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卒業旅行(おしっこしちゃった・・・)

「どうしたの、海斗くん・・・」


トランクから荷物を取り出した紗季がふと振り向いたとき、立ったまま車のドアにもたれ、スキニージーンズの太腿を濡らしながら、靴からたくさんの水をあふれさせている海斗がいた。


「漏らしちゃったの?」


うつむいてうなずく彼の足もとの水はたちまち、アスファルトの上を影のように広がっていった。




「おしっこ、したくなっちゃった・・・」


助手席の海斗がそんなことを口にしたのはここへ着く20分くらい前の山道でのことだった。そこでは車を止められなかったので


「もうちょっとだから・・・」


と一言だけ言って、紗季は走り続けた。海斗はそれ以上何も言わなかった。




《見えないの、海斗くんの愛が・・・》


卒業旅行。ひょっとしたら、それはふたり最後の思い出の旅になる、そんな暗黙の予感があった。


紗季と海斗、ふたりは同級生で交際は長く、互いを大切に思う気持ちは強かったが、素直に心の奥底を打ち明けることができず、これ以上の恋の展開が期待できなかった。


別れると決めていたわけではなかったが、いまのふたりの関係は、間もなくふたりにやってくる卒業や就職といった大きな環境の変化の波に、もろくも崩れ去ってしまうのではないか、そう感じられていた。




《紗季、最近なんだか冷たいし・・・》


晩秋の高原リゾートに決めたのも、いつか行ってみたいとふたりで相談したことがあったからだった。就職したら、この季節に旅行なんてできないかもしれない。


だが、目的地が近づくにつれ、少しずつ気まずくもの哀しい気持ちが募っていったのも、次第に秋が深まりゆく周囲の景色のせいだけではなかった。それは紗季にとっても、また海斗にとっても同じだった。




山脈の頂からは雪雲が沸き立ち、日が傾きあたりを黄色く染め出すにつれ、車の中にも寒気が入ってきた。


《なんとかしないと、だめかも・・・》


まるで今のふたりの状態を暗示するようなカーブが続き、紗季は慣れないハンドル操作の合間に暖房をセットした。しかし、車中の気まずさやもの哀しさも手伝って、身体の冷えは癒されることなく、海斗の尿意を次第にそして確実に高めていった。




コテージのまわりは、すっかり落ち葉に覆われていて、駐車帯だけが綺麗なアスファルトをきらきらと覗かせていた。車をそこに止めると、紗季は海斗の身体を気にかけることなど忘れて、ひとりで勝手に降りて、後部のトランクの荷物を取り出しに行ってしまった。


《やっぱり・・・》


ひとり残された海斗は座席に座ったまま、うつむいた。視線の先にある自分のジーンズに包まれた下腹部をじっと見つめたあと、凜とした面持ちで助手席のドアをそっと開けた。


激しい尿意をかばうように身をかがめながらおもむろに車を降りると、ふと吹きだした風に舞う落ち葉のざわめきと、冷たい空気が彼の身体を包み込んだ。立ち上がったときの姿勢の変化、紗季が構ってくれない心細さ、そしてそれに対しての甘えに似た抗議の気持ち・・・


《もしも、このまま・・・》


そうしたいくつかの条件が海斗の膀胱を強く刺激したことは確かだった。海斗は自分の身体に起ころうとしていることに激しい胸の高鳴りを感じた。そしてまもなく、にわかに高まった猛烈な尿意が、車のほうに向き直ってドアを閉めるまでのほんの瞬く間に弾けて、下腹部からおしり、両脚へと広がる熱い流れに変わったのを海斗は感じた。そこにはまるで、今まで募っていた心のストレスまでが絞り出されていき、全身の力が抜けて楽になっていくような感覚が伴っていた。



《おもらししちゃった・・・》


温かい水がとめどなくパンツの中に広がっていく気持ちよさに身を任せるのと引き換えに、やがて猛烈な恥ずかしさが襲ってくることを予感しながら、それでも彼の身体は解放感を求めて下腹部に熱い流れをうずまかせていった。ドアにもたれたままその場から動けなくなった海斗は、自分の両手のやり場を探した。




「おしっこしちゃった・・・」


そう言ってしなやかな両手を首筋にかざしながら、子どものようにおしっこを漏らしている海斗を見て、紗季はびっくりした。彼の細身のジーンズは、その女性のように丸くてかわいらしいおしりの下の部分から両脚のうしろにかけて、みるみる濡れて光らせていた。海斗本人も恥ずかしいはずだが、紗季のほうがむしろその信じられない光景に衝撃を受けていた。


「海斗くん・・・、えっ・・・、うそ・・・?」


紗季は急いで地面に荷物を置いて海斗のそばに駆け寄ると、自分の足もとにおしっこが広がってくるのも構わずに、彼の細い両腕を抱きかかえた。海斗はうつむいたまま、首筋にあてた両手をゆっくりと胸の前に下ろしていき、紗季は海斗の手を握った。


”ジョォォォ・・・”


その弾みで海斗は、よほど我慢していたのか、ジーンズの中でくぐもった音をさせながら勢いよくおしっこをあふれさせ、裾からだけでなく、おしりや膝からも水を滴らせた。紗季はきっと海斗が安心したのだと思った。


「さ、き・・・」

「いいよ、海斗くん・・・このままぜんぶ、漏らしちゃって」


苦しさから解放された気持ちよさと、派手に失禁おもらししている恥ずかしさとで、ため息に似た声を出した海斗の背中を、紗季はいつの間にか夢中でさすっていた。


海斗と紗季、お互いにとってそれはとても長い時間に思えた。やがて彼の水流が止まると、それまで陽射しに反射してきらきらと光っていたジーンズは、つや消しのような色へと変わった。




「おしっこ・・・ぜんぶ、出た?」


まだ信じられないといった様子の紗季の問いかけに、やっと我に返った海斗は、身体を小刻みに震えさせながら、足もとの大きな水たまりをまだ広げ続けていた。濡れた服が身体に張りついた冷たさを感じながらも、おしっこを出し切ってすっきりした海斗は、目を伏せたまま気持ちよさそうに、そしてちょっと甘えた風にこっくりとうなずいた。



「服、着替えさせてあげるね・・・」


紗季はそうやさしく囁くと、海斗の華奢な背中を押すようにして、コテージのほうへ一歩ずつ歩かせていった。


水をたっぷり含んだスニーカーが、海斗が歩くたび”ぎゅっ、ぎゅっ”という恥ずかしい音をさせながら、あふれ出た水がアスファルトに足跡を残していった。

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