復活と空間移動
「あなたは…………一体………」
誰かの声が聞こえて俺の意識が浮上してきた。
目を開けると、いつもの無表情で俺を見下ろしている無口少女と手に二つの銃を持った双銃少女の姿が目に入ってきた。
俺が体を起こすと双銃少女はビクッと体をこわばらせてこちらを見ている。
「……あなた、どうもしないんですか?」
俺に話しかけられてると認識するのに少しかかった。目が覚めたばっかりで記憶がはっきりしない。
えーと…………この公園にこの子ときて…………変な生物に襲われて…………この銃を持った女の子に助けられて…………あの生物を倒して安心してたところでいきなりなにかに体を貫かれて………。
そこでハッとして自分の体を見てみた。
そこには傷はなく、服に穴すらあいていない。
「なんだこれ………一体何があったんだ!?」
何がなんだか分からずにとりあえず傍にいた双銃少女に聞いてみた。
「私にも何がなんだか分からないんですよ!」
けれど、なぜか俺以上にに混乱していたらしい双銃少女は俺の問いに対する答えは持っていないみたいだ。
けど、すぐに顔を引き締めてその手を軽く振ったと思うと、銃が一瞬で消えていた。
「すみません、名乗りもせずに……。私はエーテル・ノール。テレフタル王国・総合魔法学院の魔武科に所属しています」
名前以外は全く分からない自己紹介だ。知らない単語のオンパレードだ。
俺が何を言っているか分からないと言う顔をしているのが分かったのか、このエーテル等いう少女は困ったような顔になった。
「聞いたことはありませんか……。やはりここの方たちは……」
俺から目をそらして何かを思案しているみたいだ。
「あのー。エーテルさん?」
俺が声をかけると「あっ」と声を出してこちらに向き直った。
「すいません話し中に……」
「いや、いいんですけど…………それより、何があったんですか?」
さっきから気になっていたのはそれだ。
俺は確かにあのときにもう一体いたあの生物に体を貫かれた。
あの状態で生きてられるはずがない。
「それは私もよく分からないのですが彼女が……」
そこでエーテルさんが少女のほうを見た。
あの子はいつもどおり無表情でこっちを見てるけど………。
「彼女が?」
「……はい」
エーテルさんがやってないのならやっぱりあの子がやったんだろう。
けど、やっぱり本人に確認してみたい。死んで手はずの俺を生き返らせたというのはどうしても信じられない。
「お前が俺に何かしたのか……?」
「…………」
そして少女が何かを言おうとして口を動かしたが言葉を出すことが出来なかった。
少女が言葉を発する瞬間――――――少女はいきなり現れた光の柱に包み込まれてしまった。
衝撃波が飛んできて俺とエーテルさんは吹き飛ばされそうになり、少女は気を失ったようにぐったりして光の柱の中で浮かび上がっていく。
「おい、今度は何なんだよ!」
「私にも分かりません!」
何が起こっているのかわからずに、ただ見ていることしか出来ない。
少女を包み込む光の柱は空のずっと上まで伸びていて端が見えない。なんとなくその柱を見ていると不安感が漂ってきた。
『禁忌の履行を確認』
「えっ?」
突然声が聞こえた。
エーテルさんのほうを向いてみると、彼女も俺と同じような反応をしている。空耳じゃないみたいだ。
『 実行者は名のない世界の代行者』
声は男か女かよく分からないような声で直接頭に響いてくる。
『実行者の消去を開始』
その言葉の後、少女の体が柱とは違う光に覆われていった。
消去?
何を消す?
目の前の少女は動かない。光の中でただぐったりとしている。
死んでいってるように―――違う、消えていっているように。
消えるのはあの子?
だとしたらどうする?
少女が本当に消えていっているとしても俺に何が出来る?
下手に手を出せば今度こそ取り返しがつかなくなるかもしれない。
あの子が消えても困ることはない。もともと全く知らない赤の他人だ。
赤の他人のためにそこまでする義理はない。
正直、少女に聞きたいことがあるのだけれど、リスクを犯してまで聞きたいかと言われればNOだ。
そう考えている間にもどんどん少女が消えていっている。
俺に出来ることはない。
あの子が消えてしまっても俺は日常に戻ってそれで万事解決―――
「なんて……するわけねーだろーがぁーーーー!!」
俺は足を前に出す。
確かにあの子は赤の他人だ。
けど、何があったかは知らないけど赤の他人の俺を助けてくれたらしいあの子をこのまま放っとくのか?
恩は必ず返す――それは俺が昔から実践してきたこと。
今それをしないのは今までの俺を否定するに等しい。
何も出来ないのと何もしないのは違う。
だから踏み出す。
何も出来ないとわかっていても。
手を伸ばす。
目の前の少女に。
「―――っ」
手が光の柱に触れた。
そして、柱が俺も一緒に包み込んだ。
もしかして俺も消えるのか?
けど、俺は行動したんだ。
やらずに後悔するよりはいい。
しかし、俺が消えることなく、急に光の柱は砕けるように消えてしまった。
柱が消えて少女が重力によって落ちてきた。
俺はそれを受け止めた。
少女はまだ目を覚ましていないけれど、息をしている、そこに存在している。
光の柱が消えた後も、少女は眠り続けたままだったけれど確かに生きている。
もう本当にひと段落みたいなので、俺はエーテルさんに色々聞きたかったことを質問した。
「それで、諸々含めて一体なんだったんですか?」
その質問にエーテルさんは少々困った顔になって、
「教えたいのは山々なんですが…………私もよく分からないことが多くて……。それに、知っていることを教えても容易に信じるのは無理でしょう」
それでも、少なくとも俺よりはずっと今の状況に詳しいだろうし、それにさっきの色々を見た後ならどんな話でも信じられる気がするんだけど……。この人、型にはまったタイプなんだな。
「ふむ……手っ取り早く信じてもらうにはその目で見てもらうしか……報告も早くしたいし……だけど、かってにほかの世界の住人を連れて行くのも……けど、何も教えずにこの人が引き下がるとも思えないし……」
エーテルさんは俺に聞こえないくらいの小声で何かを呟いている。
「あなたは、何が起こっているのかを知りたいですか?」
「ああ。あんなことがあって何も知らないってのはさすがに……」
このまま何も知らずに分かれても、色々気になって仕方ないだろうし、何よりこの子の事を知らないわけには行かない。
「仕方がありませんね……。私も分からないことも多いし、手っ取り早く信じてもらうにはこうするのが一番ですね……」
だから、今の状況なら大体のことは信じられるって。
俺が心の中で軽く突っ込みを入れると、エーテルさんは何処からともなく手のひらサイズの何かの装置を出した。
怪訝に思う俺の目の前で、
「魔力認証。簡易空間移動装置起動」
エーテルさんが何かを言うと、その装置から淡赤色の光があふれ出し俺の目の前の空間に穴を作った。 さっきから何度も驚きの展開が繰り広げられてきたけど、今度のもかなり驚くに値するものだ。
「その穴は私が来た世界への道です」
少し誇らしげにエーテルさんは説明してくれた。
え…………私の世界?
俺の唖然とした顔が面白かったのか、エーテルさんは少し微笑んで、
「詳しい説明は後でします。今は私に付いて来てください」
そういうなら、今は深く考えずにこの人についていこうと思って歩こうとすると、寝たままの少女の姿が目に入った。
この子をここにおいて置くわけには行かない。この子に関わる事でもあるし、このままつれていこう。
俺は少女を背負ってエーテルさんに続いて穴に向かって歩いていった。
「ああ、そういえば」
何かを思い出したようにエーテルさんが振り返った。
「私のことはエーテルと呼び捨てで結構です。敬語もいりません。歳もあなたとそう変わりはないでしょうし」
少し微笑みながら、エーテルさん、もといエーテルは穴に向かって入っていったので、送れずに付いていった。
穴の向こうには別の景色が広がっていた――――ということはなく、穴を通ると、そこはあたり一面が淡赤色の光であふれた何もない空間だった。上を見ても、下を見ても、左を見ても、右を見ても、見えるのは遥か彼方まで広がった淡赤色の光が見えてているだけ。
幻想的な場所できれいと言えなくもない。けど、こんなに光が明滅していたら目がちかちかしそうだ。
そんな空間をエーテルは真っ直ぐに進んでいる。道しるべもないのに何で迷わずに進めるんだろ……。
「なあ、こんな場所で道に迷ったりしないのか?」
俺が聞いてみると、
「いえ、この空間で迷うという概念はないんですよ」
「――――?」
「この空間はいわばある場所とある場所を繋ぐ通路のようなものです。しかし、道と言うのとは違います。ただ繋いだ結果生じた空間なんです。繋いだとはいっても空間を繋いでいるので距離と言う概念はありません。これは、特別な装置で作った特定の空間を歩いたと言う行動をある程度蓄積ことである空間からある空間へと移動しているんです。詳しい理論は専門ではないのでよく分かりませんが。」
「…………」
さっぱり意味が分からないけど、ようは『何処を歩くかじゃなく、どれだけ歩くかが関係している』ってことかな?
そのまましばらく歩くと、彼方に入ってきたときと同じような穴が見えてきた。
「あれが出口です」
エーテルが指したその穴に近づいていくと背中で何かが動く気配がした。
「…………」
「よう」
「……おはよう」
周りを確認した後、少女は俺が教えた教えたとおりの挨拶をした。
「ああ、おはよう」
生きているのは分かっていたけど、目を覚ましてくれて正直ほっとした。
「色々聞きたいことはあるだろうけど、今は黙ってついてきてくれるか?」
「……(こくん)」
言葉を出さない返答もちゃんとこの子が生きてるんだと実感した。
「……一人で歩ける」
そう行って、少女は俺の背中からするりと降りて横に並んだ。ちょっとこの子っぽくない反応だな……。
「着きましたよ」
エーテルがそう言って俺たちは穴に到着した。向こうは見えない。
エーテルが穴に入ったのを追いかけて俺と少女も穴の中に入っていった。
さて、穴の向こうの景色はどうなっていることやら。
あんな後なのに結構ワクワクしてるのは不謹慎かな……?