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第11話 なにが好き?

 そのお屋敷は、お城よりじゃないけれど大きく。

 豪華で。

 下手したら私という人間より存在感あるんじゃないかと、そんな公爵夫人の家でした。

 意味不明? うん、私も自分で何言ってるか分かんない。


「な……何か、あらゆる意味で……私、場違いじゃナイデスカ?」

「あら、アリス。謙遜しなくていいのよ? あなたは『アリス』なんだから」


 また、その単語。

 いや、だから私はその肩書きを無理やり背負わされているだけであって、別にそんな大した者じゃないのですよ。

 分かってくれという願いを込めて公爵夫人を見たけれど、彼女はにこりと微笑むだけでどうもしなかった。




「アリス、あなたは何が好きなのかしら?」

「へ? は? えっ?」


 屋敷に足を踏み入れた途端、そんな質問をされて私は間抜けな声で答えてしまった。

 後ろから笑いをこらえる声が聞こえる。おいそこ、笑うな。た、確かに今の声はちょっとバカっぽかったけどさ!


「す、好き、好きって……。ナニガデスカ?」


 日本人にあるまじきカタカナ読みをしてしまった。

 気が動転したからってそこまでなるか、と自分で悲しくなる。

 私、穴掘って入っていいかな。


「食べ物の好みよ」

「あっ、……そうですか」


 穴掘ろう。深い穴を掘って、私はそこに入ろう。


「あ、アリス? ちょ、戻ってきて! アリスー!」


 後ろから聞こえる笑い声すらも、私を呼ぶ声に聞こえる。

 恥ずかしさのあまり、私は本当に穴を掘って……。


「アリスー!」


 ……はっ。


「え、えと、私、何を?」

「あなた、今どこかイってたわ」


 ……えーと。


「ご、ごめんなさい」

「い、いいのよ。謝らなくて」


 何か相当ヤバかったよね。

 私は、恥ずかしくなって俯いた。


「あはは、アリスってユニークだねえ」


 ミルク君、あんまりそういうこと言うと、お姉さん本当に穴に入っちゃうよ?


「グッジョブ、アリス」


 ああ、帽子屋さんまで。笑いを堪えるような声で言わないで。

 何もグッジョブじゃないですから。

 恥ずかしさを通り越して悲しくなる。


「それで、何が好きなのかしら?」


 そう聞かれ、さっきみたいな失敗はしないと誓ったアリスさんでした。


「えっと……基本的に何でも食べますけど。ここにどんな料理があるかも分かりませんが、好き嫌いは特にありません」

「あら、そうなの? ふふ、良い子だわ」


 嬉しそうに言う公爵夫人。

 なんとなく、私も嬉しくなる。

 いいこと……なん、だよね?


「アリス雑食ぅ」


 こら、ミルク君。人の幸せを打ち砕くようなことを言うのはやめようね。悲しくなるから。

 それに人間なんてみんな雑食だ。君は人間じゃないっぽいから分からないけどね。


「じゃあ、すぐに用意させるわね。ここで、待っていて」


 そう言われ、豪華な扉が開かれた先は、広い広い食堂のようなところ。

 テレビでしか見たことのないような煌びやかさで、私はいささか躊躇った。


「アリス? 入っていいわよ、緊張しないで」


 くすりと笑う公爵夫人。

 ううう……、でも本当に緊張するんですよ。こんなの、実物を見るのも初めてなのに。

 でも、そこに突っ立っている方がおかしいだろう。

 ってことで、結局足を踏み入れた。

 ……あれ? 帽子屋さんたち、もう座ってるよ。早いね。てか、躊躇いという名の感情はないんですか。


「アリスぅ、僕の隣おいでぇー」

「……ミルクの隣は危ないよ……僕の隣に来て」

「や、一応な。俺の隣のが」


 3人から、同時にお誘いがかかる。

 それより疑問なのは、何であなたたちそんなに離れてるんですか? 仲悪いの?


「アリスは僕のものだから」

「アリスは僕のものだもん」

「アリスは俺のものだからな」


 ……突っ込みたいことありすぎて何を突っ込んでいいんだか分かんないよ。

 最高のハモリをありがとう、うん。


「私は誰のものでもないしそれ理由になってないしためらいもなくそういうこと言うな何でそんな台詞でハモるんだよしかも何気に私の心読んだよね。やめようか、そういうこと」

「……アリス、何言ってるのぉ」


 自分でかまなかったことに感動。以上。


「じゃ、私公爵夫人さんと食べるから」

「ずるい」


 何がだよ、と胸中で突っ込む。口には出さなかったけれど。シンクロはもういらん。

 それより、やっぱり噂通りで――、みんな『アリス』が好きなのね。

 でも、私はそんなのに縛られる気はない。ってことで、却下させて頂きます。


「お待たせ」


 丁度いいところに、公爵夫人さんがやってきた。

 今はその姿が神様にすら見えるよ。大げさ? いやいや。本当にそう見えるんです。


「公爵夫人さん! あっ、あの、一緒に食べましょう!」

「? いいわよ?」


 よっしゃ。

 私は心の中で密かにガッツポーズをした。

 背中に集まる視線が痛くないことはないけど、あの3人のうち誰か一人を選べって方が困る。畜生美形め。いや、悪いわけじゃないけどさ! 公爵夫人さんだって美人だし。

 でも、とりあえずここで戦争が起きるのは嫌だ。うん。


 というわけで、私は公爵夫人さんの隣にちょこんと座った。

 ……月とすっぽんだね、これは。


 まあ、かくして私は幸せになったわけだ。








 ……あれ?

 何か、忘れてる気が…………まあ、いいか。




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