表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライン・メーカー  作者: 四国 ヘリ
炭鉱都市アフィスタ 第三地区
11/19

炭鉱都市アフィスタ 第三地区 ④

「……あり? 言葉、通じてない? もしくは間違って変なこと言ってた?」


 未だに助けてもらったという現実を理解できず、ラビスがぼんやりとして何も反応を返せないでいると、女は困ったように眉を顰めた。


「少年、あたしの言ってることわかるかい? さっき道を訊いたときは……あのお兄さんには通じてたっぽいんだけど、ここら辺の言語のヌギラ語って発音が独特で難しいから……自信ないんだよねぇ」


 後半は独り言を呟いているかのような、ぼそぼそとしたか細い声。


 しかしそれでも、自信なさそうな顔つきではあったが、女は続けた。


「よし、も一回訊くけど……大丈夫かい、少年?」


「……え、あ……」


 と。


 ようやく――半ば無意識に。


 ラビスは、言葉を返した。




「す……すみませんでした」




 そう言って、ラビスは体に力を入れて立ち上がり、女から距離をとる。


 そして、ゆっくりと頭を下げた。


「すみません……俺、あの……すみませんでした」


 頭で考える前に、勝手に口が言葉を放っていた。


 言うべき言葉はもっと他にあるはずだった。しかし、ラビスには、わからなかった。助けてもらったことなどなかったから、何を言えばいいのか、わからなかった。


 だから、反射的に。


 よく使っている言葉を、ラビスは女に返していた。


「すみません、すみません……」


 ――第九地区の労働者。


 最も低い身分の生活を続けていたラビスは、点呼の際の返事と、監督者に怒られた際に謝る言葉以外は、ほとんど知らなかった。


 すみません――返すべき言葉は、それだけしか知らなかった。


「……いや、そんな謝られてもな……」


 ラビスの反応を受けて、女は困惑していた。


「もしかして、この地域ではそういうのが感謝の示し方なのか? 普通はそんなんじゃないと思うんだけど……わっかんねえな、この辺の地域の文化ってやつは」


 後半は、独り言を呟くような口調。


 そして、続けて出した言葉も、自分に向けて言っているような、そんな口調だった。


「やっぱこの世界は、まだまだ知らないことばっかだねぇ」


 へへへ、と面白そうに笑いながら、女は姿勢を正す。


 ラビスは――そこでようやく、女の全体像を視界に捉えた。


 年齢は、二十代半ばぐらいだろうか。高くも低くもない平均的な身長。大きくも小さくもない平均的な体格。探検家や冒険家を思わせるようなカーキ色の作業服を着ていて、一目でその使用年季が長いとわかるゴツいブーツを履いている。


 背中には、大きなバックパック。何が入っているのかはわからないが、何を入れても問題なさそうな頑丈な仕様のものだとわかる。


 日に焼けた精悍な顔立ち。


 自信に満ちた目つき。


(……凄いな)


 と、ラビスは心の中で呟いていた。


(こんな……こんなにも活力溢れる表情を浮かべられる人がいるなんて、知らなかった)


(どうやったら……こんな風に、なれるのだろう)


(……どうすれば、そんなに自信を持って生きられるのだろう)


 いつの間にか、ラビスは謝ることをやめていた。


 助けてもらったということすらも忘れて、ぼんやりと女を眺めていた。


 ただただ、目の前の女が……羨ましいと、思った。


「な……何だよ、少年。そんなにあたしのこと見て、何か言いたいことでもあんのか?」


「あ、いえ、その……すみません」


「……ふうん?」


 女は、ラビスの様子を見て首を傾げた。


 それから何か考えるように目線を上に向けた……が、少しして、


「まあ、何はともあれ大丈夫そうだし、いっか」


 と、そう言って、口元に笑みを浮かべた。


 春に吹く風のような、そんな爽やかさのある笑みだった。


「うし。じゃ、あたしは行くわ。あんま無理はするなよ、少年」


 続けてそう言って、女は片手を上げてその場から離れていく。




 その後ろ姿を、ラビスは少しの間、眺め続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ