夏のいたずら(エピローグ~恋のプロローグ)
「なぎさ、うんちしちゃったの?」
なぎさがあかりといっしょに森の中から出てきたとき、別の女子が声をかけてきた。
その声に促されるようにカケルがなぎさのほうを振り向いた。カケルはなぎさを思いやり、不安そうな顔をしていた。
なぎさは恥ずかしいのに、爽やかな気持ちだった。カケルを安心させようと、ちょっと恥ずかしそうに微笑みながら、グレーのチュニックTシャツの広がった裾を、ひらりと捲ってみせた。
さっき穿いたばかりの、水色の花柄のビキニショーツに包まれた、彼女の丸くて可愛らしいおしりがカケルの目に鮮やかに飛び込んで、彼は釘付けになった。
なぎさは、自分のショーツ姿をカケルに見せることにもう抵抗はなくなっていた。そして自分がカケルのことを魅了できていると思った。
あかりの処理は手際よかった。
なぎさの服を脱がせやすいよう、まず彼女のサンダルを脱がせて素足で地面に立たせると、あかりはなぎさのうしろにしゃがみ、最初にショートパンツのホックとファスナーを外し、ストンと落とすようにしてくるぶしまで脱がせた。
そして、チュニックTシャツの裾を捲りあげ、それをなぎさの両手に持たせたあと、あふれそうになっているたくさんの汚物を、なるべく彼女の太腿などにこぼさないように、ゆっくりとショーツを下げていった。
ショーツをくるぶしまで下げると、あかりはなぎさのおしりの汚物が落ちないようにタオルで押さえながら、いったん片脚ずつ後ろに歩かせるようにしてショーツとショートパンツから両脚を抜かせ、なぎさを立たせたままタオルを2、3枚使って汚れたところを綺麗に拭き取った。
木立の間からそのシルエットが見える時間は、カケルにとって長い長い時間だった。
もう大人の身体なのに、自分のせいで、結局なぎさは人前で失禁してしまった。
ほんとうに、自分のとった行動は正しかったのだろうか?
「なぎさ、ちょっとだけ歩ける? こっちで着替えよっか。カケルくんはそこで誰か来ないか見張っててくれる?」
カケルはさっき、なぎさを見送ったときの光景を思い浮かべていた。
なぎさの肩をあかりが支え、人目につきにくい森のほうへ歩かせようとしたが、たくさんの汚物をパンツの中に抱えていたなぎさは、姿勢をにわかに変えることさえ難しかった。
両脚を少し開いて、おしりを少し突き出した姿勢のまま、内股で、ゆっくりと、小さい歩幅でぎこちなく歩いていくなぎさ。いつもは綺麗に切れ上がっているはずの、ショートパンツのおしりの割れ目がすっかり盛り上がっていて、縫い目のまわりにかすかなシミを浮かばせていた。
「わるいけど、なぎさのタオル、おしりふき用に使わせて。それからパンツ持ってる? なければ私のカバンに・・・」
次第にあかりの声が森の中にかき消されていった。
「なぎさ、気にしないで大丈夫よ。私、小さな弟がいて、こういうの慣れてるの・・・」
木立の間から、あかりのかすかな声がした。なぎさは、ただ黙っているようだった。
なぎさはいまこうして、子供のように立たされたまま為す術も無く、あかりに世話されている。
これはほんとうになぎさが望んだことだったのだろうか?
もう少し、彼女の気持ちに早く気づいてあげていれば、もう少し、彼女の気持ちを受け止めてあげていれば、彼女がこれほど恥ずかしい思いをしてまで、思いを遂げることはなかっただろうに・・・
カケルは、なぎさが戻ってくるまでの間、不安に苛まれていた。
「なぎさ、僕・・・、ごめん・・・」
カケルは森から出てきたなぎさに駆け寄ったが、どう言葉をかけていいか分からず、涙を浮かべながら、なぎさに謝った。
でも、その涙のわけは、なぎさが、こんな恥ずかしい思いをしてまで、カケルに自分の気持ちを伝えてくれたことが、うれしかったからだった。
「ううん、私こそ、カケルくんを苦しめちゃって、ごめんね」
「そんな、苦しんだのは、なぎさじゃない? 僕があんなこと言ったばかりに・・・」
なぎさは、小声で言った。
「ソフトクリーム食べたとき、きっとこうなるって、分かってたの。おなかが痛くなって、ほんとに不安だったけど、カケルくんが待っててくれて、うれしかった」
「僕も、そうするしかないって・・・。でも、そのためになぎさが、苦しくて、恥ずかしい思いを・・・」
「うぅん、漏らしちゃって恥ずかしかったけど・・・カケルくんにおなかをさすってもらって、おもらしたとき、すごく・・・」
「すごく?」
なぎさは、ためらったあと、思いきってカケルに言った。
「・・・気持ちよかった。カケルくんの前でおもらしできて、長い間、つかえていたものがやっと取れた気がするの・・・」
カケルは涙を浮かべながらも、笑ってなぎさを見つめ、言った。
「今のなぎさも、すごく・・・素敵だよ」
「パンツしか穿いてないから、ちょっと落ち着かない、けどね」
なぎさは、カケルに甘えるように少し両脚を揺さぶってみせた。
「寒くない・・・?」
「少しだけ・・・おなかに手を当ててくれる? カケルくんの手、すごく温かかったから」
なぎさのTシャツの裾から伸びる、いつもよりずっと長い両脚が、穏やかな夕日に映えて、カケルの目にも、なぎさの目にも、とても眩しかった。
(「夏のいたずら」終わり)