メッセージ(エピローグ~恋のプロローグ)
ひかるに抱きかかえられながら、みさきは、いままでの不安だった気持ちやわだかまりなどを、ひかるの前ですべて流し出していた。
おしりに広がった温かい感触が、小学校でおもらしした自分を思い起こさせた。あのときはただどうしようもなく、無力な気持ちだけに包まれていた。そのとき満たされなかった思いが、時空を超えて今につながっているのだとみさきは感じた。
ひかるも、みさきの椅子の下にみるみる広がっていく透明な水たまりに、これまでずっと言い出せないまま募っていたみさきの気持ちを見た。そして、それらをしっかり受け止めたいと感じていた。
そして彼も、それを小学校のときに見た水たまりの情景と重ねあわせた。みさきが抱きしめたいほどか弱く、そして可愛らしかった。やっとあのときのみさきに出会えた気がした。
長く続いた水の音がようやく収まると、ひかるは黙ってみさきの両肩を抱え、ゆっくりと立ち上がらせた。
「あっ・・・」
動いてみて、自分のおしりから太腿までぐっしょりと濡れていることにあらためて気づいたみさきは、少し内股にぎこちなく立った。そして、横顔のままひかると目をあわせると、急に恥ずかしい気持ちがこみ上げてきた。
でも、この濡れた感じに、みさきの中で時間が遡っていった。恥ずかしさも、美しい思い出の1ページのように感じられた。
「おしっこ、漏らしちゃった」
みさきは少女に戻ったように、無邪気につぶやいてみせた。あのとき、心でつぶやいたときは絶望に満ちていたが、今は違った。
「みさきは心に穴が空いていたんだね。ふさがった?」
みさきのジーンズのホックをはずしながらひかるが声をかけると、みさきはこっくりとうなずいた。ひかるはゆっくりとみさきのジーンズを膝下まで下げた。
みさきは、今までの不安やわだかまりが消え去ったうれしさのあまり、ひかるの前で無邪気に長い両脚をばたばたと足踏みするようにして、濡れたジーンズを足から外した。
みさきの白いショーツは、おしりの上のほうまでぐっしょりと濡れて肌にはりつき、窓から差し込む光に肌が透けていた。
明るい春色のフリルのカットソーにストールを巻いたファッショナブルな上半身とは対照的なみさきのショーツ姿に、ひかるはみさきを気にかけ、ただ保健室のほうを見遣っていたあのときの気持ちを思い出していた。
「みさき・・・すごく、綺麗・・・」
ひかるは、魅力的なみさきの姿を、忘れないようにしっかりと目に焼き付けようとしていた。
ぼんやりと佇む彼に、みさきが声をかけた。
「私のこと、忘れないって、約束だよ」
「今日のこと、みさきのこと、絶対に忘れないさ・・・時々逢いに行ったとき、また心に穴が空いてたら、こうしてふさいであげる。約束だよ」
「うん・・・」
高揚した彼女の声とともに、ひかるはみさきのショーツをそっと脱がせた。はじめて見るみさきの裸は、日の光に照らされてきらきらと輝いていた。
みさきは、恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆った。
でも心の中で思った。あのときと同じ格好。あのときと同じ濡れた感じ。あのときと同じ恥ずかしさ・・・
でもあの保健室にはひかるがいなかった。
でも今、ひかるは自分の目の前にいる。そしてこれからも自分を守ってくれる・・・
だから、みさきは幸せだった。
(「メッセージ」終わり)




