夏のいたずら(約束のとき)
そんなわだかまりに思いがけなく終止符を打ったのも、やはり夏のいたずらだったとは、そのときまで誰も想像していなかった。
「でも、あぁ、どうしよう・・・、さっきのお昼、冷やし中華食べちゃったし・・・」
サークルの皆と一緒に、高原の街の一角にあるショッピングモールに来たとき、牛乳たっぷりのソフトクリームの写真が並んでいるコルトンを見上げながら、なぎさが隣のカケルにつぶやいた。
「食べよっかな・・・、でも今日、ずっとおなかが張ってて」
「え?」
「お昼もラーメン系だったでしょ。これ以上脂肪分を摂ると、下痢しちゃいそう」
なぎさはカケルに話した。
「ソフトクリーム食べると、たぶん3時間くらい経ったら、私おなかこわしちゃうと思う」
「そうだね、牛乳をがぶ飲みして、あとで下痢したこと、僕もあるよ」
すると、なぎさはカケルのほうを見て、カケルに判断を求めるように訊いた。
「どうしよう、夕練のときに催したりしたら・・・」
「夕練」というのは、テニスサークルでの合宿中、毎日の日課となっている「夕方の練習」のことだった。その場所は、宿泊先のロッジから森の中を歩いて15分ほどのところにあるテニスコートで、そのテニスコートとそこまでの道沿いに、トイレは無かった。
「今食べればだいじょうぶだよ、催しても夕練の前でしょ? せっかくだから食べようよ。」
カケルは、せっかくこの高原まで来て、美味しいソフトクリームを食べないのが損だとばかりに、なぎさに言った。
ためらいなくストレートに誘うカケルの言葉に、なぎさはびっくりして、そしてなぜだか急に恥ずかしそうな笑みを浮かべて、カケルに訊いた。
「もし・・・、そのとき出なくて、夕練で我慢できなくなったら?」
「急いでトイレに走るとか・・・この前みたいに」
「漏らしちゃったら、どうするの・・・?」
「そのときは僕が責任とってあげるから」
「そういえばこの前約束してくれたもんね・・・。ほんと? 約束だよ」
いつもと違う真面目顔でそう囁くなぎさの姿が、このときのカケルには妙に艶っぽく見えた。その理由はまだカケルには分からなかった。
「うん。じゃあソフトクリーム2つ」
カケルは、なぎさの分もあわせてオーダーした。