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夏のいたずら(してほしかったこと・・・?)

「なぎさ、OKなの?」


「・・・うぅん、まだみたい」



ロッジの廊下でカケルとすれ違いながら、なぎさは微笑み返した。自分のはにかんだ笑顔と裏腹に、カケルの心配そうな表情を感じた。



「なぎさ~、行くよ!」


「うん・・・」



親友のあかりがなぎさを誘う大きな声が、廊下に響いた。


なぎさは、カケルに伝えたいことがあった。しかし、どう伝えていいのか分からなかった。言葉をさがしてカケルを見つめるうち、後ろ髪を引かれるように他のメンバーとともにそのまま玄関へと吸い込まれていく自分がいた。



自分のおなかの張りの状態だと、きっともうすぐ激しい下痢になる・・・


なぎさは、自分の経験からそれが分かっていた。それは夕練が終わってロッジへ帰るまで、間に合わないことを意味していた。


それにもかかわらず、夕練への人の波に流されていく自分がいた。



なぎさは、きっとそのことが分かっているカケルに助けを求めたかった。しかし、言葉が見つからなかった。



《私が練習に行くのを止めてほしい・・・?》


《それとも・・・?》



なぎさは、自分がどうしてほしいのか、分からなかった。


いや、分かっていたのに、それを直視できなかったというほうが正しいかもしれない。



そんななぎさの心を叩くように、刻一刻と、なぎさの腹痛は増していった。



なぎさは、これから起ころうとしていること、それを選択した自分の気持ちを直視する恐ろしさを感じはじめていた。



《怖い・・・》



テニスのボールを追い、打ち返すたびに、徐々に便意と恐怖心が増す中、なぎさはカケルにすがるしかなかった。





なぎさのことが気がかりだったカケルは、夕練の終わる頃から、なぎさの動きが明らかにぎこちなく、時折何か苦しそうにしているのを見逃さなかった。



ロッジへの帰り道、なぎさがあかりと並んで話している声が、わざとふたりの脇を追い越すように通りすぎたカケルの耳に入った。



「おなか・・・、いたい」


「なぎさ、だいじょうぶ? 我慢できる?」


「・・・だめかも」



カケルが振り向き、なぎさのほうに目をやると、なぎさはあかりと話しながらも、おなかに手をやりながら、カケルにしきりに助けを求めるような視線を送った。



なぎさの激しい便意のため、なぎさとあかりの歩みはだんだん遅くなり、カケルとの距離はどんどん離れていった。



カケルは動揺した。歩きながら、どうしたらいいのか悩んだ。





カケルの姿が見えなくなったことで、なぎさはますます強い不安と猛烈な便意に襲われはじめた。



《お願い、私をひとりにしないで・・・カケルくん》



なぎさは苦しみ、心のなかで叫んでいた。





カケルも思っていた。


アイスクリームを買ったときの様子から、なぎさはこうなることを分かっていたのだと、カケルは悟った。だから、彼女はもう、きっと我慢できないはずだ。


そして、なぎさはずっとありのままの自分を、僕に分かってもらいたかった。なのに、僕がしっかり受け止めてやらなかったために、今日なぎさはこんなに苦しんでいるのだと、カケルは思った。


今、自分にできること・・・それは、なぎさに恥をかかせないで、なぎさの思いを遂げさせること・・・そのためには・・・



カケルは気がついた。


カケルは、ロッジへと帰る集団から抜けだすと、道を少し引き返し、道沿いの大きな木の陰に身を潜めた。ほんのしばらくすると、遅れていたなぎさとあかりの姿が近づいてきた。なぎさは見るからに苦しそうだった。





20メートルほど先の木陰にカケルの姿を発見して、なぎさはうれしくなった。カケルは目で合図を送るように、優しい眼差しで自分を見てくれていた。



なぎさは、微笑んで、そして恥ずかしそうに、カケルにうなずいた。



なぎさを襲っていた恐怖心と激しい腹痛が次第に嘘のように引いていき、その代わり、今にもあふれだそうとするような便意が猛烈に高まっていった。



《カケルくん、ごめんね、心配かけて》


《いや、僕が悪いんだ。なぎさの気持ち、しっかり受け止めてあげられなくて》


《私だって、自分の気持ち、分からなかったから・・・》


《ごめん、僕が軽はずみに誘ったばかりに》


《そんなこと言わないで、私が決めたことなんだから》


《そう・・・》


《でも、自分が何をしたかったのか、教えてくれたのは、カケルくん》


《なぎさと話しているとき、ずっと楽しかった》


《私、きっといつかカケルくんに、すごく甘えたいんだって、分かったの》


《なんとなく、僕もそれを期待してた》


《いざとなると恥ずかしくて・・・でも、今はこうするしかないの》


《大丈夫、今のなぎさ、すごく素敵だよ》


《カケルくん、ほんとに・・・ありがとう・・・あ、もうだめ・・・》


《分かった。あとは、なぎさ、しっかり・・・》




「わっ!!」



木陰から大きな声で飛び出したカケルが、横からなぎさの両肩をたたいた。



「きゃっ!!」



なぎさの身体は、悲鳴とともに少しよろめいた。そして、両脚を少し開いて立ちどまった。



”ぎゅるるるrrr・・・”


自分でもびっくりするくらいの大きな音に、なぎさは自分のおなかがまるで合図しているかのように感じた。絶頂のように高揚したなぎさの身体は、もう抑えが利かなかった。そのまま反射的に、そしてほんの少しの勇気とともに、なぎさは下腹部を息ませた。



”・・・ボボッ・・・ボボボッ”


くぐもった音が、静まりかえった森に響き渡った。言いようのない解放感とともに、デニムのショートパンツに包まれたショーツの中で、たくさんの柔らかく温かいものがあふれ、おしりのまわりに広がっていった。それと同時に、なぎさを包み込むように、特有のニオイが立ちのぼっていった。


肌触りがよく、脱いでみなければきっと汚物とは分からないその温かいものは、しかし、ショートパンツのぴっちりとした弾力に阻まれ、息むごとに次々とあふれ出てくる新しいものに押しのけられるようにして、おしりの横や上のほうにまで広がっていくのを、なぎさは感じていた。


そして、そのたびになぎさの身体は少しずつ、少しずつ、楽になっていった。でも、それとは裏腹の、この上ない恥ずかしさが襲ってきて、なぎさの呼吸は乱れ、心は混乱した。



あかりが、そして周りの誰もが、なぎさが失禁したことに気づき、驚いた。



そして、そうさせたカケルを責める声が聞こえた。でも・・・



おしりを少し突き出したまま、心細く立ち尽くしている自分の身体を、いつの間にかカケルが横から抱きかかえ、Tシャツの上からおなかを強くさすってくれるのを、なぎさは感じた。


「カケルくん、わたし・・・ほんとに、うんち・・・しちゃった・・・」


上擦った声でささやくなぎさの耳もとで、カケルが落ち着いた声で言った。


「僕が脅かしたせいだよ。だいじょうぶ、なぎさは何も悪くないよ」


自分の状況をまだきちんと受け止めきれず、今まで目を伏せていたなぎさは、カケルの優しい語りかけに、はにかんだ笑顔でカケルを見つめた。おなかをさするカケルの手が強くなった。



「ぜんぶ、出た?」


まだ腹痛のおさまりきらないなぎさは、かぶりを振った。


「まだ、出る?」


なぎさは、まるで子供のようにこっくりとうなずいた。


カケルはしっかりとなぎさを抱きとめると、彼女のおなかをさする手をいっそう速めた。



”ぎゅうぅぅ・・・”


自分のおなかが、ふたたび暴れだすかのような音をさせた。一呼吸ののち、腹痛がふたたび急激な便意に変わった。



「カケルくん・・・また、うんち・・・出ちゃう」

「いいよ、このまま・・・しちゃって」

「え・・・ぃ・・・」

「約束したでしょ? ずっとなぎさのそばにいるって」


カケルの腕にしっかりと抱かれ、カケルにおなかをさすられながら、彼の優しい言葉に甘えたなぎさは、今にもあふれ出そうとする激しい便意に、ふたたび身体を高揚させ、そして弾けさせた。


「うんっ・・・」


”・・・ビュリュリュ・・・ルリュ・・・ルリュリュ・・・”


なぎさが再び息みだす声とともに、さっきよりも柔らかく、たくさんの温かいものが、おしりのまわりだけでなく下腹部のほうにまで広がっていく音がした。


カケルは、自分のそばで、自分の腕のなかで、なぎさが自分のことを信頼して、おもらししてくれていることが、何よりうれしかった。


「なぎさ、素敵だよ。我慢しなくていいから、ぜんぶ出して」

「うんっ・・・うぅぅんっ・・・」


なぎさは、カケルの胸に顔をうずめながら、ただ今までの苦しさのすべてを吐き出すかのように、そして、今までずっと求めていたカケルの優しさに思いっきり甘えるように、息み続けた。




なぎさのショートパンツの中にあふれているものが汚い物であるとは、そこにいる誰も感じることはなかった。それは甘えたい人にやっと甘えることができた彼女の、愛情表現のように思えたからだった。



あかりをはじめ、周りの人間は、カケルとなぎさの様子を見て、カケルを責めるのをやめた。


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