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心の束縛(旅行の誘い)

「あ、嫌ならいいんだ、別に、無理にって訳じゃないし・・・」



稜との間が急に気まずくなったことに、綾乃は哀しくなった。



≪そうじゃないの、稜くん、ごめん≫



稜からの不意の旅行の誘いが、綾乃にはとてもうれしかった。しかし、にわかに返事ができなかった。そのことで、せっかく誘ってくれた稜のことを傷つけてしまったかもしれない。綾乃は泣き出した。



「どうしたの、綾乃・・・」


「じつは・・・」


「言ってみて」


「あのね、私・・・」


綾乃は、自分が長い時間おしっこを我慢できないこと、特に長時間トイレのないバスや車に乗ると、すぐにトイレに行きたくなってしまうことを正直に話した。


確かに、デートの最中も、綾乃は時々トイレに行くことがあったことを、稜は思い出した。



「だからもし、私と行っても、迷惑かけちゃうし、つまらないかなって思って」


「なあんだ・・・、そういうことだったの? てっきり僕と行きたくないのかなって思って、傷ついちゃった」


「ごめんね」


「それなら大丈夫だよ。途中、たくさん休憩しながら運転するからさ。もし、僕と行くのが嫌で断ったのでなければ・・・、いっしょに行かない?」


綾乃は笑ってうなずいた。



旅の当日、2時間ほどのドライブの途中、稜はさりげなく飲み物やおやつを買うふりをして、時々コンビニや道の駅に立ち寄った。



そのとき決して「トイレ」のことを口にしないのが、稜の思いやりだった。綾乃は稜が買うものを選んでいる間に、トイレに行った。そんな綾乃の表情や仕草がごく普通なのを確認して、稜も安心してトイレに行った。


その後、ふたりは道沿いのカフェでランチを摂った。




綾乃を乗せてカフェをあとにした稜は、残り1時間ほどの道のりを、時間を短縮するために高速道路に乗った。


ふと膀胱の奥が疼く感じがしだすのと同時に、綾乃に不安が襲ってきた。高速道路では、車を降りることができず、しばらくトイレもない、その状況が綾乃の不安をあおった。


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