第19話 銃声は心の叫びをかき消すように
な、何だか色々めちゃくちゃなことになってます……うぼあー。
帽子屋だし戦闘だしで大変です。
誤字脱字、その他間違いがあれば教えて下さいませ。
アリスがいなければ、何してもいいよな―――
そんな無茶苦茶な、って思う人もいるかもしれないが、それはここにいる奴らを信頼してるからだ。
ヤマネもミルクも、何も心配することはない。公爵夫人だって、狙わない限り当たるようなことはないだろう。
じゃあ、この銃が唸るのは、あいつに対してだけだ。躊躇いも消え、奴に向けたのは銃口。
「……何の真似?」
「アリスに手ェ出した奴には、お仕置きが必要かと思ってな」
ドードー鳥には、前々から身の程を思い知らせてやろうと思ってたんだ。丁度いい。
できればグリフォンにも思い知らせてやりたかったが、今日はいいとしよう。とりあえず、目の前にいる奴を徹底的に叩きのめさなきゃならない。
「まだアリスに何もしてないのに?」
「嘘つけ。どうせ放っておいたらまた泣かせるだろう」
「ふーん、そういう風に見てるんだ」
銃口を向けられても、余裕そうに言うドードー鳥。
その余裕がイラつくのだが、怒りに任せて撃っても当たる相手じゃない。
しっかり狙わないと。
「お前は、俺たちの敵だ」
手の中に収まる銃が、二回火を吹いた。
一発目は咄嗟に避けられ、二発目は奴の身体を掠る。
致命傷とまではいかないか……まあ、こんなんで終わるような面白くない奴ではないと知っていたが。
今はもどかしい。アリスのためにも早く排除しなきゃいけないっていうのに。
「……やるね」
その言葉には、銃声で答える。
今度は軽々と避けられ、少し面白くない。
動きを封じるか、先読みしなければ当てられそうにはないな。
そうだな、やるしかない。
「ヤマネ、ミルク」
「……?」
「なになにぃ?」
こいつらはともかく、公爵夫人に血は見せたくないからな。
「公爵夫人連れて、先行ってろ」
「あいあいさー!」
こういうとき、あいつらは素直で助かる。
公爵夫人は不安そうな顔をしていたが、大丈夫だろう。それが俺の心配にしろ、自分の心配にしろ。
ヤマネやミルクには護身用の銃を持たせているし、もし何かあっても大丈夫だ。
それより俺は、こっちに集中しないとな。
「さて、ドードー鳥」
「……何?」
「命乞いは?」
銃口を奴の心臓に向けて笑う。予想通り、奴も笑った。
「するわけないでしょ」
その台詞も予想済みだ。
敵に読まれたらお仕舞いだろ? その心臓めがけて弾丸は飛び出す。
勿論、その弾丸は遠くへ飛んでいく。余裕でかわされたのだ。
でもそんなのは囮、奴が動くであろう方に弾はもう飛んでいく。
が、それもかわされ―――
「ッ!」
ドードー鳥が、こっちへとぶつかるように走ってくる。
一発、拳を頬に食らった。
衝撃と痛みで少しくらくらするが、ここで倒れるわけにはいかない。
威嚇するように一発撃つ。
「お前こそ、やるな」
「それはどうも」
またぶつかってくるドードー鳥をかわし、その背中に向けて引き金を引く。
奴はくるりと回転し、その弾をかわした。
結構やり慣れてるな、こいつ。
普通ならそんなの避けられるはずがない。
少なくとも、この国の奴らは。
あまり撃ち過ぎると弾が勿体ない。早く終わらせなければいけない、その思いが俺を急かした。
「狙って撃ちなよ?」
「余計なお世話だ」
如何にも余裕そうに弾を避けるドードー鳥。
その余裕そうな顔が、イラつくんだが。
でも、その表情ももう消してやる。
俺は銃を握り直し、もう一発撃った。
弾丸が、ドードー鳥の心臓へと飛んでいく。
「何回やったって無駄――」
その言葉も気にせず、撃つ。
勿論容易くかわされるが、そんなのは気にすることではない。
体勢が崩れかけた奴の身体に、もう一発。
それすらもかわしていくドードー鳥に、心臓にめがけ弾丸を、もう一つは足めがけ、ナイフを―――鋭く、突き刺す。
「――ッ!」
まさか足にナイフが飛んでくるとは思わなかったのか、それとも避ける気力もなかったのか、彼の足から血飛沫が舞う。
鮮やかな赤はナイフも、自身も紅く染めた。
「その色が、お前にはお似合いだ」
そう言って、さっと近付く。
右足が使い物にならなくなったため、思うように動けないドードー鳥に。
こいつの悔しそうな表情なんて、滅多に見られるものでもないな。
「じゃあ、お前ともサヨナラだ。……アリスに手を出したのが悪かったな」
ジャキ、と無情な音を立てて銃はそいつに狙いを定める。
この引き金を引くだけで、脆いその塊は壊れてしまう。
「……ねえ、ちょっと待ってよ」
「何だ。言い残したことでもあるのか」
ドードー鳥は両手を上げて話し出す。俺は、銃は下ろさないまま聞くことにした。
「帽子屋さ。いくらここにアリスがいないって言ったって、こんな至近距離で撃てば返り血を浴びるんじゃないの? アリスは、帽子屋が誰かを殺して喜ぶと思う?」
「……!」
余裕の笑みを浮かべながら話すドードー鳥。
確かに、アリスはこんなことをしたって喜ばないだろう……この国の者ではない、普通の少女なのだから。
それどころか、今までのアリスは、俺が誰か殺せば怒ったり、泣いたり、おびえたり――
この国と、彼女たちのいた世界は違うのだ。人の命を奪うのは、きっと、彼女たちを悲しませること……。
「だから、こんなことしても無駄さ」
奴は、俺の隙をつき、さっと逃げていった。
でも、追いかける気にもならない。
ただぼーっと自分の持っている銃を見つめる。
……汚れているんだ、俺は……。
アリスは神聖な存在。
アリスは愛される存在。
アリスは汚してはならない存在……。
俺には、アリスという存在は遠い。
そう知ったのは、ついさっきではなかっただろう?
そう、もっと前――
まだ純粋だった、人を無邪気に傷付けていたあの頃。
あの頃、俺にとって、アリスという存在は……。
...Do you like me?
I love you.
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