雨の日の招かれざる客
庭を眺めながら記憶の糸を辿る。
モノノ怪はとても恐ろしいものだった。
幼き頃の私にとっては。
それは、ある雨の日のこと。
『怖いひとが居るの』
誰も居る筈の無い庭を指差し、泣きながら訴える娘に母親は少し困ったような顔をした後、
何か良いことを思いついたように人差し指を口に当てて見せた。
『怖いひとはね、入ってもいいよって言わないと入って来られないんだよ』
母親の言葉は不思議と胸に落ち、そんなものなのか。と思い込んだ私は
母親の拵えた団子を満面の笑みで頬張った。
今でもこの時のことをよく思い出す。
特に、こんな雨の日は。
「お嬢、夕餉が出来ましたよ」
遠くで聞こえた従者の声に「今行く」と返事を返し、
再び庭に目を向けた。
紫陽花の奥で揺れるそれに向かって声をかける。
「入ってきちゃ、駄目だよ」