心の束縛(初めての失敗)
急いで階段を上りきって見えてきたトイレの前には、誰もいなかった。ほっとした瞬間、膀胱の筋肉を押し広げていく猛烈な感覚に襲われた。綾乃は、その急激な尿意に身体を対応させる術を失ってしまった。
≪おしっこ、したいかも・・・≫
午後の5、6時間目の学年集会の途中、トイレ休憩の後いったん全員が立ち上がり整列し直したとき、綾乃は自分の尿意がかなり高いらしいのに気がついた。ふたたび体育すわりになると、綾乃はそのことを意識しはじめてしまった。学年集会の議事を聞きながら、一生懸命ほかのことを考えようとするもののうまくいかず、おしっこの意識だけがどんどん膨らんでいった。
綾乃は休憩時間に友達とのおしゃべりに夢中になってトイレに行かなかったことを後悔した。そのストレスや不安がさらに彼女の尿意を増幅させていった。綾乃は集会どころではなくなっていた。
もう少しで終わる・・・その期待に反して、集会の進行が遅く、議事が終わる気配が感じられなかった。この場でおもらししたら・・・綾乃はパニックになっていった。チャイムが鳴っても集会は終わらなかった。
綾乃はためらったあげく、意を決して
「トイレに行ってもいいですか?」
と先生に言ってその場を退出し、トイレへと向かった。
しかし渡り廊下に出て、綾乃はいっぺんに血の気が引いた。1年生の授業がちょうど終わり、渡り廊下やトイレの回りには、かなりの生徒がいた。あのトイレに入って、もし個室が並んでいたら絶対に我慢できない・・・綾乃は思った。
綾乃はパニックで身体が硬直しだすのを感じながら、ひと気のないはずの2年生の階のトイレを目指した。一気に階段を登ったあと、廊下の先に自分が入れるトイレが見えた。
≪よかった・・・≫
トイレの前に誰もいないのを見て、ほっとしたのも束の間、綾乃の願いは叶わなくなった。
そこには、疲れきった身体が猛烈な勢いで高まった尿意に耐えられず、ひたすら身体の気持ちよさに身を任せてしまった綾乃がいた。
ブルマーに圧迫されたショーツの中で、あふれた水流が熱く、踊るように渦巻いているのを綾乃は感じた。それは幾筋にもなって脚を伝い、ソックスはもちろん、体育館履きまでぐっしょりと濡らしながら、足元に水たまりを広げていった。
≪おもらししちゃった・・・≫
自分でもまだ信じられなかった。おしっこ漏らしたのなんて、いつ以来だろう・・・でも、綾乃は不思議と悲しくはなかった。おもらしをしながら、自分がどこか遠くを見ていたような気さえした。きちんとトイレに行かなかった後悔はあるものの、勇気を出して体育館を抜け、一生懸命走って・・・、できる限りのことをして、みんなの前でおもらしすることだけは避けることができた。
しかし、綾乃ははっとした。ブルマーやソックスは紺色で目立たないものの、廊下に広がった大きな水たまりは明らかにおもらししたことを物語っていた。
そこへ偶然、白衣を着た若い男性が通りかかった。理科の非常勤講師で、ふだんあまり話したことのない物静かそうな先生だった。彼は一瞥して、彼女が「失敗」したらしいことと、ブルマーの色から彼女が2年生であることが分かった。
頭が真っ白になり、どぎまぎする彼女に、彼はやさしく言った。
「大丈夫、誰にも言わないから安心して。まだ学年集会終わっていないから、はやく着替えて帰りなさい」
綾乃は、駆け足で教室へ行き、その上からスカートと制服を着ると、自分の荷物を持って、みんなより一足早く家へ帰った。
≪誰かに話してしまったのでは・・・≫
翌日、綾乃はドキドキし、不安を抱えながら学校へ行った。最初は、あの先生が誰かに話してしまい、みんなから自分が「おもらしした女の子」と見透かされているような気がして仕方がなかった。
しかし、その先生は誰にも話さなかった。早退したことも、その日は体育館解散だったため、特に怪しまれることもなかった。おもらしは、綾乃だけの秘密となった。