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暖かな季節(我慢できる・・・はずなのに)

さっきまで照りつけていた日差しが雲に遮られたかと思うと、木立の間を風が吹き抜けだした。



”いつ言い出そうか・・・”ずっとそう思っていた沙織は、木々たちのざわめきに促される思いで、隣を歩く涼に向かって照れ笑いをしながら、でも目線は伏し目がちに、こうつぶやいた。



「おしっこ、したい・・・」



軽いテニスのあと、のどの渇きを癒すためたくさん飲んだミネラルウオーター。そして食後の冷たいアイスコーヒー。


そして、冷房の効いた帰りのバスに揺られるうち、汗はすっかり引き、代わりに急激な尿意が、沙織の膀胱を刺激しはじめていた。


コテージまでは坂を上って5分くらい。でも今の沙織にはこの上り坂が妙に長く思えた。



「もうすぐそこだよ」



沙織が笑いながらつぶやいたせいか、涼はそのことをあまり深刻に受け止めない様子で、特にペースを変えることなく歩き続けているように見えた。


女子が「おしっこ、したい」なんて、どれだけ勇気を振り絞って言ったものか、もう少し気遣いしてくれてもよさそうなのに、と沙織は思った。


もっとも、歩くたびにずんずんと膀胱への刺激を感じている沙織にとって、これ以上速く歩くことはちょっと難しかったのも確かだった。



「着いたよ・・・あれ、ちょっと待ってね」



涼が鍵をあちこち探してなかなかドアを開けてくれないのを、沙織はもどかしく思っていた。自分がこんなにおしっこしたいのに、どうしてコテージに近づく前に、鍵をポケットから取り出してくれないんだろうと、沙織は不満気だった。


しかし、沙織自身、尿意はかなり高まっているものの、まだ十分我慢できるレベルだと思っていた。



ドアを開けると、暖かい部屋の明るいフローリングの床にやわらかい陽射しが差し込み、きらきらと光っていた。



沙織と涼とは幼稚園のときの幼なじみで、大人になってから再会し、交際を始めてまだひと月ほどだった。いつも積極的なのは沙織のほうで、デートのときは涼にいろいろとちょっかいを出したり、自分が行きたい場所に誘ったりしていた。しかし沙織から見ると、涼の自分への好意は感じられるものの、彼がどことなく気後れしているようで、もどかしかった。



”もうトイレに入れる・・・”


そう安心感に包まれた沙織は、さっきまでの涼の振る舞いに対する仕返しとして、彼を少しだけ困らせることを思いついた。



沙織は、わざと激しい尿意に苦しむふりをして、内股で脚をもじもじさせながら靴を脱ぐと、前かがみのまま二、三歩進んで立ち止まり、


「どうしよう、もう歩けない・・・」


と彼に嘘をついた。




”ほら、早くトイレに行っといでよ・・・”


そう優しく涼にたしなめられるだろうと、沙織は思っていた。



・・・が、涼は、沙織のただならぬ気配にびっくりした様子で、大きな声で立て続けに沙織に問いかけはじめた。


「だ、大丈夫? 我慢できないの?」

「だめ? 漏れちゃう?」


そして涼は、沙織の前にしゃがんで、彼女の両腕をやさしく抱きかかえると、


「ごめんね、沙織がそんなに我慢できないなんて知らなくて・・・」


と、真剣な顔をして沙織に謝りだした。




てっきり涼にたしなめられると思っていたのに、思いがけず涼から、まるで自分が本当におもらししてしまうかのように本気で心配してくれる優しい言葉をかけられ、沙織の気持ちは動揺した。


そのときだった・・・。突然、まだ我慢できたはずの沙織の身体は、なぜか勝手に我慢が利かなくなっていった。



「あっ・・・、えぇっ・・・」


急に下腹部全体が重たくなったかと思うと、何かが勝手に彼女の膀胱を押し広げていくのを感じ、沙織はパニックになって、うつむいて小声で叫んだ。



「ごめんね、沙織のこと、もっと早く気づいてあげられなくて・・・、本当にごめん・・・」


懸命に沙織をいたわり続ける涼の声と裏腹に、沙織は全身に寒気が走り、動けなくなった。



”どうしよう・・・ほんとうに漏らしちゃう!”



沙織はどうしようもできずに、その場に立ったまま、ただうつむいた。自分のデニムのショートパンツとそこから伸びる両脚をじっと見つめたまま・・・


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