた悲しくて。

 涙が零れるのが分かった。泣きたくなんかないのに、私の意思とは裏腹に溢れてくる涙。

 心配させたくない、泣いてたらここにいるとバレてしまうかもしれない、それでも涙は止まらない。


「あ、アリス?」

「な、泣かないで」


 二人は戸惑ったような声で私の手を強く握る。

 泣かないでなんて言われても、涙は止まらないよ。

 泣きたいわけじゃないんだから。


「ごめん、ごめんね……」


 私は何に謝っているんだろう?

 泣いていることに? 心配させたことに? それとも、私の味方でいてくれたことに?

 分からないけれど、とても申し訳なくて。


「大丈夫。アリスは、絶対護り切るから」

「それが僕らの使命なんだもの」


 そう、強く言い切ってくれる二人が、とても嬉しかった。




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