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藍童話  作者: 十浦 圭
2/14

坂を下りる

Twitter上の創作企画「空想の街」(http://www4.atwiki.jp/fancytwon)に参加した作品を加筆修正して纏めたものです。

作中に企画の設定に準拠した表現がありますが、これだけでも読めます。


 北区を走っている少女がいた。朱いワンピイスを翻して石造りの通りを少女は走る。ながいながい坂道に差し掛かった時、つ、と少女の腕から抱えていた林檎が落ちた。アッと小さく声が漏れ、林檎は坂を転がり落ちていく。

 ながいながい緩やかな坂を林檎はおちる。くるくるくるくると回りながらおちる。石に傷つき皮がところどころ剥ける。それでも林檎は止まるすべを持たないから落ちるしかない。ながいながい坂を林檎が落ち切ったのは夜になってからだった。


 母の仕事を手伝う少女は毎日その場所を通る。仕事場と家とをつなぐのはその道しかない。椿の花を両手いっぱいに抱えて、少女がその坂に再び通りかかったのは林檎を落としてから三日後のことだった。

 ながいながい坂を覗き込んで、少女はするりと一瞬眩暈を覚えた。腕の中からスルリと一本の椿が地に落ちる。水色のワンピイスの裾が揺れる。あ、と少女は呟いた。

 椿は落ちていった。時折中に舞いながらふるふると風に揺られながらくるくる踊るように。でも林檎と同じで椿ににも止まる手段などありはしないのだ。花びらが一枚取れ、二枚取れ、夕方にさしかかるころに椿は坂の下にたどり着いた。


 4日後、坂を通りかかった少女はスキップをしていた。右手を空にかざしてみるのは昨日夜店で指輪を勝手もらったからだ。嬉しそうににこにこしていた少女だが、ふと、坂が気になったらしく足を止めた。

 細い指から小さな指輪が滑り落ちた。ああっ!泣きそうな声を少女は上げるが指輪は止まらない。吸い込まれるように坂を転がっていく。

 ながいながい坂を転げながら指輪は落ちていく。チャチな作りの指輪は石に傷つき留め金がずれぼろぼろになっていく。それでも落ちて、落ちて、指輪が坂を落ち切ったのはお昼前のことだった。


 その日から少女は熱を出して寝込んでしまった。小さな体に高熱は辛かった。布団の中でぐずる少女を母親は優しく撫でて、額の布をそっと水に浸すのだった。


 二日後、ながいながい坂の上に少女がやってきた。白いワンピイスを見かけた通行人がいいお洋服だねえ、と声をかける。少女は嬉しそうにはにかんで、突然坂を駆け下りた。少女が坂のふもとに姿を現したのは一瞬後のことだった。少女に影はなかった。


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