私と王子と入部届け
あの時助けてくれた彼
小さい頃に憧れた白馬に乗った王子様に見えた
私は一目惚れした
桜の色
あの、ピンク色の恋は始まる
◆◆◆
一枚の紙を配られた。入部届け。入学してから数日経った。そろそろ決めなければならない。名前書いて判子を押すだけ。自分の手元にある紙は、真っ白なのだ。
凌「決めるのは自分次第だからな。そりゃあ勝手にしたらいい。けどな…無くしたはねぇだろ。正直呆れたぞ。」
弾丸のように飛んでくる台詞。すべてが自分の傷をえぐる。痛い。
柚「だって…。」
凌「“だって…”とか言えるかよ。」
翼「さっきから聞いてたけど、入部届け無くしたのか?」
凌の前の席にいる翼が話に入ってきた。
凌「聞いたら呆れる。」
翼「なになに~?」
凌「近所のガキと河川敷で紙飛行機作って遊んでいたら、入部届けも一緒に飛ばしたらしい。」
翼「え…。」
見たところ呆れた様子だ。普通は大事な手紙で遊ばない。柚葉はファイルに入っていた紙で近所の小学生たちと遊んだのだ。
翼「ま…まぁ、不注意だよ。気づかなかったんだよね?」
柚「完璧気づかなかった。まさか、よく飛んでたのが入部届けなんてね。」
凌「そこは関係ねぇ。ったく、貰いに行ってこい。」
柚「分かりましたよ。行きますよ。後でね。」
ただいま昼休み中。柚葉は教室で昼ごはんのサンドイッチを片手に説教を喰らっていた。
柚「失礼しまーす。東先生ー。」
一階にある職員室に行き、担任から入部届けを貰うことにした。
東t「どうかした?」
柚「入部届けください。」
東t「はぁ?もうないよ。」
柚「ください。」
東t「ない。」
“ください”“ない”の繰り返し。
東t「で、アンタはどこの部に入るのさ?」
入学してから色んな部に見学に行った結果、引き続きバスケ部に入ることにした。軽音部に入りたかったが、掛け持ちしていいか分からなかったから止めた。
柚「バスケ部。」
東t「…ちょっと待ってな。」
引き出しをあさりだして、一冊の雑誌を出した。先生は柚葉を見ながらページをペラペラめくった。
ジィーっと見られると、顔に昼に食べたサンドイッチのソースでも付いてるかと思ってしまう。
先生の両手が柚葉の頬を引っ張る。
柚「いひゃいれす…。」
東t「ごめんごめん。偽者かと思っちゃってさぁ。」
そう言い、放してくれた。正直痛かった。伸びたらどうしてくれるんだ。
柚「何で偽者なんですか?」
東t「実我の凪勢は県内で有名だからね。まさか八坂に来るとはねぇ。もっと上に行けば全国狙えたんじゃないの?」
実我中は男女共に県大会優勝という成績を残している。中でも女子は柚葉が県内でトップクラスのシューターになった。身長は誰よりも低いが、スピードを活かした攻めはチームを勝利へ導いた。
東t「“チームを勝利へ導いた”。アンタすごいね。身長低いのに。」
ちょっとイラついた。自分の身長のことを言われると腹立つ。
東t「あたしは好きだよ。負けず嫌いで諦めの悪い奴。凪勢、歓迎するよ。岡本先生、入部届け分けてくださーい。」
東先生は、近くにいた先生に入部届けを貰いに行った。
良い人なのか悪い人なのか分からないなぁ。あ、この月刊雑誌、中学バスケだ。
東t「はい、名前書いて判子押すだけだよ。もう無くすなよ。」
新たに入部届けを貰った。
柚「ありがとうございます。助かりました。もう紙飛行機にしません。」
東t「OK.それと、バスケ部入部希望者は明日の放課後に体育館集合。体操服かジャージと、体育館シューズかバッシュを用意してねー。」
ヒラヒラ~と手を振って見送られた。
貰ったばかりの入部届けを小さく折り、制服のポケットにしまう。無くさないように。
教室に戻る途中、中庭が目に入った。桜の木が綺麗だ。入学式に見た時は満開だったらしい。散る桜の花びらは雪のようにチラチラ舞い落ちている。歩いたまま見とれてしまう。
どんっ
「きゃっ」
角を曲がると誰かにぶつかった。
しまった!!余所見しすぎた!!
柚「ごめん!!大丈夫!?」
床に散らばった教科書を拾い集める。ちょうど名前が見えた。
【1ー5 藍原麻咲】
麻「大丈夫。こっちこそごめんね。」
言ったら悪いけど、香水してるね。匂いがキツい。ラズベリーだろうか。あと、化粧してそう。
麻「2組のバッチ…。」
この学校は、組が分かるように組番号の形のバッチを襟につけている。学年のバッチもある。
麻「2組にかっこいい人いない?」
柚「かっこいい人?」
麻「うん。髪が白くて右目の近くにホクロがあるの。おとぎ話に出てくる白馬に乗る王子様みたいな人。」
話から聞くと凌のような気がする。けど、白馬に乗るような奴ではない。凌じゃないだろう。
柚「分かんないなぁ。」
麻「名前聞いたんだけど忘れちゃって。それでね…」
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キーンコーンカーンコーン♪
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ちょうど予鈴が鳴った。2組の次の授業は移動教室だ。
柚「次移動だから、またね。」
そう言って教室へ走った。
麻「あ、思い出した。日向凌くんだ。」
「俺が何?」
聞き覚えのある声。見覚えのある姿。銀髪でオールバックみたいな髪型。右目近くにホクロあり。
麻「きゃあああああ!!」
叫んだ拍子に持っていた教科書が全部落ちた。
凌「他人の顔見て叫ぶとか…酷いな。」
麻「ご、ごめんなさいっ!!」
凌「謝ることじゃねぇだろ。ほらよ。」
麻咲が深々と頭を下げて謝っている間に、凌は落ちている教科書を拾い集めていた。それを手渡したのだ。
凌「今度は落とすなよ?」
麻「はいっ!!」
肩に力が入ってしまう。初めてのクラスで自己紹介することより緊張する。
拾って貰った教科書ばかり見ていたからか、凌はいなくなっていた。
カサッ
ん?何か踏んだ?
【バスケ部入部希望者へ
明日、放課後体育館集合。
ジャージ&室内靴持参。
バスケ部顧問より】
もしかしてバスケ部に入るのかな?日向くん、バスケしてそう。スポーツ何でもできそう。
マネージャー募集してるかな?募集してたら是非とも入りたいよ!!日向くんの近くにいたいし!!
麻咲は放課後、急いで入部届けを提出した。
初めまして&こんにちは
鷹羅と申します。
distanceを読んでくださり、誠にありがとうございます。
今回の話は、出会い(?)です。
作者もよく分かりません。(--;)
一番最初の話の最後ら辺でナンパされていた女の子が登場しました。
藍原 麻咲です。
一目惚れした相手は凌です。
その凌を白馬に乗る王子に見えたそうです。
ちょっと乙女な女の子設定です。
次回、部活についてです。
花粉症という敵がやってきました。
皆様、花粉症に負けないでください!!