第22話 刹那の思い
更新遅れてすみません><
では、22話どうぞ!
ドアを静かに閉めると、曲がり角からすぐに双子が飛び出してきた。
「ねえねえっ帽子屋」
「アリスどうだった?」
二人は早口で喋り出す。
どっちがどっちなんだか、俺には見分けがつかない。
が、アリスは二人の違いに気付いたようで。
二人にとっては何よりも嬉しいこと。双子は、今回のアリスが相当お気に入りなんだろう。
「ちゃんと起きたよ」
「ほんと!? 良かったぁー」
「行っていいかなぁ?」
嬉しそうに言う二人を見ると、本当に彼女が好きだということが分かる。
まあ、この国の住人がアリスを好くのは、当たり前のことだけれど。
それでも、二人からはそれ以上の、彼女個人への好意を感じた。
「いや。起きたけど、今はチェシャ猫と取り込み中だ、行かない方がいい」
「えー、チェシャ猫と!? なおさら行くっ」
「猫と二人っきりなんて考えらんないよ」
「こらこら」
俺は苦笑する。
確かにそれも一理あるが。
彼らも、チェシャ猫については分かっているだろうに。
「猫の役割を変えるようなことは、しない方がいい。アリスが気付くのは猫の助言あってだ、知ってるだろう?」
俺がそう言うと、二人は同じように顔を歪めた。
「それは知ってるけど……」
「ずるいよ、チェシャ猫ばっかり……」
むすっとする二人を宥めて、みんながいる部屋へと戻ろうとする。
すると、二人は突然思いついたように俺の手を取って走り出した。
「いいもんいいもん! それじゃあ僕らは」
「帽子屋で遊ぶことにするから!」
俺で遊ぶ? と、じゃなくて?
何だか将来が不安になるような言葉だが、遊びに付き合ってやるくらいいいか。
それに、二人には我慢してもらったんだ。幼い彼らは、その愛を相手にぶつけずにはいられないと知っているのに。
だから――俺に、何かしてやれるのなら。
……ただ、俺で遊ぶっていうのは勘弁な。
みんなが集まる大広間の前を歩いていた俺達の耳に、部屋の中で交わされる会話が届いた。
「ねえ、ヤマネ。どうしたら、アリスは僕のものになってくれるのかなぁ?」
「……その可能性は、限りなく0に近いよ……。アリスはいつだって、僕たちを選んではくれないから……」
ヤマネと、ミルクだ。
何の話だろうと、俺は足を止める。
「何で僕らは愛してもらえないの? こんなに愛してるのに、何で僕らじゃ駄目なの?」
ああ、と俺は俯いた。
―――この国の住人なら、一度は持つ疑問。
“こんなに愛しているのに、アリスは何故自分を選んでくれないのか”
二人の例外を除き、誰もが持つ疑問。
『白兎』と『チェシャ猫』以外が持つ、悲痛な叫び……。
「帽子屋? どうしたの?」
「何で入らないの?」
双子が、不思議そうに俺を見上げる。
この子たちは、まだ……もうすぐだろうか。
その疑問に突き当たるのは。
それが怖くて、可哀想で、とても悲しい。
「……何でもないよ、入ろう」
俺は、二人の手を優しく握り直し、部屋へと入っていく。
何も聞かなかったように。耳を塞げば、傷付かずにいられるなんて。
「あ! 帽子屋、お帰りー!」
そう言って出迎えてくれたミルクは、さっきの声の彼とは全然違った。
いつもの優しい笑顔で、俺を迎え入れてくれる。
悲しい記憶を全て隠すように、全て閉じ込めるような、明るい笑顔で。
「ねえねえミルク、僕たちにも」
「お帰りって言ってよ!」
双子が頬をふくらませて言う。
ミルクは笑い、ヤマネが後ろでぼそっと呟く。
「……お帰り」
公爵夫人も続けてお帰りなさいと微笑む。
嬉しそうに顔を綻ばせた双子は、俺の手を離し、みんなの所へとたったっと駆けていった。
心温まる、優しい光景。
まだ彼らは小さな子供で、『アリス』なんて理解できる年じゃないのに……。
ゲームは、呪いだ。
それは、半強制的に。
―――そう、逆に言えば、アリスさえいなければこの国は平和なんだ。