夏のいたずら(不思議な予感)
夏が近づくにつれ、鮮やかなキャンパスの燃え立つ緑と、素肌の露出が、おぼろげだったふたりの気持ちをより鮮明にしていった。
「あ、いそがなきゃ、いそがなきゃ・・・」
ある日、練習中に催してしまったなぎさは、観客席に座っていたカケルを見つけると、テニスコートから続くコンクリートの階段を駆け上がって、彼の前で慌てたふりをしてみせた。
「なぎさ、どうしたの?」
カケルが興味深そうに声をかけた。
「トイレ・・・おながが張ったと思ったら、急に下痢?みたいな感じで・・・」
なぎさは、テニスウエアのまま軽く足踏しながら、カケルに答えた。
「はやくしないと、あぁ、漏れちゃう」
と言いつつ、なぎさは、無邪気にその場で足踏みするようにはしゃいでみせた。
身体が跳ねるたび、自分のスカートがめくれて白いアンダースコートがチラチラとカケルの目に入っていることも分かっていた。
今にも出てしまいそうな感覚になりながら、そのおしりを包んだ純白のアンダースコートをカケルに見せることで、カケルの気持ちがいつも以上に高揚するだろうと感じていた。そして、そう思うことで、なぎさ自身も気持ちが高ぶっていった。
「あぁ、あのね、なぎさ・・・、話があるんだけど、この間のね・・・」
カケルが珍しくふざけて、なぎさを足止めしようとした。
なぎさは、このままカケルとの悪ふざけに甘えていると、本当にこの場で漏らしてしまいそうな自分に気づき、急に怖くなった。
なぎさは急に真面目顔になると、
「だめ・・・、ごめん、漏れちゃうから、行く・・・」
と言い残して、階段の上にあるトイレへと駆けていった。
トイレを済ませたなぎさが、階段を下りてくると、カケルが声をかけた。
「間にあったかい?」
なぎさは、いつものように明るく答えた。
「あっ、もう・・・、あぶなかった・・・」
「あぶなかった?」
カケルが笑って訊ねた。
「もう、ね、トイレを目の前にしたら、勝手におしりから出てきそうになったの」
「それじゃトイレが空いてて、よかったね」
「ふさがってたら・・・、完全に漏らしちゃってたかも」
なぎさは、いつもと違い、ちょっと勇気を出しながらカケルと話している自分に気がついた。
「そしたら、どうするの?」
カケルの質問に、なぎさはわざとおどけた素振りで答えた。
「そのままトボトボと歩いて、ここに・・・、“カケルく~ん・・・、しちゃった~・・・”って来たら、どうする?」
カケルが言った。
「そしたら、逃げよっかな・・・」
「え~、ひどい!」
「嘘、嘘、そんなことしないよ」
「うんちを漏らしてても?」
「だいじょうぶだよ、なぎさをひとりにしたりしないから・・・」
なぎさは、カケルの言葉にドキッとした。しかし、すぐ気を取り直して、
「ほんと? 約束だよ」
と無邪気に言った。
しかし、それ以降、カケルはその話題を持ち出すことはなかった。そういうカケルの品の良さが裏目に出て、ふたりがそれ以上の仲に進展することはなかった。
自分の心を占めはじめている何かを、カケルに受けとめてもらいたい、そう感じていたなぎさの気持ちは、いつかじれったい「わだかまり」となり、まるでなぎさのおなかが張るように、波を経ながらも次第に蓄積していった。




