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ライン・メーカー  作者: 四国 ヘリ
炭鉱都市アフィスタ 第三地区
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炭鉱都市アフィスタ 第三地区 ⑦

「おし、相棒も見つかったことだし、ここにゃあもう用はねえ。んじゃ、いろいろとありがとな、おっさん」


 と、エルダはそう言って立ち上がる。そして、ラビスと握手したまま――そのままラビスを引っ張って、部屋から立ち去ろうとした。


 が――しかし。


「――お待ちください、エルダ様」


 そう簡単には、逃げられそうにない。


 部屋から出ていこうとする二人……いや、エルダの背中に、声が向けられる。


 身なりのいい男――苛立ちを隠せていない表情をしているその男は、言葉を続ける。


「どういうことか……説明してもらっても、よろしいでしょうか」


「あぁ? 何がだよ、おっさん」


 面倒そうに足を止めて、エルダは顔だけを後ろに向ける。


 どうでもよさそうな視線を、男に向ける。


「説明って、何についてだよ」


「パートナーについて、です」


 男は、声にも苛立ちを含ませる。


「私が何人も紹介したのに……どうして、エルダ様はそんなのを選ばれたんですか。腕力も脚力も体力も頭脳も、そんなのとは比べ物にならないほど優秀な人材はいくらでもいるのに……どうして、そんなのをパートナーに選ばれたのですか」


 ギロリ、とラビスを睨みながら、男はエルダに尋ねる。


 納得がいかないと、そんな感情を顔で語りながら、男はエルダの返答を静かに待つ。


「どうしてって言われても……なぁ」


 エルダは、やれやれというように肩を竦める。


「深い理由とかなくて、うまく言葉にできない直感というか……なぁ、どう答えたもんかな」


「……い、いや、そんなの俺に言われても……」


 唐突にエルダから話を振られたラビスは、たじろぐことしかできない。


 どう答えればいいのか……そもそも、自分はどうすればいいのか、何もかもがわからない。


 ラビスは、今自分がどういう立場にいるのかすら、理解できていない。


「そうだよなあ」


 ラビスの反応を見て、エルダは困ったように笑う。


「いきなりこんなとこ連れてこられて、わかるわけねえよな。そうだよな。よし、それじゃあ色々と話してやらねえといけないことばっかだから、とりあえずここ出てどっかの店で甘いもん食べながら――」


「エルダ様」


 しれっと部屋から出ていこうとするエルダに向けて、男が声色を強めて言う。


「馬鹿にしているのですか、あなたは。せっかくこちらが優秀な人材を用意したというのに……それを無碍にして、何も言葉はないんですか」


「あっただろ、言葉。ありがとって、言ったよな、あたし」


「そうじゃありません。そんなのではありません。私が求めているのは、説明です。どうしてあなたはそんなのを選ばれたのか、どうして私が用意した人材を選ばなかったのか、その理由が知りたいのです。答えてもらえるまで……ここからは、出しませんよ」


 男がそう言っている間に、数人の監督者は素早く移動していた。


 エルダとラビスを逃がさないように、二人を囲うように、彼らは立ち止まって構えを取る。


「答えてください、エルダ様。私は遊びや暇つぶしであなたのために時間を割いたのではないんです。あなたのためを考えて、役に立つ人材を用意したのです。それなのに……あなたは、少し話をしただけで、彼らのことを何も知ろうとせず、私の用意した人材をすべて断った。断って、窓の外に目を向けて……あいつがいいと言って、そんなのをこの部屋まで入れさせて……少しも話をすることなく、そんなのをパートナーに決めた。……納得、できるわけがない。この私の気持ち……わかりますよね、エルダ様」


「わからん」


 男の陰鬱な言葉に対して、エルダはやはり面倒そうに答える。


「いろいろあたしに押し付けるなよ、おっさん。思い出してくれよ、おっさん。そもそもさ、あたし、相棒探してくれなんてさ、あんたに言ったっけ?」


「……何をいまさら。依頼を引き受けられたときに、これは単独では厳しい仕事になると、そう言われたではないですか」


「ああ、それはそう言った。でも、人を用意してくれなんてことは、言ってないだろう。だから、人を用意したのはあんたが勝手にやったこと。そうだろう、おっさん」


「あなたはパートナーを求められていた。だから、私が用意して差し上げたのです。勝手に、ではなく、あなたのためを考えて、やったことなのです」


「いやいや、それを『勝手に』って言うんだろうが。なんというか……まあ、何にせよ、とにかく、あんたはそこまでしなくてよかったんだって。あたしの相棒ぐらい、あたしに捜させてくれよ。確か……こんなこと、言わなかったっけ?」


「この都市の人口をご存知ですか……と、その言葉にはこう答えさせていただきました。加えて、この都市のことを何も知らないあなたが人材を探し回るよりも、この都市のことをよく知っている私が捜して差し上げたほうが効率的だと、そう説明させていただきました」


「ああ、そうだったな。それで勝手におっさん張り切っちゃって、すぐに優秀なのを集めるって言って、何人も使いっぱしりさせて……大変だったよな、あんたら」


 そう言って、エルダは申し訳なさそうな視線を周囲の監督者に向ける。


 監督者達は、その視線に何も言葉を返すことができず……静かに、視線を床に向けてしまう。


 それを見て――男は、さらに顔の皺を増やす。


「……わ、私は、あなたのことを考えて……実際、集めたのは優秀な人材ばかりだった。間違いなく、彼らは誰もがあなたの仕事をサポートするに相応しい人材だったはずだ。それなのにあなたは、彼らに何ができるのかを訊くどころか……『ライン・メーカー』とは何か、と尋ねただけで、その答えを聞いただけで、彼らの協力を断った」


「だって、違ったんだもん、答えが」


「な、何が……違うと、言うのですか。『ライン・メーカー』――それは、運送のスペシャリストのことでしょう。どんな時期でもどんな場所でも、危険な道を通ってでも依頼通りにものを送り届けることのできる存在。その実績を――資格を、持っている者。それが『ライン・メーカー』。そうでしょう、エルダ様」


「そうだな。それは、間違いではない」


「な……ならばなぜ、あなたは私の用意した人材を断ったのですか。彼らは皆、私と同様の答えを、あなたにしたはずだ」


「ああ、そうだ。そんなことをあいつらは答えてくれた。答えてくれて、それは間違いではない……んだが、正解ではなかった」


「……は、はぁ?」


「あたしが求めていた答えではなかった。間違っていなくても、正解ではなかった。だから断った。それだけのことだ」


 エルダのその言葉に、男は一瞬呆れて……再び、苦虫を噛み潰したような顔になる。


「正解……では、その正解とは何なのですか。私が選んだ優秀な人材よりも、そんなのを選んだ理由は……何なのですか」


「言ってもわかんねーよ、あんたには」


 勘弁してくれ、というようにエルダはため息をつく。


 そして、駄々をこねる子供にそうするように、男に向けてゆっくりと言う。




「ラビスのことを『そんなの』と呼ぶような奴には、一生わからないさ」




 ふふん――と、エルダは笑う。


 その笑みを見て、男は……何も、言葉を返せない。


「ん、もういいかな、おっさん。それじゃ、あたしらは失礼するよ」


 通りまーす、などと陽気な声を出しながら、エルダはラビスを引っ張って監督者達の包囲網を突っ切っていく。


 二人を追いかける者は、いない。声をかける者も、いない。




 ラビスは未だに、何がどうなっているのか、理解できていない。

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