ボールガール島旅行記
*
二〇一二年の八月、あたしは赤道直下の常夏の島、<ボールガール島>に旅行に行った。彼氏の大悟と一緒に、だ。普段ずっとオフィスで忙しく働いていて、休む間があまりなかったのだが、南の島に旅することで日常を忘れてしまい、快適に過ごすことが出来た。成田から飛行機で五時間弱飛んだところに島がある。大悟も普段は電車やバスばかりで、飛行機などに乗ることは滅多にないようだ。あたしもゆっくりする時間が欲しくて八月のお盆休みを旅行に充てたのである。いつもはずっと会社のフロアに詰め続けていたので。
*
島の空港内で入国審査を終え、日本円をまとまった額、現地のドルと交換すると、空港前のタクシー乗り場でタクシーを一台拾う。そして乗り込み、指定先のホテル名を告げて背凭れに凭れ込んだ。さすがに五時間のフライトとはいえ、疲れる。あたしもだいぶ疲労を覚えやすくなった。女性でも三十代になると、疲れを覚え始める。ずっと窓の外を見ていた。海岸沿いに椰子の木が植えられていて海が青い。今が現地時間で午後三時過ぎだが海の青さは際立っていた。あたしもスマホのカメラで写真を撮りながら、同時に美しい光景を目に焼き付ける。タクシーは直進し、海が目の前に見えるホテルに辿り着いた。ドライバーにタクシー代を支払い、荷物を持ってホテルへと入っていく。建物内でホテルマンと片言の英語で話すと、あっちも了解したらしく、コンシェルジュが客室まで案内してくれた。あたしたちは客室案内人に従い、十二階にある一二〇八号室を目指す。互いに日本からのフライトで疲れてしまっていたので、シャワーを浴びて寛ぐつもりでいた。大悟も早く部屋に行きたいらしい。やはり一定時間飛行機に乗ったので疲れているようだ。予約先の部屋に入っていくと、床に荷物を置き、入浴の準備をする。さすがに辺りが蒸すように暑かったので冷水シャワーにした。冷たいシャワーで浮いていた汗や脂が残らず落ちると思って、だ。体を綺麗にしてしまうとベッドに潜り込み、眠る。互いにその日はセックスをせずにスゥーと寝入った。
*
翌日午前九時過ぎに起き出して外出準備をし、島のあちこちを巡ることにした。体の疲れがあってホテルのダイニングで朝食も一応軽く取ったのだが、やはりまだきつい。島の気候に慣れていないからである。蒸し暑いと胃もパンクしてしまう。本来ならこういったときはコーヒー一杯で済ませるのがいいのだが、食事も取らないと体が持たないので、ダイニングでハムと夏野菜、それに卵が挟まれたサンドイッチを二個食べた。大悟もあたしと同じようにサンドイッチで済ませる。そしてコーヒーを飲み、気分を落ち着けた。胃の中に物が入ったことで幾分気持ちが変わる。部屋を施錠し、キーもちゃんと持ってきていたのでフロントに預け、ゆっくりと外へ出た。さすがに蒸し暑い。これだと否応なしに疲れる。あたしたちは揃って島の名所である滝や自然公園、それに海などに行き、夏の気分を味わった。疲労も収まっていく。通常でも三十℃を優に超える島の気温にようやく慣れたことで。あちこちで写真を撮り続けた。デジカメはまだ容量があったのだし、日本に帰ってからパソコンなどにデータを落とせばいい。島のあちこちをゆっくりと歩き続ける。あたしも思っていた。「いずれまた日常に戻るわね」と。だけどいいのである。この旅行はあくまでバカンスだ。夏の間、暑い場所で過ごすのもいいと思った。いい思い出になる。大悟と一緒にいろんな場所を回り、ホテルの部屋にいるときはベッドに横になって口付けから始まり、絶えず求め合う。ゆっくりと出来ていた。旅行は楽しむものだ。時間も費用も掛かるのだが……。
*
三泊四日の島でのバカンスを終えて、あたしたちは行きと同じく飛行機に乗り込み、日本へと帰り着いた。逆に旅行疲れしたような面もあったのだが、これでいいのである。絶好の気分転換となった。お互い成田から都内の自宅マンションへと帰る。あたしは六本木の部屋へと帰り、大悟は新宿区にあるワンルームマンションへと戻った。それから互いにメールのやり取りなどをしながら、休暇後は会社に出勤する。スマホには常にメールが入ってきていた。可能な限り早く返信する。さすがにこういったところは長年会社勤めしていたので、お手の物だ。どこからでもメールの返信は出来たのだし……。
*
暑さが少し引いたその年の九月、暇を見つけて今年の島でのバカンスについて書き綴った。自宅に置いているノートパソコンを使って、である。キーを叩きながらあれこれと思い出し、綴っていく。別に他意はなかった。単に記録として残す、いわば旅行記として。ずっとキーを叩きながら、島での美しい光景を撮った写真を載せ、いろんなことを書き綴っていった。あたしも確かに職場では嫌な上司などがいるのだが、そういった人間たちを一々相手するほどお人よしじゃない。シカトを決め込むのだった。おそらく大悟も同じだろう。あたしたちは似ているのだった。お互いに。旅行記を一通り書き終わり、誤字・脱字等をチェックして推敲まですると、データをフラッシュメモリに落とし、プリンターで一部印字した。そしてそれを今度彼と会ったとき、渡すつもりでいる。この夏の大切な思い出を綴ったものとして。ずっと残り続けるだろう。あのとき食べた料理の味や、見た光景、それにその光景にオーバーラップした感情の一片一片を残らず書き綴っていたからだ。
*
退屈な日常は変わらずに続く。だけどそれが自然な状態だと思えば済む話だ。別に仕事上で相手する人間が誰であろうと構わない。単に一定時間職場に詰め、仕事をしていればそれでいいからである。ずっと単調だったが、それがあたしや大悟の日常だ。変えようがない。だけど変わらなくてもいい。また来年の夏も二人きりでどこかに旅行に出かけられれば、思い出が増え、旅行記が書き綴れるので。貴重だった。短期間ではあるが、二人での海外の滞在生活の様子を綴ったものとして。
(了)




