1/19
ラビス・クセナキス ①
自分という存在の無意味さを悟ったとしても、自分以外は誰も何も変わることはない。
その日の夜は強い雨が降っていた。冷たい風も吹いていた。酷い天気だった。だが、体が震えることはなかった。少し前に殴られた頬の痛みも消えていた。何も感じなくなっていた。ただ、目の前の、窓の奥に広がっている温かい家庭の様子に、目を奪われていた。
よく憶えている。
ラビス・クセナキスはその日のことを忘れたことはない。
それは彼が十三歳の時――自分という存在の無意味さを悟った日の記憶。