炭鉱都市アフィスタ 第三地区 ③
二年前のあの絶望――自分の存在は無意味なのだと悟って、現実を理解して、救いなどないのだと痛感して……でも、それでも。
そうだとしても。
今は、そうなのだとしても。
もう少し先……いつか、いつかは、何かがあるのではないのか、と。
心のどこかで、ラビスはふと、思ってしまいそうになる。
(…………お、俺は)
(第九地区の労働者。俺は……道具だ)
(救いなど、ない)
(誰も、救いの手など、差し伸べてくれない)
(……わかっていることだ。学んできたことじゃないか)
(なのに、何で……俺は、どうして……)
と、その先まで――考えてはならないその先まで踏み込みかけた、その瞬間。
がくり、とラビスの脚が、崩れた。
(あ――――)
それと同時に、心の中にあった大きな何かが、一気に崩れていく。
崩れて、折れていく。
(あ……あぁ……)
……ずっと前から、体も、心も、悲鳴を上げていた。
それから目を逸らして、耳を逸らして、耐えてきた。
でも……もう、耐えられそうになかった。
(……ああ、くそっ)
(だから駄目だと……わかっていたのに)
膝が地についた直後、背負っている容器の重さに負け、ラビスは地面に引っ張られるようにして倒れていく。
顔面から、ラビスは地面へと向かっていく。
腕は動かない。動かそうとするだけの心の余裕が、ラビスには残っていなかった。
(……だ、誰か)
そして……そして。
ついにラビスは、その先の言葉を。
思って、しまった。
折れてしまっていたから……思わずには、いられなかった。
(なあ……頼むよ)
(誰か、助けてくれよ……)
思ってはならなかった――願ってはならなかった、その言葉。
その言葉を出してしまったら、築き上げてきた何かが、すべて壊れてなくなってしまう。
もう、耐えられなくなってしまう。
そうなってしまうとわかっていても、ラビスはその言葉を思わずにはいられなかった。
限界など、とうの昔に過ぎていた。
誤魔化して、自分で自分を誤魔化し続けて、生きてきた。
ラビスは、よく耐えてきた。
独りで、必死に、耐えて、生きてきた。
だから――だから。
救いなどないのだと。
希望を持ってはならないのだと。
そう思って、そう悟って、絶望の中にいたラビスには。
地面に落ちる寸前、何が起こったのか。
すぐにそれを理解することが、できなかった。
「――おっ、と」
その声とともに、ラビスの視界の端から手が伸びてきて。
その手が、その腕が、ラビスの体を地面に落ちないように、しっかりと支えた。
紛れもなくそれは――救いの手。
ラビスの体は地面に落ちることなく、しっかりと、支えられていた。
(……え?)
聞こえてきたその言葉は。
それと同時に、視界に入ってきたものは。
すっ、と伸びてきたこの手は。
なんなのだろう。
地面に倒れそうになっていた体を支えてくれている、この腕は。
この温かさは。
一体、なんなのだろう。
(え……?)
幻なのではないのか、と。
夢を見ているのではないのか、と。
ラビスは、誰かに助けてもらったというこの現実を理解することが、すぐにはできなかった。
「おいおい……」
しかし、その声は――幻聴だと思っていたその声は、ラビスの鼓膜を。
心を、震わせた。
「大丈夫かい、少年?」
どくん――と、その言葉に。
誰かにかけてほしかったその一言に、ラビスの心臓は、強く脈を打った。
ラビスは、顔を動かして、消えてしまいそうな意識を必死につなぎ止めて、その声の主へと視線を向ける。
そこにいたのは、一人の女。
優しい瞳を持った、人だった。
それは――幻では、なかった。




